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わずか4gの国産ブレーキパッド

国内企業であっても製造工程を海外に移すメーカーが多い中、今でも国内製造にこだわっているメーカーも少なからずある。
自転車業界でも然り。

そんな国産製品の中でも、自転車部品では縁の下の力持ち的製品「ブレーキパッド」を作る"Vesrah(ベスラ)"を紹介したい。
製品の良さだけではなく、その実直な開発姿勢に、一人の日本人ユーザーとして素直に応援したい気持ちになった。

Vesrahとは

Vesrahは日本のブレーキパッド専門メーカーのブランド。
海外でのブランド認知が先だったためか、はたまたブランド名の響きのためか、海外ブランドと思われている事が多いが、自転車のディスクブレーキパッドに関しては企画から製造まで日本国内で行われている。(試作品テストは海外含む)

昨今の自転車業界でのディスクブレーキの急激な普及によってVesrahの名を聞く機会が増えた印象ではあったが、とりわけMTBシーンではそのユーザーの多さに驚かされた。

自分はNESTOサポートライダーの黒瀬文也選手を通じてVesrahの中の方と知り合う機会があり、話を聞くうちにどんどん興味持っていった。

ブレーキパッドの重要性

ブレーキパッドは、外からは見えない部品であるが、自転車の基本動作の一つである「止まる」を司る重要部品であり、自転車競技者はブレーキングフィールに拘りをもつ者も多い。
しかしながら、制動力に問題さえなければわざわざ新しいブレーキパッドを試す者も多くない、というのが現実でもある。
かく言う自分も、ブレーキ関連部品はSHIMANO XTRユーザーであるが、純正メタルパッドを長らく使っていた。

しかし、今回Vesrahブレーキパッドを使用する機会があり改めて気付いたことは、「ブレーキは効きが強けりゃ良いというものではない」ということである。

自転車のブレーキパッドに求められる性能は実にシビアであると想像出来る。
乗員体重と自転車重量を合わせても、たかだか70〜80kg程度しかなく、それでいてオフロードユースの場合は路面抵抗も少ない。
それゆえ、摩擦抵抗値の高過ぎるブレーキパッドだと容易にロックしてしまい、コントロールを失ってしまう。

容易にタイヤがロックするというのは一見制動力が高いようにも感じるが、ブレーキングというのはロックする直前が最大効率を得られるので、この一番美味しい「ロック直前」を如何に長く得られるかがブレーキパッド開発のキーポイントではないだろうか。
ロック直前をコントロール出来るブレーキパッドこそが、「効きが良く、コントロール性の高いブレーキパッド」だろう。
Vesrahは正しくそんなブレーキパッドを実現していた。

10日足らずで試作品が届く

Vesrahの中の方と知り合い、自身の使用するブレーキキャリパーBR-M9100(2ピストンXTR)で使用出来るブレーキパッドについて伺った。

Vesrahのブレーキパッドは、バックプレート形状毎に品番が振られており、さらにバックプレート材質やパッド材質(摩擦材)の違いによって"Trail"や"CrossCountry"など制動特性の異なる製品が用意されている。

お話をする内に、BR-M9100に適合するバックプレート形状は"BP-052"であることは分かったが、BP-052には自分が一番気になっていた"CrossCountry-SL"と呼ばれるグレードが用意されていないことも知る。
CrossCountry-SLは、摩擦材はCrossCountryと同じだが、バックプレートを航空機品質のアルミニウムに置き換えて軽量化を図ったもの。

「CrossCountry-SLは無いのか・・・」と残念がっているのも束の間、なんと「作って送ります」とご提案頂いた。
そして、その会話から10日足らずで、非売試作品の"BP-052 CrossCountry-SL"と、比較用の"BP-052 CrossCountry"が送られて来たのである。
(もちろんどのユーザーに対してもこの対応をしているわけではないのでご注意頂きたい。)

正直言って驚異的なスピードだ。
試作品を、輸送期間を除くとたった数日で用意しているのである。
「これが国内製造の強さか」と思うと同時に、このスピード感を持っているからこそ、直向きに良い製品を追い求められるのだと感じた。

正直、もうこの時点でVesrahのファンになった言っても過言ではない。

わずか4gのブレーキパッド

早速ご用意頂いたCrossCountry-SLグレードのパッドからパフォーマンステストを始めた。

そのブランドに魅了されていると「悪いはずがない」という先入観を抱きがちだが、そこは仕事でも開発ライダーを務める立場上、客観的に評価する。

まずは重量測定。
BR- M9100適合のSHIMANO純正のメタルブレーキパッドK04Tiは14g/pair。

これでも十分に軽い。

続いてVesrah BP-052 CrossCountry-SL(非売試作品)。

驚異の8g/pair。
一枚わずか4gである。
もはや持ってる気がしない程に軽い。
私の知る限りだと最軽量ブレーキパッドではないだろうか?

前後のブレーキパッドをK04Tiから置き換えるだけで12gの軽量化となる。

ちなみにバックプレートがスチール製のCrossCountryは15g/pairであった。
K04Tiと同等の重さなので、こちらが重いというわけではない。
CrossCountry-SLが軽過ぎるのだ。

高い制動力とコントロール性を両立

Vesrah BP-052 CrossCountry-SLは軽いだけではなかった。
制動力が高く、コントロール性が非常良い。

今回パフォーマンステストするにあたっての部品仕様は以下の通り。

ブレーキレバー:SHIMANO BL-M9100
ブレーキキャリパー:SHIMANO BR-M9100
ブレーキローター:SHIMANO RT-MT900 160mm

見ての通りXTRで揃えており、ブレーキパッドのみVesrahに変更した。

Vesrahのブレーキパッドは摩擦材がセミメタル(レジン系)であるとのことなので、メタルパッドであるK04Tiと比較すると制動力は劣ると思っていたが、そんなことは全くなかった。
むしろ、ロック直前の一番美味しい部分のコントロール性が非常に良く、握り込めばロックも容易。
「こんな良いとこ取りなパッドあったの?」と思ってしまう程に扱いやすい。
もっと早くからVesrah使っておけば良かったと率直に思った。

なお、CrossCountry-SLの摩擦材はCrossCountryと同じとのことなので、制動特性については同等であると思われる。

気になる点は制動音とパッドの厚み

良いことばかり書いたVesrahディスクブレーキパッドだが、気になる事もある。

一つ目は制動時の摩擦音である。
決して甲高い近所迷惑になるような音ではなく乗員に聞こえるレベルだが、ブレーキレバーを強く握り込んだ際に、「ギュルギュル」という制動音が聞こえる。
音の種類的に好き嫌いが分かれそうな音だな、とは感じた。
自分は特に何とも思わないが。

ブレーキは、運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギーや振動エネルギーに変換することで減速するので、振動がある以上音は発生する。
無音は有り得ない。

そして2つ目はパッドの厚み。
これはCrossCountry-SLだからこその特徴であるが、バックプレートがアルミニウムであるためにK04Tiと比べると0.4mm厚かった。
その分摩擦材は0.4mm薄くなっているので、パッド自体のライフタイムは若干短い可能性はある。

ただし、CrossCountry-SLというかなり尖った製品であるということと、想定されるユーザーが競技者ということを考慮すると、大きなデメリットにはならないのかもしれない。

買って損はないブレーキパッド

BP-052 CrossCountry-SLは今のところ製品ラインナップに無いが、製品化すれば他製品と十分に差別化できる商品だと思う。
最軽量ブレーキパッドだとしたら、それだけで選ばれる要素になりえるだろう。
自転車乗りは「軽量」というワードにめっぽう弱い。

また、数字での比較が難しいブレーキングフィールについても、多くの方に受け入れられるものだと感じる。

商品訴求の難しさ

こうやって製品紹介内容をしていて、外から見えない場所に取り付けられ、かつ性能差を数字で評価しづらい商品の訴求の難しさというのを改めて感じた。
製品外観で差別化出来ず、組み合わせる製品(ディスクローターなど)によって特性が変化する以上、不偏的な数字情報は出しづらい。
だからこそ、「最軽量」のような普遍的なワードが使えると商品価値は一気に高まる。

分かりやすく客観的に製品評価をまとめると、「リピート確定」の一言に尽きるだろう。

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