一次産業の持続可能な発展(1):災害用食料備蓄プロジェクト

1.はじめに

西之表市(種子島全体としても言えます)の経済を大きな視点で見直してみます。離島である種子島では、島の外からお金を稼ぐ産業と、稼いだお金を島内で循環させる産業の2つに大きく分けられます。これらはそれぞれ「基盤産業」(=島外からお金を稼ぐ産業)と「非基盤産業」(=お金を島内で循環させる産業)と呼ばれ、一般的に両者が密接に関わり合うことが望ましいとされています。

2.基盤産業と非基盤産業の考え方

本土地域でも同様の考え方が適用できますが、種子島では物流やお金の流れが海によって物理的に隔てられるため、この基盤産業・非基盤産業の違いがより顕著に表れます。

  愛知県豊田市の例

分かりやすい例として、愛知県豊田市を挙げます。トヨタという強力な基盤産業が豊田市の外(世界中)からお金を集めます。トヨタを支える下請け業者たちが非基盤産業として豊田市内でお金を循環させ、そのお金を求めて様々なサービスが集まり、街が発展していきます。

  種子島における基盤産業と非基盤産業の振興

考えていくべきは、種子島での基盤産業と非基盤産業をどう振興させるか、またこれらをどう密接に関わらせていくかということです。現在、種子島が賑わっているのは、自衛隊馬毛島基地建設の関係者が“お金とともに”種子島に来ており、島内のお金の総量が増えている(=基盤産業として機能している)からです。これから西之表市の基盤産業を強化していくことが、経済振興の第一歩であると考えられます。

  西之表市の基盤産業とは

西之表市の基盤産業として考えられるのは、一次産業(特に安納芋やサトウキビ、畜産、酪農、漁業)や観光業などです。これまで西之表市は「種子島の歴史と文化を活かす」という方針で観光を重点的にまちづくりを進めてきました。しかし、結果的に十分な成果を上げられず、主要な基盤産業には成り得ませんでした。その間、一次産業への施策は十分ではなかったように感じられます。
観光業が主要な基盤産業になれなかった現状を踏まえ、一次産業を基盤産業として振興する方針が現実的ではないかと考えます。

3.災害用食料備蓄プロジェクトの提案

そこで、一次産業の振興策として「災害用食料備蓄プロジェクト」を考案しました。現在、西之表市が備蓄している災害用食料を、全て地元産の一次産品を使用したものに置き換えていくプロジェクトです。

  能登半島地震から学ぶこと

令和6年1月1日に能登半島地震が発生し、この地震の影響で港の地盤が隆起し、船が接岸できない状況になっています。これが種子島全域で起こったらどうなるでしょうか。物流の100%を船で賄っているこの島は、極端な物資不足に陥ります。
この地震で我々種子島人が学ぶべきことは、「できうる限り、食料を島内で調達できる環境を作らねばならない」ということです。

  プロジェクトの詳細

災害用食料備蓄プロジェクトでは、地元の一次産品を市場を介して調達します。仲買人に影響が出ないよう、売れ残ったものを購入します。これにより、農家や漁師は売れ残りを気にすることなく、「作ったら(採ったら)その分だけ収入が上がる」という状況を作り出します。

農家には様々な作物を作ってもらいます。農林水産省が定める指定野菜(キャベツ、きゅうり、里芋、大根、トマト、茄子、人参、葱、白菜、ピーマン、レタス、玉葱、ジャガイモ、ほうれん草の14品目)を中心に、種子島の気候に合ったものを幅広く栽培してもらい、災害用食料として備蓄します。

  備蓄食糧の保管と加工

備蓄した食糧は、現在市が計画を推し進めている冷凍・冷蔵設備に保管します。しかし、生のままの備蓄は難しいため、加工が必要となります。市が購入した食糧を提供し、弁当等に調理して冷凍保存します。この加工については、地元の飲食店に発注することも、新たに起業してもらうことも可能で、産業の一つとして確立できます。
こうすることで、一次産業従事者の収入が上がり、飲食店を中心とした加工業者にも副収入が発生し、新たな起業者も期待できます。

  消費のタイミングと余剰分の活用

「備蓄するばかりで、大きな災害でもなければいつかは市が食料を購入することがなくなるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、消費するタイミングは意外に多くあります。

  • お祭り等での試食・販売:災害用食料の試食を兼ねた販売を実施。

  • 学校給食への流用:備蓄食料を給食に活用。

  • ふるさと納税の返礼品:パッケージ化して製品化。

  • 他地域への支援:災害発生時に被災地へ提供。

  • 社会貢献としての寄付:余剰分を活用。

災害発生時に必要な数を確保しつつ、余剰分は積極的に活用します。そうすることで、半永久的に地元産の一次産品の需要を底上げすることが可能です。

  財源の確保

財源については、再編交付金ではなく高補助率の特定防衛施設周辺整備調整交付金の利用を考えます。一般財源からの支出も必要となりますが、半永久的にこの施策を進めるためには、時限措置のある再編交付金は望ましくありません。多くの利害関係者(一次産業従事者、青果市場、魚市場、農協、地元商店(仲買人)など)と対話を重ね、理想的な制度へと創り上げていきます。

4.おわりに

種子島の経済振興には、基盤産業である一次産業の強化と、それを活用した新たな施策が求められています。「災害用食料備蓄プロジェクト」を通じて、地域の防災力を高めるとともに、経済的な活性化を図ることが可能です。







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