緊急事態条項について考える(荻上チキsession22)


荻上チキのsession22 1/21のメインテーマがとても面白かったので、文字で起こして少しまとめてみました。

ゲスト
「国家緊急権」の著者で、東京工業大学名誉教授 橋爪大三郎さん

・国家緊急権と、緊急事態条項の違い

国家緊急権とは、国民主権の国が持っている権限です。一方で、緊急事態条項は国家緊急権について憲法で述べてある条文であり、文章です。なので、両者は両者は明確に区別されます。

・国家緊急権とは何か

まず、前提として国というシステムについて考えます。
ある特定の地域で同じ集団が集まってグループを作り、それが国家を作ります。この「作る」というのは「権力」という言葉と同義です。
そして国民が権力を発動して政府を組織します。この政府は立法権、行政権、司法権たくさんの権限持っており、その代わり国民は、政府に守ってほしいことを要求します。それが憲法であり、政府を縛るものです。
平時であればそれで良いです。

しかし、緊急状態では平時では対応できないことが起きます。この緊急時とは国民の安全、幸福、権利が深刻な脅威に晒される状態で、助けることができるのは、政府しかいないといった状態を指します。
しかし、国民を助けようしても政府は法律が無いと動けません。なぜかというと、それが憲法のルールだからです。
例えば、憲法に記載されている権利で財産権というものがあります。
これを緊急時でも守って財産を守っていると問題になります。
江戸時代にはかつて破壊消防という消防活動がありました。火事の際に、彼らは、消火活動として火災現場の周囲何件かの家を壊して延焼を防ぎました。これは公共の利益にはかなっていますが、個々の財産権は無視されます。しかし、火事のような緊急の状態では、壊す権利がありました。
江戸時代では、これらの行動はなんとなくのルールでよかったのですが、現代のように憲法がきちんと制定されると、これまでの破壊消防のようなことが勝手にできなくなってしまいました。理由は、もちろん憲法違反だからです。

さて、これらの憲法に反する行動ができるようにするためには、緊急事態法制を作るしかないです。
例えば災害(台風や疫病など)では、国民の行動を一部制限しなければなりません。
なので、それぞれの緊急事態に対して、あらかじめ法律を作っておく必要があります。
なので、大事なポイントは「緊急事態では、なるべくたくさんの法律を作っておく必要がある」という事です。
福島第一原発のメルトダウン問題でも、なんとなく個別に想定していた問題が同時に起きるとは思っていなかったことが問題でした。
法律が想定していない事態になった時に素早く動けるのは政府だけです。
だから、法律で想定していない状態になった時、素早く政府が動いて、対処してほしい、そのためのには多少の無理も仕方がないという論理です。
もう一度整理しておくと、緊急事態で動くのは普通の行政権力、想定外の緊急事態だけに定義されるのが国家緊急権です。
もちろん、うまく緊急事態に関する法律を立法することができれば、国家緊急権は減らすことができます。
しかし、それでも全て減らすのは不可能です。なぜなら、「緊急事態は想定できない」からです。

このように、国家緊急権で定義している緊急事態に関しては、一般的には法律が無い状態で緊急事態が生じ、政府に助けを求めるようなケースを想定するべきでしょう。
では、緊急事態は誰が決めるものなのでしょうか。
緊急事態は本来は主権者が決めるべきものなので、日本では国民が決めるべきです。しかし、国民がみんなで会議を開きことは無理なので、政府に決める事を託します。国家緊急権とは、つまり憲法外の暗黙の合意という概念と考えることができます。この暗黙の合意が意味するところは、主権者である国民が政府をコントロールしないといけないということです。

さて、国家緊急権について、歯止めをかけることはできるのかという問題ですが、これは定義的に不可能です。
なぜなら、歯止めをするためには法律を作らなければなりませんが、法律が想定していないことなので歯止めができないからです。なので、政府が明らかにおかしいことを緊急事態とした場合は、その緊急事態が終わってから政府を罰することが理想的です。

・大日本帝国憲法における緊急事態の対応

さて、時代を遡ってみると大日本帝国憲法においてはこのような緊急事態に関する問題はもっとスッキリしていました。
大日本帝国憲法での主権者は天皇です。憲法には、国民の幸せを守ることが大事ですと明記されていますが、緊急事態には憲法に書いてなくても、主権者がが国民の幸せを守るために努力しなければなりません。
この大日本帝国憲法の第8条には緊急勅令について書かれており、これは帝国議会が閉会している場合では、天皇が法律が関わる勅令をだして、それを憲法代わりとすることができる法律です。
ポイントは、この勅令は憲法に書いてないので、事後に帝国議会が集まってその勅令について議論し、もし問題がある場合は速やかに無効になります。
国民の権力、義務は、戦時や国家事変の場合は停止でき、主権者の権力が最優先されます。
これが、大日本帝国憲法における緊急事態での対応です。

・戒厳令と緊急事態条項の違い

戒厳令は今の日本にはありませんが、この法律がある国は沢山あります。これは国家緊急権と似ているけど少し違っています。戒厳令は緊急時に、行政府と司法府がその行政の一部を軍に預けるということを意味します。
なぜ軍なのかというと、軍は政府機関の中でも一番行動力があるからです。軍は、軍用機や専用の無線によって、インフラが破壊されても動くことができます。また、戒厳令の場合は、「時間」と「場所」を区切るのが大原則です。
ところが、今の日本には軍隊はなく、自衛隊は国内法上は警察扱いになっています。装備は軍なのだけど、能力は警察と同じで、軍がある外国と比べると緊急状態での対応能力は低いです。
これが日本国憲法の一番の欠点となっているので、緊急事態法をきちんと整備しなければならないというわけです。

ゲストの橋爪さんは、憲法に国家緊急権を政府が行使して良いということを書くのは「とてもよく無い」と考えています。
ただし、国家緊急権が存在し、国家がそれを行使するかもしれない、という合意は存在すべきだ、と主張しています。

憲法は国民の幸せを守るものだが、万が一国民の幸せを剥奪していまう場合には、そのような憲法は守らなくて良い、というのが国家緊急権です。なので、国家緊急権は緊急事態が終了した時点で憲法違反となります。
このことから、必要に応じて国家緊急権は使うべきだが、終わった後は、内閣総辞職するくらいの覚悟が必要なものであり、その覚悟が無いのに、憲法を踏みにじってまで緊急権を行使してはいけない、というのが結論でした。

・憲法学者からみた、緊急事態条項

一方、憲法学者の木村さんが、ゲストとして電話出演し、この問題点について述べました。
いま、自民党がやろうとしていることは「緊急事態と認識した場合に、法律と同じ効力を持つ独立命令を政府が出せるということ」ですが、これは、立法権の丸投げと同義であると考えます。

他国に関しては、緊急事態において特別委員会で対応する、もしくは一定の措置を政府に与えるということをやっています。なので、今回の自民党のように立法権を丸投げし、議会の委員会も関与しないのは、ちょっと異常ではないでしょうか。
例えば、法律としては、既に災害対策基本法が存在しています。
なので、緊急事態においては、首相に独裁的な権限を与えるよりも、各自治体での行政能力を高めることから始めるべ気ではないでしょうか。
また、緊急事態法があると、行きすぎた制裁なども可能になってしまう危険性があります。
実際に9.11の後のアメリカ、パリでのテロ後のフランスは、拷問などが気軽にやられてしまっている実態がありました。

・橋爪さんの考え、まとめ

・行政府が立法権を持つのは、まずいだろう。
・検証手続きについても全くふれていないが、これを先に決めることが大事だろう。
・この議論は、今始まったばかりだが、自民党の動きは早すぎではないが?

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