見出し画像

児童福祉法違反について

最近私が取り扱った刑事事件で、児童福祉法違反で逮捕・勾留されている被疑者の弁護をするという案件がありました。

児童福祉法違反の刑事事件対応は初めての経験でしたし、一般の方からしても児童福祉法違反って何やったの?ってなる方が多いと思うので、今回の案件で調べたことや経験したことを記載しようと思います。

1 児童福祉法とは?

まず、児童福祉法ってどんな法律かというと、児童が良好な環境に生まれ、健やかに育つように、児童の福祉を支援する法律です。
要は、社会全体で児童(「満18歳に満たない者」4条)を心身ともに健康に育つように取り組んでいこう、そのために必要なことを規律する法律ということです。

児童福祉法
第1条 全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
第2条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。

2 児童福祉法違反で逮捕等される行為とは?

では、児童福祉法違反で逮捕等される行為ってどんな行為なの?というところですが、上記のような児童福祉法違反の趣旨からして、児童を害する行為がダメなんだろなと予想はできるかと思います。
具体的に児童福祉法では以下のように禁止行為が定められています。

児童福祉法
第34条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 身体に障害又は形態上の異常がある児童を公衆の観覧に供する行為
二 児童にこじきをさせ、又は児童を利用してこじきをする行為
三 公衆の娯楽を目的として、満十五歳に満たない児童にかるわざ又は曲馬をさせる行為
四 満十五歳に満たない児童に戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で歌謡、遊芸その他の演技を業務としてさせる行為
四の二 児童に午後十時から午前三時までの間、戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務としてさせる行為
四の三 戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務として行う満十五歳に満たない児童を、当該業務を行うために、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第四項の接待飲食等営業、同条第六項の店舗型性風俗特殊営業及び同条第九項の店舗型電話異性紹介営業に該当する営業を営む場所に立ち入らせる行為
五 満十五歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせる行為
六 児童に淫行をさせる行為 
七 前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知って、児童を引き渡す行為及び当該引渡し行為のなされるおそれがあるの情を知って、他人に児童を引き渡す行為
八 成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が、営利を目的として、児童の養育をあっせんする行為
九 児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもって、これを自己の支配下に置く行為

この中でも特に重要なのは、「児童に淫行をさせる行為(34条1項6号)」です。
というのも、34条1項1号から5号までと7号から9号までは、法定刑が3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はそれを併科となっている(60条2項)。これに対し、34条1項6号は、10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はそれを併科となっており(60条1項)、非常に重い罰則となっているんですよね…

私が、今回扱った刑事事件も、34条1項6号が問題となった案件でした。

3 「児童に淫行をさせる行為」とは?

「児童に淫行をさせる行為」←この文言を見てどう思いますか?
私は、2点ほど疑問に思いました。

一つ目は、自分自身が児童とエロいことをした時に上記行為に該当するのか?ということです。というのも、「淫行をさせる行為」という文言を見ると、児童を第三者とエロいことをさせるという行為を禁止しているように読めるからです。
つまり、AがBに対して、Cという児童を紹介し、BがCと性的行為をしたという事案において、Aの行為は「児童に淫行をさせる行為」に該当する、となるのではないかと思いました。

二つ目は、青少年健全育成条例との関係です。
各都道府県ごとに青少年健全育成条例が定められており(大阪府では「大阪府青少年健全育成条例」といいます。)、「性行為またはわいせつな行為」を行うことを禁止しています。条例では、大阪府の場合、罰則が2年以下の懲役又は100万円以下の罰金と定められており、34条1項6号とは罰則とは重さが違うことから、どのように峻別するのかという点に疑問を感じました。

これらの私の疑問点に関する判断を示した最高裁判所の判例があり(最高裁平成10年11月2日判決)、私なりにポイントをまとめてみました。

① 「児童に淫行をさせる行為」という規定の文言上、行為者以外の第三者(上の例でいうとB)と淫行をさせる行為と行為者自身(上の例でいうとA)と淫行をさせる行為両方が含むと読むことができる。

② 児童福祉法の基本理念や同法34条1項6号の趣旨目的に照らせば、同号にいう淫行の相手方が行為者以外の第三者であるか、それとも行為者自身であるかは、児童の心身に与える有害性という点で、本質的な差異をもたらすべき事項とは考えられない。

③ 行為者自身が淫行の相手方となる場合について同号(34条1項6号)違反の罪が成立するためには、淫行をする行為に包摂される程度を超え、児童に対し、事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ、その結果児童をして淫行をするに至らせることが必要

結論として、疑問点の一つ目は、①②にあるとおり、行為者自身が児童の淫行の相手方となっても34条1項6号に反する可能性はあると判断されています。確かに、文言上も行為者自身を除外しているわけではないですし、児童に与える有害性を考えると、限定する意味もないですよね。

疑問点の二つ目は、③で答えてくれています。
つまり、児童に対して事実上の影響力を及ぼした結果淫行するに至ったからこそ、青少年健全育成条例より思い法定刑の34条1項6号違反となるということです。上記最高裁判所判例の事案は、中学校教師が生徒を自宅に連れ込み自慰行為等をさせたという話であり、中学校教師や他には親のような児童に影響力を及ぼす地位が罪の成立に必要になります。素直に考えると、中学校教師のような生徒を導く立場にある人間が、その地位を利用して児童に有害な淫行をするということは、より悪質性が高いなと思いますよね。
対して、そのような地位にない者が児童と淫行、性行為又はわいせつな行為をしたときは、青少年健全育成条例違反となります。

4 満18歳未満であると知らなかったという反論はできるのか?

年齢を確認したら18歳だと言っていたので、大丈夫だと思った。俺はだまされたんだ!という言い訳がありそうじゃないですか?
このような言い訳を法的にいうと、犯罪の故意がないと言います。
しかし、児童福祉法違反においては、以下のような規定があることからこのような言い訳は通用しません(ちなみに、青少年健全育成条例も同様の規定が置かれています。)。

児童福祉法
第60条
④ 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、前三項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

過失がないといえるためには、児童本人や仲介者などの自称する年齢を信じるだけでは不十分であり、児童の戸籍などによって生年月日を調査し、あるいは親許に照会をして年齢を確かめるとか、一般に確実性のある調査確認の方法を尽くすことが必要と言われています。

これを調べた時、かなり高度な調査義務を求められるのだなと驚いたことを記憶しています…

5 示談って意味あるの?

捜査機関側から指摘された行為、罪を認める場合、弁護活動として真っ先に思いつくのは、被害児童(実際は、その親)との示談ではないでしょうか。
児童福祉法違反というのは、社会的法益に対する罪と言われる犯罪となります。これに対して、窃盗罪などは、個々人の財産に対する侵害行為であるため、個人法益に対する罪と言われています。
個人的法益に対する罪の場合、あくまでも被害者に対して行った行為が問題であり、示談をして被害者が許すというのなら捜査機関側もそれ以上責任追及はしないという判断になりそうなのは想像できるかと思います。
社会的法益に対する罪は社会全体の法益を守ることを目的としている(もちろんそこには個人の法益も含まれているでしょうが、)ので、当事者間で示談をしても意味ないのではないか、検察官の起訴不起訴の判断に影響を与えないのではないかと考えたりもしました。

これは、あくまでも私見ですが、児童福祉法違反において、被害児童という存在がある以上、当該被害児童と示談したという事実を検察官が無視することはできない、不起訴判断に傾く可能性のある事情となるのではないかと考えます。

6 まとめ

私が担当した刑事事件は、結果として被疑者にとっていい結論となって終わりました。

実際の案件を通して調べたこと経験したことは、定着が早いですし、中々忘れないですよね。

これからも経験した案件で調べたことなどをノートに書いていこうと思います!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?