ドリブル塾はありかなしか

今snsで話題になっているドリブル塾(ドリブルでの突破に特化した練習をする教室など)について本気で考えてみました。なお、完全に筆者の主観による仮説です。異論、反論受け付けます。


1.ドリブル塾はありか

まず、筆者なりの結論になりますがドリブル塾はありだと思います。ただしそれは、スコアや時間帯などの試合経過、さらには味方の立ち位置、相手の立ち位置、そして自分の立ち位置など、、、様々な状況を考慮してドリブル塾で学んだプレーをサッカーの試合で『チームが勝つための手段として正しく使う』ことができるならです。決して『目の前の相手を抜いた時の高揚感』や、自分はこういうプレーができるという『自己顕示欲を満たすため』のドリブルであってはなりません。そもそもサッカーという11対11の数的同数のスポーツにおいてドリブルで相手を抜くことができる選手の価値は非常に高いです。マンチェスターシティの世界トップクラスの監督であるグアルディオラでさえも、個人で打開することのできるマフレズやサネといった選手を重宝します。ではなぜ、そのような価値の高いプレーであるドリブルを教えているにも関わらず、ドリブル塾に賛否両論があるのでしょうか?それはドリブルというプレー自体がボールを失う可能性が高く、使い方を間違えるとチームにとってネガティヴな存在にしかならない危険性を孕んでいるものだからだと考えます。繰り返しになりますが、どれだけドリブルが上手くても大事なのは『チームの勝利』であり『個人の勝利』ではありません。

2.効果的なドリブルとは

では効果的なドリブル(突破のドリブル、ここでは運ぶドリブルは除外します)とはどういったものなのでしょうか? そもそもドリブルの本来の目的は『得点を取る』ということです。例えば、数的同数の局面でドリブルで一人を抜くことができれば、その局面は数的有利となりチームにとって大きな得点チャンスになります。しかしそこで忘れてはならないのが時間という要素です。トップクラスのアスリートであれば1秒につき7mは帰陣することができるでしょう。

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このような状況でボールを受けた青の9が対峙する赤の3に対し時間をかけてドリブルしそこで突破に成功したとしても、その後の状況はどうなっているでしょうか。

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おそらく赤の5、6、7、11、は帰陣する時間ができ、せっかく労力を使って突破しても数的有利どころか数的不利となり状況を悪化させてしまいます。よって効果的なドリブルをするためには、時間をかけないことが重要ということになります。それなら時間をかけずにドリブルすればどんな場所でもドリブルで仕掛けることが正しいのかというと、もちろんそんなことはありません。

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このような状況下においてドリブルで仕掛けることは得点の可能性を上げるものになるでしょうか?当たり前ですが味方の青の5へのパスを選んだ方が得点の可能性はグッと上がるでしょう。効果的なドリブルとは要するに『チームの得点する可能性を上げるプレー』なのです。そのドリブルによってチームの得点する可能性を下げてしまうのであればそれは効果的なドリブルとはいえないでしょう。

ではこの状況でドリブルを仕掛けるのはどうでしょう?

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もし時間をかけずにドリブルを成功できたとしてチームの得点の可能性は高まるでしょうか?この状況下であればおそらく得点する可能性を上げれたとしても微々たるものでしょう。一方でもしもボールを失ってしまうとどうなるでしょうか?ここで失えば大ピンチを迎えてしまいます。なのでドリブルをする上での判断基準は、どれだけのリスクを背負ってプレーしているのか?そのドリブルを成功させた時に得られる利益はどれくらいあるのか?そのことを天秤にかけて仕掛けることが大事になります。ハイリスク・ローリターンなドリブルはチームにとって有益なものにはならないでしょう。
このことから効果的なドリブルとは、
時間をかけずに突破すること。
そのドリブルが成功した時に得点の可能性が大きく上がること。
この2点が重要なのではないかと考えます。

3.サッカーとフットサルでのドリブルの違いと共通点

次はドリブル塾で使われることの多いフットサルコートでのフットサル的なドリブルとサッカーのドリブルはどこに違いがあり、またどこが共通しているのかを考えていきます。

まずはサッカーとフットサルのルール(環境)の違いです。

コート

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サッカーコートはフットサルコートに比べて2倍以上大きくなっています。

人数

サッカー           フットサル
11対11            5対5

詳細なルールの違いはここでは割愛しますが、誰もがすぐに想像する違いだけでもこれだけの違いがあります。

この違いは2つの競技におけるドリブルというプレーに大きな影響を与えます。
まずサッカーでは人数とコートの広さによって2章で述べたように時間をかけてドリブル突破することに大きなメリットはありません。一方でフットサルでは突破のドリブルに多少の時間を要してもドリブルでの突破には大きなメリットがあります。それはサッカー経験者ならほとんどの人がやったことがあるであろう(多分)ペナルティエリア2個分の少人数でのゲームによって説明がつきます。

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このようなゲームを行った時、ボールホルダーが前向きでいい状況であれば、ディフェンダーはほとんどのケースでボールホルダーに対して2人以上の人数をかけて対応することはありません。コートが狭く人数も少ないゲームでは自らのマークを捨ててボールホルダーに対応することはゴールに近いところでフリーな選手を作ってしまいます。

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その瞬間にパスを出されるとコートの狭さによってどれだけ急いでブロックに向かおうがシュートを打たれるでしょう。この練習をしたことがある人はそのことを感覚で理解しているから、いい状態のボールホルダーは時間とスペースを得ます。
フットサルでのドリブルはこの練習で起こる現象とよく似ていると思います。

次にフットサルでよくみられるインサイドで引きずるようなタッチから、相手から遠ざかりシュートコースやパスコースを作るドリブルについて検証します。

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フットサルではこのような仕掛けかたがよくみられますが、これはフットサルのコートのサイズから自然とこのような仕掛けかたが理にかなっていることから、多くのプレイヤーがこのようなドリブルになるのだと思います。なぜそうなるのかというと、その秘密はコートの狭さによるゴールまでの距離と、フットサルコートの横幅によるゴールとボールホルダーの角度にあると思います。まずフットサルではゴールが近いことから少しずらして抜ききらずにシュートを打つというだけでも、得点の可能性が高いプレーとなります。それは右にかわしても左にかわしても同じです。右にも左にも少しずらしてシュートやパスができれば勝ちという条件下でドリブルをすれば、自然と下図のようなドリブルコースを辿ることになるでしょう。

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フットサルではこの図にみられる赤丸に相手より少しでも先に辿りつけば勝ちとなるのです。抜ききる必要はありません。少しでもずらせばいいのです。ディフェンスからすれば厄介そのものです。なぜなら先述した理由により味方は助けに来てくれません。なおかつ自分の守るエリアは

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この2つになります。守るべき2つの箇所が離れているということがディフェンスからすると難しい理由は下図のドリブル練習から考えると簡単に理解できます。

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オフェンスはどちらかのコーンの間を通過すれば勝ちとなる練習でディフェンスが守ることがより難しくなるのはどちらでしょうか?答えはもちろん下の条件の方が難しいです。特に実践では、少しでもついていけなければシュートを打たれてしまう恐さがあるという環境によるフェイントへの引っかかりやすさも手伝って、よりドリブルでの突破を容易にしてくれます。
そしてドリブルの変化においてほとんどの人はアウトサイド方向への変化の方がより大きな変化を起こしやすくなっています。(マラドーナのようにインサイド方向へ鋭い変化を起こせる選手もいますが、、)
どのようなことかというと、
右利きなら

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左利きなら

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というようなドリブルが自然なドリブルとなります。ではこの自然なドリブルの角度変化とフットサルの試合の条件を組み合わせて考えると、

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この仕掛けかたで仕掛ける選手が多くなるのも納得がいきます。

ではこのドリブルはサッカーのどのような条件下でも使えるドリブルなのかというと、答えはノーです。例えば上のフットサルでの画像と同じ条件と思われがちなサイドでの1対1で考えます。

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サッカーでこの状況において同じようなドリブルを行うとどうなるでしょうか?
まず右(縦方向)にずらしてその先のプレーは何が起こるでしょうか?

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斜め前にはゴールはありません。もしクロスをあげたければ、より抜き切るという要素が必要になります。少しずらすだけではダメなのです。
では左(カットイン)へのドリブルはどうでしょうか?

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こちらはインスイングのクロスは上げることができますが、ゴールまでの距離が遠いです。ゴールの可能性をより高くするようなショートクロスにするためには、縦方向へのドリブルと同様に抜き切る必要があります。ただし、フットサルと違い、少しでもついていけなかったら失点に直結するようなプレーをされてしまうというような恐怖感はディフェンスにはありません。オフェンスのフェイントにも冷静に対処できる余裕があります。
従って同じ様に思える状況のフットサルでのライン際のドリブルと、サッカーにおけるライン際でのドリブルにも違いがあることが分かります。前者はその環境を駆使してよりオフェンス有利な駆け引きが、後者は環境による優位がオフェンスにないぶんより難易度の高いドリブルとなります。そのことから、同じに見えて活かせると思えるようなものでも、安易に模倣することは危険性もあることが分かります。

4.ドリブルをどのように活かすか

ではそのようなフットサル的なドリブルは全くサッカーに活かせないのかというとそうではありません。そんなドリブルが活かせる状況はどこでしょうか?それはゴール前です。ゴールに近い位置であればあるほどそのようなフットサル的ドリブルがサッカーでも活かせます。

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ゴール前であれば、右へのドリブルも、左へのドリブルも少し外すだけのドリブルが危険なプレーとなるのです。しかしそれではゴール前という限られた状況以外ではこのようなプレーが使えないのかというとそれも違ます。少し外すだけでどんな位置でも危険なプレーができる選手とは誰でしょうか?答えはパサーです。サイド一杯に開いた位置でも少し外してのロングクロスがチームにとって有益な攻撃になり得る選手、、中村俊輔選手です。中村俊輔選手のプレー集を見ると、レッジーナやセルティックに在籍している時、少し外してからのインスイングのクロスから多くのチャンスを演出していました。

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少しでも外されると危険なクロスを上げられてしまう、それがディフェンスの頭にあると、ディフェンスは左足の前にボールを置かれると怖さを感じます。そこで切り返すからディフェンスはついていけません。中村俊輔選手の切り返しに面白いほど相手選手が翻弄された理由はそこにあると筆者は考えます。
ピッチ中央でも使えないことはありません。イニエスタ選手はそのようなドリブルに近いプレーをしていると思います。イニエスタ選手は相手との距離が少しでも開くと危険なスルーパスを出すことができます。

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だからイニエスタ選手と対峙した相手ディフェンスの選手は少しでも間合いをあけられると危険だという考えがあるからこそ、ストップしようとする素振りに過度に反応してしまい左方向への加速で振り切られてしまうのではないかと考えます。

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以上のことから、パスの上手い選手やシュートの上手い選手とこのドリブルは相性がいいと考えられます。それは少し外してパスや、少し外してシュートというプレーがやりやすいからです。
尚且つドリブルコースを変えるという工夫次第で相手が飛び込んできたら抜く、下がり続けるならゴールに近づけるというドリブルにすることもできるかもしれません。

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要するに、ドリブル塾で学んだものをどのようにサッカーに活かすか、どう実践の試合とリンクさせていくか、これを考えてチームの得点の可能性を大きく上げるドリブルができた時、初めてドリブル塾で学んだものをサッカーの試合で活かすことができたと言えるのです。

5.まとめ

ドリブルはサッカーの中でも華やかなプレーであり、相手を抜いた時の爽快感は何度も味わいたくなるものです。しかし、サッカーは11人の味方とプレーするチームスポーツであり、相手もマッチアップしている敵1人だけではなく11人の相手がいるのです。目の前の相手に勝つことだけを考えていると、チームにとって有益な存在にはなりきれません。サッカーには評価点はありません。相手を何人抜こうが得点にはなりません。その一方で、本来であればドリブルで相手を上回ることの価値は非常に高いです。2000年からのバロンドール受賞者をみてもドリブルというイメージがわかない選手はカンナヴァーロぐらいです。

フィーゴ
オーウェン
ロナウド
ネドヴェド
シェフチェンコ
ロナウジーニョ
カンナヴァーロ
カカ
クリスティアーノ・ロナウド
メッシ 
モドリッチ

では反対にドリブルしかできない選手がこの中にいるでしょうか?いませんよね?最多6度の受賞を誇るメッシ はドリブル、シュート、パス、そしてオフザボールに至るまで全てがハイレベルだし、そのメッシ と世界最高の座を争うクリスティアーノ・ロナウドは得意のドリブルを点を取るための手段に昇華させていきました。いいドリブラーではなく、いい選手になるための条件は、ドリブルで何人抜けるか?ではなく、そのドリブルを駆使して『チームの勝利のために何ができるか?』それこそが大事なのです。ドリブル塾で得た理論や技術でのドリブルも、ストリートサッカーで学んだドリブルも、サッカーの試合で正しい使い方ができるかどうかは自分次第です。

以上が筆者が考えた仮説です。あくまでも仮説ですので、ここまで飽きずに読んでいただいた方からのご意見をお待ちしています。ちなみに筆者の個人的意見としてはドリブル塾は非常に難しいと思っています。理由は子供達が学んだ理論や技術をサッカーの試合にうまくリンクさせてチームのために使えるようになることの難易度が高いと考えているからです。特にドリブル塾などのYouTubeでよく見かける後ろに後ずさってボールを守るプレーや、何回も切り返して時間をかけて目の前の相手選手を抜こうとするプレーは相手選手の帰陣を助ける効果があり、現代サッカーの高速化にはついていきにくい気がしています。もちろん時間をかけずにドリブルする技や理論もあるとは思います。だからできれば子供達にはその情報だけを与えてあげないと、時間をかけても目の前の相手を抜ければそれが「いいプレー」と勘違いしてしまっては、本当の意味でのいいドリブルができる選手を生み出し辛いのではないかと思います。
稚拙な文章になりましたがお読みいただきありがとうございました。



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