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SF ショート おばちゃん、立ち上がる

N星では温暖化が進み続けている。100年前に比べ、平均気温は5℃上昇、極地の氷はどんどん溶け、海面に近い土地は海の中に沈み始めている。

陸地の気温は50℃を越え、鳥は暑さのため空から落ちてくる、魚も暑さで大量に死んで海面に浮いている、植物は枯れ、深刻な食糧難になっている。

人間は何とか高地に移住したり、地底に穴を掘ったり工夫はしているものの 我慢の限界に近づいていた。

この星にいるといつ陸地が水没するかわからない。


政府はT星移住計画を急いでいた。T星は年間の平均気温が20℃、人間が暮らすには最適の環境だ。

N星の高官たちは移住する優先順位を密かに話し合っていた。

「まずおれたちとその家族、次に農林水産業従事者、工業生産従事者、子供、若い女性、一般労働者、そのあとはどうでもいいや」

数日後、政府からT星移住計画が公表された。

「まずは私たちが視察に行き、安全に暮らすことができるか確認致します。 その後は農業生産、工業生産がスムーズにできるか専門家の意見を聞き・・」

長々と説明が続いた。みんな自分の順番を気にしていた。順番を待っている間に死ぬかも知れないと思っていた。


それから一年後、T星移住計画はスタートしたが、N星温暖化はさらに進み、暑さや食料不足のため多くの人が命を落としていた。

多くの群衆が見守る中、ぬくぬくとした表情で政府高官がロケットに乗り込もうとしていた。

「それでは国民の皆様、私たちが先陣を切って、視察に行って参ります」

その時                               OS府のおばちゃんが立ち上がった「何してんねん あんたらの家族も乗っとるやないか あほ」

IB県のおばちゃんも立ち上がった「ダメだっぺ ズルするんじゃ~ねーだよ」

その言葉が号令になったかのように群衆が一斉にロケットになだれ込んだ。 政府高官を押しのけ、踏みにじり、我先にロケットになだれ込んでいった。

「押すな」「苦しい」「やめろ」悲鳴のような声も聞こえてきた。

それでも群衆はなおもなだれ込んでいった、とめどなくなだれ込んでいった。

そしてロケットが重さに耐えきれなくなり、傾いていった。

その後、N星の温暖化はさらに深刻になっている。

                               おしまい