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浮気する仮想敵

 結婚した男は大概しょぼくれている。

 こんなはずじゃなかったと悔やみ、こうあるはずだとあがく。

 武将のゲームが人気なのも、ヒーローが活躍する物語が人気なのも根っこは同じだ。こうあるはずの姿がそこにあるからだ。

 家庭に入った男は女性にとっての男ではない。たとえて言えば働きアリだ。今は敵が襲ってくることもないから軍隊アリも不要だ。

 男は強くあらねばならない時代は終わってしまったので、ケンカに強いだけの不良もヤンキーも暴走族も絶滅したか絶滅危惧種だ。

 しかし「男は強くあり、常に女を守るもの」という呪いは健在だ。だからたいていの男は結婚するし、家族の一員として女を守らねばならないと思っている。それが男の存在意義で、女性のニーズであると信じられている。

 しかし現実は違う。

 現代の女性は男が思うほど弱くないし、自立し、聡明で体力・腕力以外のすべての部分で生物学的にも社会的にも男の上をいく。

 家事も育児も男性と分担して行うのがもはや普通だし、家事も育児もできない男は結婚対象にならないばかりか蔑みの対象だ。母親に甘やかされて育ち、目玉焼き一つ作れない、生活力のない男など問題外である。ネットではダメ亭主やマザコン彼氏にむけた女性の罵詈雑言が並び、それに「いいね」が山ほどつく。

 そもそもSNSは女性のための活動の場といってもいい。

 男は女に対して思ってることをそのままぶつけたりしないし、ネットでも書かない。「男は強くあり、女を守るもの」という呪いがあるからだ。

 そもそも男にとって女は守るべきものであって、叩く相手ではない。

 女性も男に守られていればこそ、男を立て、優しさを見せる。

 少なくとも歴史のある時点まではそのトレードオフの関係性が良好に機能していた。

 

 いつから、と正確には言い難いが少なくとも現代はこの関係性は崩壊している。

 襲ってくる外敵もいないから肉体的に戦闘力が高くある必要もなくなった。頭脳戦における出世競争もこの不景気で鈍化している。出世しても責任ばかり増えてリターンがないからだ。目端の利くものは起業し小金をためるかもしれないが、それだとて安定しているとはいいがたい。

 起業するという点からみればネットワークづくりに長けた女性の方がむしろ優秀だったりする。

 万民向けではないとしても、子供が欲しければ人工授精も養子を迎えることもできる。

 男の存在価値は、20世紀後半から21世紀にかけて極端に低下したといえる。

 ではどこに「居場所」を見つけ出すか。男の課題だ。

 男性は女性と同じようにフルタイムで仕事をして稼ぎ、学校行事にも参加するし、女性が仕事で不在にすれば家事も育児も当たり前にこなす。

 だがこれはかつて女性が男性に反旗を翻した経緯からいって、存在意義を示すこととは言えない。

 もはや、それはやって当たり前になってしまっていて、評価に値しない。

 しかも女性には「家庭は女の城」という呪いがあり、男性には「男は強くあり、女を守るもの」という呪いがある。

 自分の城である家庭において、もまともに家事もできないダメ亭主に対する罵詈雑言がネットにあふれ、亭主もそれを目にすることになる。

 女の本音など見てしまったら、女性に夢を抱き、女性のために強くあろうとしてきた男にとって「女を守るもの」など呪い以外の何物でもなくなってしまう。

 子供がいれば、子供はほぼ間違いなく母親につく。母親は女だからだ。

 家庭において、男は仮想敵である。子供は母親=女を守ることで、「男の呪い」にかかっていく。

 そうして家庭で仮想敵となった男は、しょぼくれていくのである。

 ある日、ふとある女性が目にとまる。

 特に仲が良いわけではないが、なにかのきっかけで言葉を交わすようになり、時々差し入れしたり、昼食をともにしたりする。

 女性は外では誰にでも基本優しい。SNSで罵詈雑言を並べまくっていても、リアルで会う男性には一番かわいいところを見せておこうとするものだ。自分がかわいいことを自覚している女性ならなおのことだ。

 女性としては当然のことであり、何も悪いことではない。女性は自分の為に役に立ちそうな男を周りに置いておく権利がある。そのためには優しいところの一つや二つ見せておいても損はない。

 男は優しい女性に魅かれていく。そして美しいあるいはかわいい女性は優しいに違いないという誤解も生じるのだ。

 魅かれれば、強い男であろうと努力し始める。それがうまくいって、いい男になろうものなら・・・あとはお決まりの浮気騒動である。

 仮想敵は浮気するのである。当人はそれを恋と認識していてけっして浮気とは思ってはいないから始末が悪い。

 昔の男は結婚するとしょぼくれるだけでなく、酒を飲み、たばこを吸うから見た目が実年齢よりも老化し、家では食っちゃねのぐうたら亭主になるからぶくぶくと醜く太り、風俗にでもいかない限り美しい女性に相手にされることはなかった。

 女性も専業主婦で昼間はごろごろしているだけだからこちらもぶくぶくと太っていくが、亭主も似たようなものだからお互い様だった。

 でも今は酒もたばこもやらず、きちんと運動もして体を作っているから見た目は醜くない男の方が多い。

 女性も仕事をもち、自分の見た目をよくしておくことが戦略的に有効だと知っているから、年齢とは(もっと言えば中身とも)無関係に大概の女性は美しく魅力的だ。

 そこにいるのはかつて男が夢見た「守るべきもの」だ。

 仮想敵扱いの家庭と、夢の対象のいる外の世界。

 どちらに魅力を感じるかは自明の理なのである。

 一部の女性はこうした物言いに拒絶反応を起こすので、論は慎重に進めたいが、男性の視界にいる女性とは通常こうしたものなのである。

 

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