見出し画像

バイクのある暮らし

齢五十にして自動車教習所に通った。

大型自動二輪免許、かつて限定解除やナナハン免許などと呼ばれていたものを取りたくて、だ。

テレビタレントの久米宏さんは番組の中で 

「普通自動車の免許を取るとね、ナナハン免許ってセットでついてきたんですよ。僕なんかはその最後の世代だと思いますね。」

とコメントしていて、どんな話の流れからそうなったか記憶が定かではないんだけれど、羨ましいなぁと思ったのを覚えている。

そんなことが羨ましいと思うわけだから、16~17才くらいのことだったと思う。

普通自動二輪免許は16歳になれば、大型自動二輪免許は18歳になればそれぞれ取ることが出来るわけだが、この区分は30年以上前から変わっていないと思う。(記憶にたよって書くので間違いがあれば訂正してほしい。)

高校生時代。バイクは生活の足だった。学校で50cc原付二輪での登校が許されていたからだ。もっともせいぜいで隣町から通う生徒に限られ、地元にすむ生徒は徒歩か自転車、より遠方の生徒は電車通学と交通手段は細分化されていた。

僕は自転車通学生だった。しかしバイクで通う生徒がいれば必然的に話題はバイクになる。

原付自転車を「ゼロハン」と呼ぶような、ちょっといかがわしいバイク雑誌を教室に持ち込んでは、「スズキのGAGは4ストなんだな」「でもやっぱ速いのは2ストでしょ。買うならNSR!」なんて、月々の小遣い程度では到底届かない夢を語っていた。

僕らは「三ない運動」すなわち「免許を取らせない、バイクに乗せない、買わせない」を呪文のように繰り返す大人達に洗脳された世代だ。

僕よりも一世代から二世代上のにいちゃんたちが16~17歳のころに暴走族と呼ばれる凶悪な集団を結成して町を走り回り、悪辣の限りを尽くしたことで、官権その他の大人どもに目をつけられたことがきっかけだ。

そのおかげで中型二輪免許(今の普通自動二輪免許)は学校で禁じられ、限定解除(大型自動二輪免許)は教習所では取ることが出来なくなった。

僕らは自分がやってもいないことの責任を取らされたわけだ。暴走族はそもそもルール無視、無免許上等だから関係ないのである。

この時期、日本のバイク社会は絶滅の危機に貧したといっていい。族上がりがまともなバイクを買って乗るわけはないし、原付がいくら売れると言っても単価が低い。車検もなく継続して周辺利益をあげることも難しい。食うために仕方なく走り屋バイクの不正改造に手を貸した店も一軒や二軒ではあるまい。

ちゃんと乗ることを啓蒙し、ライダーはきちんとしていることを証明して見せた先達やメーカーの努力で現在でも国内でバイクに乗ることは出来る。しかしかつての暴走族イメージは薄れてはきたが、何かあればすぐ悪く報道される。

現在、密にならないアウトドアホビーとしても見直されていて、バイクに再び乗り始める中高年は増えたし、車両も売れている。中古車価格は高騰していて、ちょっとしたバブルの様相を呈している。

以前限定解除とよばれていた大型自動二輪運転免許は教習所で取得することが出来るようになり、女性の取得者が増えた。

「女の子がバイクなんてとんでもない!」

と親が金切り声をあげていた時代は忘却の彼方である。

女性ライダーの増加は「かっこよくバイクにのること」の定義も一変させた。

バイクウェアと言えば、かつては原色ビカビカ、メーカーロゴが全面にドーンとプリントされたものが主流。
レーサーレプリカモデルが売れ筋だったので、町乗りでも有名レーサーよろしくスポンサーロゴの入ったレーシングスーツを着込んで走るのが流行った。

現代の目からみるとお世辞にもかっこよくはないし、女性にモテるとはとうてい思えないが、当時はそれがおしゃれだったのだ。

今では一見するとバイク用には見えないファッショナブルなウェアも登場している。間違いなく女性ライダーの視点にたった商品開発だ。

プロテクション機能を持たせ、安全性に配慮しながらもデザイン性を高めたアパレルが増えているのは嬉しい。

残念なことに、マスプロではないものが多いので地方には流通がほとんどない。通販で買うことも出来るが、衣服は試着して買いたい向きには今一つ。

ワークマンがバイク(にも使えないこともないものまで含めた)ウェアの開発に熱心で地方のライダーの救いになっている。なにより価格が安い。

80年代の暴走族イメージを払拭し、なんとか生き延びてきた日本のバイク文化。

ここへきて、当時の改造バイクを乗り回す集団が現れて、当時の嫌なことを思い出して眉を潜めているところだ。

しかし騒音をたてるでなし、交通違反を犯すでなし。見た目だけ族マシンというだけでは検挙できないのか、警察も静観しているようだ。

    ※ただし、2022年1月現在、観光スポットで騒音を撒き散らすバイカーが現れて、他のライダーや観光客から顰蹙を買っている。目撃者のはなしでは相当歳をとった人物らしいので、当時の暴走族ではないかと思っている。歴史は繰り返すのか。実に嘆かわしい。

また官権やPTA、何かを敵に仕立て上げてやっつけて、ヒーローになりたい姑息な政治家の餌食にならねばよいがと心配もしているのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?