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まえがき

↑2023年12月28日 13:27の夷川ダムから見る熊野寮A棟
本記事は、同人誌「熊野寮と鴨東地域の交わり~熊野寮五十周年記念誌発刊十周年~」のまえがきです。

 はじめまして。2007~2009年に熊野寮に住んでいた山チューと申します。2024年で、京大熊野寮は開寮の1965年から59年目を迎え、もうすぐ60周年の節目を迎えようとしています。60年とは、東大駒場寮が設立から取り壊されるまでの67年に迫る勢いです。いっぽう、京大吉田寮は1913年の建築から110年以上経過しており、それに比べると熊野寮はまだまだ若造かもしれません。この本は、2014年11月に有志によって編集された「熊野寮五十周年記念誌」の発刊10周年を記念し、その発展的な位置づけとして作成しました。発展とはつまり、寮生だけでなく、ご近所の人々と楽しめる本を目指しました。東竹屋町を中心に、ごく局所的な地域に限って歴史資料を漁り、現代まで地続きとみられる箇所を収集しました。

 例えば、熊野寮東側の丸太町通りに面するバス停「熊野神社前」裏のグラウンドは、その昔地域の子供たちから「ニッコク」と呼ばれていました。「朝、ニッコク10時集合!」という具合です。このことは、早起亭店主にご寄稿いただいた、熊野寮祭2019パンフレットの巻頭言に記載されています。このニッコクとは、1942年から存在した飛行機部品工場である、日國工業株式會社の工場のことです。その前は鐘紡上京工場(当時は左京区でなく上京区)でしたが、鐘紡の関連会社である日國工業株式會社に借用、その後売却されたのです。国立国会図書館と、京都大学学術情報リポジトリ (KURENAI紅)などから確認しました。国会図書館にはニッコクの社史も残されています。

 このように、図書館や大学には多くの歴史文献が眠っています。面白いものは常に足元に埋まっており、それらを掘り起こす楽しさを皆にも共有したい。そんな、子どもっぽい理由が出発点でした。そして、その「皆」とは現役および元熊野寮生だけでなく、東竹屋町を中心とする地域の皆様と、京都大学の学生、教職員および卒業生と、そしてこれから受験して入寮される将来の学生たちを含んでいます。

 地域の皆様と一言で言っても、ご年代やご出身などざまな方々がいらっしゃるでしょう。私は2007年春の入寮からお世話になりましたが、近隣の方々からすると、当時も度々うるさかったと思います。その節はご迷惑をおかけしてすいません。皆様は、熊野寮に対してどんな印象を持たれているでしょうか。「なんか汚い建物だけど、どんな人が住んでるんだ?」という疑念を持たれている方も多いのではと思います。

 熊野寮にも、さまざまな人が住んでいます。入寮のきっかけは人それぞれですが、私は中でも多い層であろう、実家にお金がなくて下宿の選択肢がなかった地方組でした。お金のない地方出身者にとって、京都は本当に魅力的でした。寮から見える疏水では毎年桜が咲き、夜は鴨川遊歩道をランニングし、たまに知らない神社に自転車で散歩がてらお参りをしました。阪急と京阪の便利さもカルチャーショックでした。他の地域に就職などで卒寮した元寮生や、寮外の卒業生と集まる際はいつも、寮近隣のお店や思い出話に花が咲きます。地域の皆様によって魅力が守られているおかげ様だったと思えます。

 それから、2011年に始まった熊野寮のイベントである「くまのまつり」は毎年続き、寮の外と寮生がつながる大事な場になっています。他にも、無料塾KUMAN、熊野祭パンフレット巻頭言への寄稿依頼など、今の熊野寮は私の在籍時より開かれており、人を巻き込む力にあふれています。特に、2023年は東竹屋町会長から巻頭言を頂いており、その思いに触れ、私もお世話になった地域社会の皆様に何か面白いものを共有できればと思い、この本の方向性を決めました。後付けかもしれませんが、ゆるぎない本心でもあります。本文は出来るだけ、寮生でない方でもわかるように、独特の用語には詳細を記載したつもりですが、わかりにかったら申し訳ありません。

 様々な調査で、あの時のアレはそうだったのか!とたくさん気づかされました。古きを漁るこの感覚、音楽界ではレコードなどを「ディグる」と表現するらしいです。外山滋比古さんの「思考の整理学」にも、編集編纂の重要性が記載されています。掘り出し集めた資料を、一つのテーマに沿って提示すると、何やら流れが見えてきます。出来上がってみると、記事を切り貼りした雑多なスクラップブックのようになりました。結局、多分に寮生を中心とした身内ネタも多く含まれていますが、ご了承いただけますと幸いです。東竹屋町周辺だけでなく、他の寮もはじめとした京都大学に古くからある歴史文化を紐解くことで、左京区と大学がどう関わってきたかをお伝えできれば幸いです。また、基本的にはnoteというネット媒体でもほぼ同じ内容を無料で公開しています。引用元のリンクをたどるにはそちらの方が便利かもしれません。言い訳になりますが、ネット媒体から文章を直す時間が全然なく、読んでいて所々「ん?」となる部分があると思います。ご容赦ください。

 非常に局所的ではありますが、土地の歴史を紐解くことは、未来に向けて人々がどうあるべきか考えるために重要だと思います。学生時代、たった3年間だけ住んでいた私ですが、熊野寮住民と皆様にとって、この本が何かのお手伝いになればと願っています。

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