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背のびをして、だんだん大人になっていく

1998年、福岡。18歳の頃。
自動車教習所でたまたま席が隣になったことがきっかけで、
6歳年上の、24歳の女性と知り合った。

隣に座った瞬間に、
キレイな人だな……と思った。
カバンの中にはメモをとるためのペンが入っていたが、
僕は誰もが顔を赤らめるようなベタな行動に出た。

「すみません、ペンを忘れたので、貸してもらえませんか」

その女性は、快くペンを貸してくれた。
帰り際、御礼を告げてペンを返す時に思いきって、
「このあと講習が2コマ空くんですけど、お茶でもしませんか」と伝えた。
その勇気にも、彼女は快くうなずいてくれた。

話をしてみると、家がものすごく近かったこと。
お互い、教習所で知り合いもおらず、仲間がほしかったこと。

そんな想いが重なり、仲良くなった。
彼女は繁華街にある有名な古着屋の店員さんで、
ガールズバンドを組んでいた。

18歳の僕には、6歳上の女性というだけで大人に感じたし、
聴いている音楽も、観ている映画も、着ている服も、
何もかもが、いままでの暮らしとは、違う世界観だった。

長電話をしたり、彼女の家に招かれたり、
先に免許を取った僕の運転でドライブに出かけたり。
まるで恋人のような……でも、あくまでも友達同士みたいな、
曖昧なふたりだった。
大人ってこんな感じなのかな、と身動きができなかった。

そんな中、映画を観に行くことになった。
「ニル・バイ・マウス」
ゲイリーオールドマンの初監督作品である。

リュック・ベッソン監督の「レオン」に登場する、
クレイジーな刑事役で知られるゲイリー・オールドマン。

彼女は、ゲイリー・オールドマンが好きで、
どうしても観たかったらしい。

事前に「内容がディープだけど、大丈夫?」と聞かれてはいたが、
思った以上にハードな内容だった。

単館の映画館の雰囲気も、
アルコール依存で堕落していく映画の内容も、
ダークで不穏な世界観も、
すべてが暗い世界なのに、すべてが鮮明に見えた。

新しい世界に出会うと、
すべてが輝いて見えるらしい。

その後、結局、
その女性と恋人になることはなかった。
でも、上京するタイミングもたまたま同じで、
東京に出てからも仲良くしていたので、
随分、長い付き合いになった。
それは、それで、いい思い出。

「ニル・バイ・マウス」を観た、
あの頃、あの数ヶ月。
僕はずっと「つま先立ち」をして、
背伸びしたまま過ごしていた。

いままで観たこともないような映画のジャンルを知り、
聴いたこともなかったジャンルの音楽を聴きながら、
大人の世界への階段をのぼっていたのだろうか。

あの頃は「情報」がなかなか手に入らない時代だったから、
ある意味「知る喜び」が贅沢品だったように思う。

40代になり随分経つが、
僕はいま、若い人たちが憧れ、
背伸びをしたくなるような人間になれているだろうか。

#映画にまつわる思い出

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