薬剤の過剰摂取(overdose, OD)について(②医療従事者向け)
はじめに
今回の記事作成の目的
前回の更新よりかなり時間が経過してしまいました。
もし楽しみにされていた方がいらしたのであれば、申し訳ありませんでした。(そんなに需要はないと思いますけどね笑)
記事作成の目的は、以前と同じくODによる悲しみを少しでも減らそうという目的から作成しております。以前から期間が空いておりますのは、実際に体験したことをもとに記事を作成したら長文になりすぎて、あまり伝わらないかなぁと思って色々試行錯誤していたからです。
そこで、ODに対する私の考え方と実体験で対応したケースで分けて記載することにしました。もちろん、「私の記事作成スキルがまだまだ未熟であること」が大きな要因であることは言うまでもありません。
今回はODに対する私なりの考え方です。よろしくお願いいたします。
医療従事者の方々へ
ODで困った!そしてこの記事にたどりついた!そんな場合でもこの記事に書かれていることを鵜呑みにせず、ちゃんと裏付けをとってから行動に移すことを推奨します。根拠はなるべく記載しておきますので、その資料を参考にしていただけると良いかと思います。
実際にどのような対処をするかは各施設で異なると思いますので、あくまで参考程度に捉えていただけますと幸いです。そして、役に立ってくれたらとっても嬉しいです!(しかし、訪問者数的にまず有り得なさそう笑)
OD発生!その時に私はこう考える!
重症の場合を想定しています。藁にもすがる思いの方もいるかもしれませんので、解説は後ほど記載します。とりあえずざっくりとした考え方です!
🔵原因薬の特定は出来ているか?
当たり前ですが、原因薬(被疑薬)が判明しているからこそ、行動できることが増えます。まずは冷静に現在の患者さんの症状は何が原因で起きているかを考えてみましょう。
原因薬が特定出来ているのであれば、世の中的に解毒薬はあるかを確認する(例えばアセトアミノフェンに対するN-アセチルシステイン)。
どうやって確認するかはgoogleで検索でももちろん良いですが、日本の処方箋医薬品であればインタビューフォーム(IF)に「過量投与」の項目に記載されていることがあります。
解毒薬があれば使用を考慮しますが、病院の在庫は数や採用が限られていることも多いですので、まずは在庫に詳しそうな人に声をかけましょう。
院内在庫がなければ取り寄せになると考えられます。取り寄せにはどれくらいかかるのか、採用になければ取り寄せとかそもそも可能なのか、そのようなことも確認できると良いと思います。
少なくとも薬剤部に在庫がなくて、卸のセンターとかにもなければ時間がかかることは必須です。他の病院から借りるとか、他の病院に転院とか、そのような選択肢もないようなら、一旦解毒薬の使用を諦めた方が良いかもしれません(overdoseした薬剤にもよりますが・・・)。
解毒薬がなくても、内服後の時間経過が数時間等であれば胃洗浄・活性炭投与も有効である可能性は残されています。とりあえず目の前の患者さんを対処しながら並行して色々考える必要があります。
ちなみに原因が特定出来なかった場合は、症状、各種検査により推測をしながら治療するしかないかなぁと思います。なお、薬剤の投与経路は経口だけでなく、皮膚、口腔内粘膜、鼻粘膜、肛門(坐薬など)等もあることを頭に入れておきましょう。
🔵解毒薬の投与以外に行えることはあるか?
原因薬が判明して解毒薬の投与も行ったが、症状が全然改善しない。
もしくは解毒薬が存在しないODの場合はどうしたら良いのでしょうか?
正直いって、こういう時こそ薬剤師の腕の見せ所というか、薬にだけ特化して勉強してきた人として、色々と意見を出していきたいところです。
とはいえ、実臨床だと学生でやったことなどほとんど抜けてしまっている薬剤師も多いであろうことが想像に難しくありません。まぁ、私もなのですが。。。
私の考えとしては、中毒の原因となる「物質」にフォーカスを当てて、体の中でどのように無毒化されて排出されていくのか。を考えれば自ずと答えが見えてくるものと考えています。
私の場合は、原因物質が水溶性・脂溶性のどっちなのか?これを第一に考えます。
ただし、あくまで薬を早く排出するためにはどうしたら良いか?ということにフォーカスを当てた場合の考えです。
水溶性薬物の場合
血液透析が有効である、可能性が高いです。分子量とも相談ですが、水溶性薬物の場合は透析性が良いことが多いです。
少し古いですが、「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」に各種薬剤の透析性について記載があります。IFなどにも記載があることがあります。
脂溶性薬物の場合
脂肪乳剤の急速静脈内投与が有効である可能性があります(もちろん保険適応外使用となりますのでご注意ください)。
詳細に関してはuptodate等にも記載があります。契約施設でなければ、googleで検索すると関連した記事が出てくると思います。
このように、排泄・無毒化だけを考えると上記のような対処の違いがあるため、水溶性・脂溶性を第一に考えます。もちろん、解毒薬があればそれを使用するのが良いのでしょうが、解毒薬の手配を同時に行いながら上記のような準備はできるため、紹介いたしました。
🔵水溶性・脂溶性はどのように判断する?
いやいや、そもそも水溶性なのか脂溶性なのかって、どのように判断するの?
このような疑問はごもっともです。むしろエタノールのように水溶性でもあり脂溶性でもある薬剤もあり
薬剤師であれば、分配係数(水ーオクタノール)というものに聞き覚えはないでしょうか?添付文書に記載されているかどうかは薬剤により異なりますが、IFには基本的には記載されているものと思います。
この分配係数が大きい値であれば、脂溶性が高いということとなります。脂肪乳剤による解毒が期待できるのは、この「分配係数が2以上の場合」とのことです。なので、分配係数が2以上の場合は、脂肪乳剤による解毒を考慮します。
実は、脂肪乳剤の急速静脈内投与は、解毒のほかにも心機能を回復させる作用もあるようなので、言い方は良く無いかもしれませんが、救命が難しそうでも「ワンチャンやってみる」というのは考慮できるかもしれません。
救命の可能性があれば、とにかく諦めない!
過ちは誰でも起こすもの
内心迷惑であると思っても、明日は我が身です。自分の近しい人がODで苦しんでいることも起こるかもしれません。個人的には、対応したからには諦めずに対処をするべきだとは思ってしまいます。
いや、わかりますよ?夜中の3時とかにこのような問い合わせが来て、ひたすら調べ物とかしたって、そこまで自分にメリットがあるか?と言われると・・・疑問は残りますよね。
でも、医療従事者からするとそれも仕事の内ですので、「仕事として全うする」という観点から、このような問い合わせが来た時には可能な限り善処しようと考えております。この記事もその手助けになればと思っています。
今回の記事が皆様のお役に立てたなら嬉しいなと思います。前回の記事から期間が空いた割には、Volumeが少なくて申し訳ありません。
色々と書くと結局フォーカスがわかりづらくなるので、ひとまず今回は「水溶性薬剤には透析が有効である可能性がある」「脂溶性薬剤に対する脂肪乳剤の投与が有効である可能性がある」ということを知っていただければと思います。
さいごに
脂肪乳剤による解毒については以下の資料が個人的にはとってもまとまっていると思います。あと、デパケン(R)とアムロジン(R)の添付文書、IFを用いて、記載されている箇所を抜粋して画像として貼り付けてあります。
必要時には、この辺を参考にすれば記載があるものと知っておくと良いでしょう。
今回の記事がみなさまのためになればと思います。
実際に体験した症例に関してはまた記載しようかとは思いますが、例のごとく期間が空いてしまうかもしれません。
それでも見に来ていただいている方には感謝です。今後ともよろしくお願いいたします。
<参考>
外科と代謝・栄養 51巻2号 2017年4月
「脂肪乳剤について考える」
急性中毒治療における脂肪乳剤の適応
実際の添付文書・IFより
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