見出し画像

従業員の解雇等は慎重に行う必要があります

[1]解雇は慎重に行う必要があり、特に解雇を回避する努力をしたかが問題になります。

緊急事態宣言が少なくとも5月31日まで延長となり、出口の見えない不安の中、従業員の解雇や破産や廃業を検討するところも出てくるかもしれません。

緊急事態宣言はいつどのような条件で緩和されるのか……出口や希望を指し示す「出口戦略」がこの連休中に明らかにされなかったことも、不安を高める大きな要因となっているでしょう。

しかしながら、従業員の解雇は、慎重な判断のもとに行わなければなりません。

解雇は、合理的な理由があり、社会通念上相当と認められなければ、解雇権を濫用したものとして、無効となってしまいます(労働契約法16条)。

労働契約法
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

さらに、新型コロナウイルス感染症により生じる事業の継続の危機という経営上の理由による解雇の場合、その解雇が有効かどうかについては、従業員の落ち度を理由にする解雇と比べてより一層厳格に判断されます。

経営上の理由による解雇が有効かどうかについては、一般に、次の4つの判断要素を踏まえて判断されます。

1.解雇をする必要性があるか
2.解雇を回避する努力をしたか
3.解雇対象者の人選基準や人選に合理性があるか
4.手続きに妥当性があるか

この中で最も問題になるのは、1の「解雇をする必要があるのか」と、2の「解雇を回避する努力をしたか」でしょう。

経費の削減といった経営努力を尽くしたか、残業規制、賃金カット、新規採用の中止、一時帰休、退職勧奨、希望退職募集をどこまで実施・検討したかどうかが問題になります。

雇用調整助成金といった雇用維持支援策や、持続化給付金といった経済支援策、さらには政府等の資金繰り支援をどこまで活用・検討したのかも問題になるでしょう。

現に、4月に600人を一斉に解雇する方針を示したタクシー会社に対して、複数の従業員が、解雇無効を理由に労働契約上の地位保全等の仮処分を申し立てましたが、経費の削減といった経営努力を尽くしたか、その他解雇を回避する努力をしたのかなどが問題となるでしょう。

さらには、社長ら経営陣に対して慰謝料の支払いを求める訴訟も起こされています。

解雇が有効となるためには、少なくともこうした解雇を回避するための努力をし、解雇はやむなしといえる状態にまで達しているかどうかが大きなポイントとなります。

このように一方的な解雇はかなりハードルが高いものですし、紛争の火種になります。

全員の雇用を継続するが困難だという場合でも、まずは、従業員と、退職について話し合い、一定の誠意は示すべきです。

[2]有期労働契約の契約期間中の解雇は正社員の解雇よりも厳格です

有期労働契約(契約社員、嘱託社員、アルバイト等)については、「やむを得ない事由」がない限り、契約期間中に解雇することはできません(労働契約法17条1項)。

この「やむを得ない事由」は、正社員の解雇が有効となるための、合理的な理由があり、社会通念上相当と認められること(労働契約法16条)という要件よりも、更に限定的、制限的なものであると考えられています。

労働契約法
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 (略)

さらに、従来は、人員整理において、正社員よりも劣後した地位にあるとされてきましたが、現在は、パート有期法9条との関係で問題があります。

事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない、とされています(パート有期法9条)。

この「待遇」には,実務上「解雇」も含まれると考えられており、もし、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、労働時間が短いことのみをもって通常の労働者より先に解雇する場合、解雇対象者の選定基準の設定において差別的取扱いがなされていることとなり、パート有期法9条違反となるとされています。

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について
基発0724第2号 職発0724第5号 能発0724第1号 雇児発0724第1号 平成26年7月24日
4(法第9条関係)(9)
法第9条の要件を満たした場合については、事業主は短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用のほか、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等労働時間以外のすべての待遇について差別的取扱いをしてはならないものであること。
(略)
なお、経営上の理由により解雇を行う場合には、解雇対象の選定が妥当である必要があるが、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、労働時間が短いことのみをもって通常の労働者より先に解雇する場合には、解雇対象者の選定基準の設定において差別的取扱いがなされていることとなり、法第9条違反となるものであること。

[3]有期労働契約の契約更新を行わないことが無効となる場合があります

有期労働契約(契約社員、嘱託社員、アルバイト等)の契約を更新をしないことを「雇止め」といいます。

3回以上契約が更新されている場合や1年を超えて継続勤務している人については、契約を更新しない場合、使用者は30日前までに予告しなければならないとされています。

有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
(厚生労働省告示第三百五十七号)
(雇止めの予告)
第二条 使用者は、有期労働契約(当該契約を三回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。) を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに、その予告をしなければならない。

もっとも、相当程度の反復更新の実態があり期間の定めのない労働契約と同視できる場合、契約更新に合理的な期待が認められる場合には、事情が異なります。

このような場合には、雇止めが有効と言えるためには、雇止めに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることが必要となります(労働契約法19条)。

労働契約法
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

[4]解雇や倒産の増大を防ぐために求められること

さて、倒産実務に精通した弁護士の団体である全国倒産処理弁護士ネットワークは、昨日5月5日に、「事業の継続のために ―新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する緊急提言―」を発表していました。

この緊急提言は、次の6つの措置を講ずるよう呼びかけるものです。

1.売上が喪失・減少している事業者の固定費負担を軽減するための可能な限りの措置を講じること
2.雇用調整助成金をさらに拡充すること。また、やむを得ず一時解雇(レイオフ)をした場合であっても、失業等給付の支給を認めること
3.事業用賃貸借に基づく家賃については、売上の喪失・減少が長期化する事態に備えて、遡って3月末支払い分から支払いを猶予するための緊急立法を行うこと
4.事業者が負担する各種金融債務についても元利返済猶予を認めること、さらに立法やガイドライン等による返済猶予制度を設けること
5.税金や社会保険料等の公租公課については、申告期限延長、納税猶予制度の拡充・猶予基準の緩和のほか、必要に応じて税額の減免措置を講じること。さらに猶予期間中は原則として滞納処分を行わないようにすること
6.現時点での事業の維持継続を優先し、緊急融資によって資金繰りを支えること。その際には、経営者保証の徴求は厳に控えるとともに、将来、返済が困難になったとしてもいたずらに経営責任を問うべきではないこと

緊急事態宣言はいつどのような条件で緩和されるのかを指し示すとともに、こうした提言を踏まえた措置を講じ、解雇や倒産の増加を食い止めることが急務かと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?