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養育費の増額・減額はどのような場合に認められるのか

変更は簡単には認められない

いったん取り決めがされた養育費の金額を変更する。

これは簡単なことではありません。

もちろん、当事者双方が話し合いで金額の変更をすることは可能です。

しかしながら、話し合いでまとまらない場合は、調停を申し立てることになります。

養育費をもらう側が養育費の増額を求める場合には養育費増額調停を、養育費を支払う側が養育費の減額を求める場合は養育費減額調停を、家庭裁判所に申し立てることになります。

調停でもまとまらないとなると、審判に移行することとなります。

審判となった場合に、裁判所が一方的に養育費の額を変更することができるのは、「事情に変更を生じたとき」に限られます(民法880条)。

これが、養育費の金額の変更が簡単には認められない大きな理由です。

民法
(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる

事情変更が生じたときとは?

それでは、「事情に変更を生じたとき」つまり事情変更が生じたときとは、具体的にどういうことを意味するのでしょうか。

一般的に、事情変更が生じたと認められるためには、

1 合意等の前提となっていた客観的事情が変更したこと
2 事情の変更が当事者の予見した又は予見しうるものでないこと
3 事情変更が当事者の責めに帰することのできない事情により生じたこと
4 合意等どおり履行を強制することが著しく公平に反する場合であること

の4つをクリアする必要があるとされています。

養育費を支払う側の収入が減少したとき、養育費を支払う側が再婚をし子どもが生まれたとき・再婚相手の連れ子と養子縁組をしたときなどに養育費の減額調停を申し立てる・申し立てられることが多いのですが、こうした事情が発生したとしても、4つの要件をすべて満たすか、特に4つのうちの3と4をクリアできるかが問題となります。

新算定表の公表は事情変更には当たらない

昨年12月に養育費の算定基準となる算定表が改定・公表されました。

新算定表の公表は、上の4つの要件のうちの1つ目、「合意等の前提となっていた客観的事情の変化」とは性質が異なるとして、事情変更に当たらないとされています。

ですから、新算定表の公表を理由に養育費の増額を求めることはできませんので注意が必要です。

最近の解決事例

先日も、養育費の増額調停を申し立てられた側の代理人として対応をし、話し合いに応じる余地は一切ないという毅然とした態度ですぐに審判に移行させ、養育費増額の申立てを却下するとの審判を獲得しました。

離婚調停、離婚訴訟を経て、新算定表公表の約1か月前に和解離婚が成立した事案です。

申し立てた側は、新算定表公表の約1か月前の訴訟の和解時に、新算定表公表後に養育費の額を見直すとの合意をした、その合意に基づいて養育費増額の申立てをした、と主張していました。

新算定表を用いて双方の直近の収入をもとに再計算すると、養育費の金額が相当程度増える事案でした。

しかしながら、和解条項には見直しの合意があることを裏付ける記載はありませんでした。

そもそも、申し立てられた側は和解の際に和解条項に再協議の取決めを盛り込むことを明確に拒絶していたのです。

もちろん、たとえ、かりに再協議の取決めをしたとしても、事情の変更がない限り養育費の額の変更はできません。

和解時には、養育費を支払う側に収入の大きな変動があることを前提に養育費の額を決めておりましたから、収入の増加は当事者が予見できたものとも言えます。

さらに、養育費増額の申立ては、和解により養育費の額が取り決めがなさられてから短期間でなされたものであり、そのような短期間に養育費の増額をしなければならないほどの事情の変更が生じることは通常考えられません。

家庭裁判所は、審判にて

和解条項に再協議をする旨の記載はなく、かりに再協議の取決めがあったとしても事情の変更がない限り養育費の額の変更はできない、
和解時の取決めの前提となった当事者双方のあるべき収入額をもとに新算定表を用いて計算しても著しい増額があったとは認められない、
和解により養育費の額が取り決めがなされてから短期間の間に収入状況に大きな変化が生じたとは認められない

として、こちらの主張に沿った判断をしました。その審判は確定に至りました。

自営業の方や収入に変動がある方はもちろん、配偶者の一方のあるべき収入をどうとらえるか、住宅ローンの負担をどう考えるか、連れ子がいる場合の養育費をどう算定するのかなど、養育費や婚姻費用の額を決める上で争いになる要素は多々あります。

私は離婚案件を多数取り扱っていますが、養育費の増減や婚姻費用の決定について調停から審判までもつれた事案は、昨年は2件、今年(8月31日時点)は1件となっています。離婚について調停から訴訟までもつれた事案は、昨年は3件、すべて和解で解決しました。

写真は、昨年10月に北海道・美瑛の「青い池」を訪れた際に撮りました。

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