10/11稽古会を終えて
10月にも関わらず、異常な蒸し暑さが続く。そのためか夜はなかなか寝付きにくい日ばかりだった。早くカラッとした涼しさがやってきてほしい。
10月11日は今年のみ祝日でなくなったものの、私は年休を取得して午前は所用、午後は東灘区にある『整体だるま堂』の中西さんのところで施術を受け、そのあと夜にコミスタこうべへ向かって稽古を行った。
今回はなんと3名の方に来ていただいた。
前回の甲野善紀先生の講座へのご参加がきっかけて来て下さった方ばかり。
本当にありがたいことです。
今回のテーマは"浮き"をかけることを中心に稽古を行った。
まずは参加者の方に、前回の講座でも触れられていた甲野先生考案の様々な手の形を共有した。「旋段の手」や「虎拉ぎ」などは、初めての方でも明確な効果が得られるものだと思う。
一方で、甲野先生の技法・技術の根幹部分にあると言ってもよい、「"浮き"をかける」という技については、非常に理解もしづらいうえに2, 3日で習得できるものではないと思う。
これは、私の解釈でいえば、テクニックではなく"システム"なのではないか。技というより、身のこなし・身体の動かし方そのものが現代人のそれと全く質の異なるもの、だと考えている。
そのため、前者のようなテクニックとは異なり、ある程度身に着けるにはそれ相応の練習量は必要だし、その技術にはレベル感もあり、突き詰めれば突き詰めるほど練度が上がっていくと思う。
前半は、金山孝之先生が考案された鍛錬稽古「蟹」と「雀」と「蛙」を行った。これらは、蹴り足の機能を強制的になくし、脚部を股関節から引き揚げて身体に"浮き"をかける身体づくりにとても良い。
私自身、この基礎練のおかげでやっと浮きというものが朧げながら分かってきた。
"浮き"とは立っている状態から膝の力を抜き、足裏の圧が0になるほど上体を真下にストンと落とすような感じで行う。
そのため、浮きがかかるといっても約0.3秒から0.5秒ぐらいしかその"無重力状態"は保てないだろう。
その瞬間に歩を進めれば起こりなく瞬時に動けるし、
その瞬間に発力すれば(拳を突いたり剣を振り下ろしたり、あるいは相手を押したり等)大きな働き・力を相手に伝えられる。
実際に参加者の皆さんにも、合気道などでやられるような手刀を使った切り落としで浮きをかけながら手刀を振り下ろす組稽古をやっていただいた。
ただ、お伝えしてみて分かったが、これは初見の人にはちょっと伝えづらいものだったなと痛感。実際に何年練習していても難しく、どうしても手を下す際に肩が上がりやすく、押し下げるような形になってしまいがちだ。
それでも、手刀を上等な包丁に見立て、刃の反りに沿って円の軌道で切り落とすことと、切り落としと同時に本身は垂直方向に浮きをかけること、などのポイントをお伝えしたところ、初めての方でも何回かうまくやることができた。
そのあとは、松聲館技法でおなじみの「浪の下」で、相手に持たれた腕を下す練習法を行う。
これも私が思うにいくつか注意ポイントがあり、まず肩が上がらないこと。肩を上げないようにするには?それはもうひたすら下げ続けようとするしかない。これには特にテクニックやコツもなく、兎にも角にも肩は下げる。強いて言えば、肩峰端(肩の突起部分)に気を向けて、そこを押し下げる感じかもしれない。あとは、脇を軽く閉じ、肘・手首・指先と観ていくと、腕に働きが出てくる。
また、持たれていない腕もサボらせず、ちょうど「コマネチ」みたいな形で、鼠径部に沿うように肘を張った形をとり、その形が崩れないようゆっくりと股関節を畳んで沈んでいく。つまり、ゆっくりと"浮き"をかけていくような感じで行うと、うまく腕を下げられるようになる。
こちらは切り落としよりも分かりやすかったためか、参加者の方もうまくいっていたようだ。
最後に、「突き」をしようとしたが、その前にまずは重心側の足から動く練習をした方が良いと思い直した。
半身に構え、前重心の状態で、体重をかけている足から動く。
普通に動こうとすると、まずは体重を後ろ足にかけて蹴りだして進むことになるが、それをしない。
これも地味だがなかなか難しくなれない動きだと思う。
けれども、甲野先生などの払えない突きは、重心を変えることなく"浮き"で推進力を出し、速い突きが放たれる。
やってみるとわかるが、体重をかけた前足を上げると、前につんのめりそうになり、後ろ足が残ってしまうと思う。
そうならないように、身体に纏まりを保ったまま、浮き身のまま動けるようになる必要がある。
なかなか伝わりづらかったのでちょうど畳の目を利用し、角を中心に足を交互に差し替える練習をしてもらった。これも頭がぴょこぴょこしないよう浮きをかけて差し替えるようにする。こちらのほうが、重心側の足に浮きをかける感じがつかめるかと思う。
以上、若干声がかれてしまうくらいしどろもどろな説明をしながらの稽古だった。
なかなか思うようにはいかなかったものの、参加者の方も何かを掴めたようで、何よりだった。
以上のことは、甲野先生や、その周りにおられる実力者・松聲館技法研究員の方たちからすれば「常識中の常識」ぐらいのものだろう。
また、"浮き"というものが武術における極意だとか、何か秘伝めいたものでは決してないし、これさえできれば何でもできる、わけでもない。
あくまで、身のこなしの話である。
しかしながら、20年以上も前から甲野先生が提唱されていたこの辺りの身体運用は、いまだにスポーツ界に浸透しているとは言い難い。
やっぱり、なんだかんだ言って"蹴り足重視"な世の中だと思う。
こういった身のこなし方・体の捌き方が一般的常識となったら、
確実に平均的な運動能力は向上するのではないか、とすら思ってしまう。
私自身、まだまだ技量が足らない。10年近く武道に携わっていながら、この程度の実力なのだから。
あまり高尚な言説や説明、イメージを追わず、まずは身近で具体的な課題を一つずつこなしていこう。