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愛知県新体育館プロジェクトの情報を掘り下げてみる(設計・建設編)

2020年2月17日、愛知県は名古屋市にあるドルフィンズアリーナ(正式名称:愛知県体育館)の新施設となる愛知県新体育館整備・運営等事業の落札者選定結果を発表しました。

落 札 者 【 Aichi Smart Arena グループ 】
代表企業
 前田建設工業株式会社(設計・建設期間)
 株式会社NTTドコモ(維持管理・運営期間)

構成企業
 Anschutz Sports Holdings
 三井住友ファイナンス&リース株式会社
 東急株式会社
 中部日本放送株式会社
 株式会社日本政策投資銀行
 クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド株式会社

愛知県新体育館整備・運営等事業 落札者選定結果 より抜粋

愛知県新体育館整備・運営等事業(これまでの経緯) より


愛知県新体育館は、2026年に愛知県名古屋市で開催されるアジア大会(アジア版オリンピック)の主会場となる予定です。最大収容人数は17,000人と国内最大級の屋内施設となる予定です。

また、現在の愛知県体育館は大相撲名古屋場所の会場としても長年使用されており、Bリーグ名古屋ダイヤモンドドルフィンズのホーム会場としても使われています。

このnoteでは、本プロジェクト落札企業がどんな企業なのか、公開された資料から推測される新体育館の特徴を中心にまとめてみます。

設計・建設企業

設計建設の代表企業である前田建設工業はいわゆる準大手ゼネコンに該当する総合建設業者です。主なスタジアムアリーナ等の実績に「福岡ドーム」(竹中工務店JV)があります。Bリーグファンに馴染みのある実績としては富山グラウジーズのホームである「富山市総合体育館」(設計担当は山下設計)があります。

愛知県新体育館の設計デザインには以下の協力企業が発表されています。

隈研吾建築都市設計事務所
MANICA Architecture
(マニカ・アーキテクチャー、米国ミズーリ州カンザスシティー)
株式会社大建設計

世界的な建築家隈研吾氏の実績としては「新国立競技場」が有名です。新潟アルビレックスBBのホームである「アオーレ長岡」も隈研吾氏の設計です。

MANICA Architectureは世界の有名スタジアム・アリーナ建設で多数の実績がある企業です。NFLラスベガス・レイダースの新本拠地「Allegiant Stadium」やNBAゴールデンステート・ウォリアーズの本拠地「Chase Center」もMANICA Architectureの設計です。

愛知県新体育館は、MANICA Architectureが日本のスタジアムアリーナ建設に関わる初めてのプロジェクトになります。

株式会社大建設計の実績としては、シーホース三河のホーム「ウィングアリーナ刈谷」、茨城ロボッツのホーム「アダストリアみとアリーナ」があります。

新体育館のコンセプト

<コンセプト>
① 大相撲名古屋場所にふさわしい風格のある施設
② ピンポン外交など 50 年以上の愛知県体育館の歴史を引き継ぐ施設
③ 全国大会を常時開催できる施設
④ アジア大会を始めとした国際大会を開催できる施設
⑤ 全国レベルのコンサート、イベント、コンベンション等の拠点となる施設
愛知県新体育館整備・運営等事業 入札説明書(2020年8月) より抜粋

愛知県の掲げるこのコンセプトより、この新体育館のメイン用途は

①大相撲名古屋場所

②スポーツの全国大会、国際大会

③大規模コンサート、イベント

を想定していると考えられます。


新体育館の外観・内観イメージ図

大村秀章愛知県知事のTwitter(@ohmura_hideaki)より引用

メインアリーナの観客席は「ハイブリッドオーバル型(楕円型+馬蹄型)」つまり、一般的な楕円型観客席の短い一辺に観客席が無く舞台が常設されている、ちょっとふくらんだU字型と思われます。

上のイメージ図で、バスケットボール開催時とコンサート開催時を比較して見ると分かりやすいですね。


現在の愛知県体育館の利用は

現在の愛知県体育館の床はエポキシ樹脂モルタルウレタン、2階観客席は一般的な四角い四面配置です。

この現体育館の観客席で最も大変なのは大相撲の升席の設置です。

土俵をアリーナ面中央に作って、そこから升席を四方に広げていきますが、升席は4名が前後に並んで座るため、席の床1段が広くなってしまいます。

結果、升席を仮設席で作ると傾斜が緩くなり、愛知県体育館では固定席の2階席にも仮設パイプで升席を広げています。

以下のツイートでも大相撲の升席を作る様子がよく分かります。

そして、アリーナ面が広すぎて2階席も低いため、バスケットボール開催時には1階仮設席とコートの間が広く空いてしまっています。

つまり、観客を入れるスポーツ興行には不向きな施設ということです。
特に大相撲での升席設置には1回で数百万以上の経費と労力がかかっているはずですので、何とかそこは解消したいでしょう。








馬蹄形はステージを常設出来る設計

新体育館にも採用された馬蹄形(U字型)の客席配置の特徴は、ステージを常設出来る事にあります。オペラハウスの観客席をイメージすれば分かりやすいでしょうか。

https://masafumiiwasaki.com/blog/operahouse-point/

ステージが常設出来るという事は、控室や音響室、出演者動線などの必要諸室もそれに合わせて配置可能になり、コンサートや演劇などの舞台イベントが使いやすい施設である、と言えます。

もちろん大相撲やスポーツ興行時にはステージ側にも観客席を設置可能でしょうが、運営的にもこの施設が最大限に力を発揮するのは舞台イベントでしょう。

新体育館はバスケットボール観戦には不向き?

愛知県知事のツイート画像を見ても、バスケットボール開催時のアリーナ席は傾斜がとても緩く、アリーナ席後方からの観戦はとても遠く感じられそうです。

それはこの新体育館がコンセプトにもある通り、大相撲と舞台イベントを主目的として設計されるからです。

隈研吾氏のような世界的な建築家や世界の有名スタジアムアリーナを手掛けてきたマニカ・アーキテクチャーがどんな素晴らしい施設を建てるのかとても楽しみです。

が、私が大好きなバスケットボールBリーグのチームがホームアリーナをするのかと考えると疑問です。

2024年には新アリーナ基準によるリーグ再編が行われますが、名古屋ダイヤモンドドルフィンズは「このアリーナがあるから新基準も大丈夫!」とは考えない方がよさそうです。

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