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鑑賞ゲリラ Vol.42『濡れ黒』レポート(2) 2024/4/14開催

開催情報

【開催日】2024年4月14日(日)
【会場】Gallery White Cube Nagoya Japan
【展覧会】安野亨 作品展「漆黒の」
   会期:2024年4月4日(木) ー 4月14日(日) 
【出品作家】安野亨(ANNO Tooru)

内容

作品

[黒(暗闇)についての5つの考察]より《船 _The ship》 2024年

会場のGallery White Cube Nagoya Japanには、天井、壁面、床が「白」と「黒」の二の空間がある。安野さんは黒い空間に作品を展示している。「黒(暗闇)」から想起されたモノやコトより絞り込んだ[黒(暗闇)についての5つの考察]。その中から《船 _The ship》を鑑賞した。
作品は手前から簾のようなもの、その後ろに写真のようなものがあり、後ろから光源で照らされている。

鑑賞内容

ファシリテーター(以下F):まずは、じっくりと遠くから近くから、横から、後ろ方向からもご覧になってください。

F:何が見えたか、あったか、気づいたことなど教えてください。
▶︎何にでも見えるなと思った。宇宙にある星雲とか人の体とかトルソ、繭、なんにしても柔らいもの。後ろから光に照らされて立体感がでている。
F:後ろにあるものについてご意見をいただきました。では、後ろのものについてまずは見ていきましょう。他には?
▶︎クリオネ。
F:どこからそう思ったのですか?
▶︎色とか形で。
F:星雲という遥か彼方の大きなもの、クリオネという小さなものというご意見が出ました。この差は大きいですね。他には?
▶︎光の残像
F:どの辺りからそう思ったのですか?
▶︎なにか曖昧な。。
F:もわっとした感じ。「もの」ではなく「光」という、違う角度で見えてきました。
他には?
▶︎女性の体に見える。
F:どこからそう思ったのですか?
▶︎くびれから。太ももがあるなと思ったけれど、胸の辺りがなんか違うかもと思ったり。

F:(一旦これまで出た意見をまとめて)では、この手前のものは何でしょうね?
▶︎扇風機で風がきていて、煌めきがあるのは意図的なことかなと。
▶︎クリップに見える。
F:まさしくですね!クリップがいっぱい繋がれています。クリップだとわかってどう感じられましたか?
▶︎ひとつひとつはクリップだけど、これだけ連なるとクリップではなくなるなと。光の点のようにも見えるし揺れているし、後ろの像が見えにくいのか、そうなる効果があるのか。何か意図があると思うけれど、まだよくわからない。

F:では皆さんで考えていきましょうか。

▶︎後ろにある柔らかいイメージのものと、その前にあるものは対比するようなものではないか。邪魔しているというか。先ほど見た《心の闇 _Darkness》と同じように対比してる気がする。
クリップは繋ぎ留める、まとめる、束にするものだと考えると、先ほど見た作品は金属で押さえつけていた。それと同じような意味があるように思える。
▶︎クリップがたくさんあるけれど、最初これが無いものとして後ろの像を見ていた。見えないさまざまな規制などが実はあるんだということを表現しているのでは。実はあるけれど、それを見ないでいるというか。自由に揺れているのはラフで柔らかな感じで厳しくはないけれど、実はひとつひとつ、いろんなものが規制されている。
F:社会のいろんなルールとかは確実にあるけれど、普段はそんなに気にしていないというようなことかな。。。
▶︎「無きものとしている」という言葉に「はぁー」っと思った。後ろのものをヌードとして見て、そっちばかり見ようとしていた。手前のものがあるけれど、気にせず後ろのものを見ようという意識が働いた。社会にはこういうことは大有りだなと思った。クリップがあるのはそういう意図なのかな。先ほどの意見に納得した。
F:そうですね。最初皆さんも奥のものを見て話が始まりました。見えてはいる、あるけれど、無いものとして見ちゃうというような、そんな効果があるんでしょうか。。。
▶︎作家の膨大な作業が徒労に終わってる。。
(一同大爆笑)
F:数えるのも嫌になるほどたくさんありますものねー

F:まだお話されていない方、これまでの話を聞かれて何かありますか?
▶︎奥のものが星雲に見えいて、それは4、5万年前の光が写ってる。クリップは面として見えて、常に揺れているのは無常の空間。奥は4、5万年前?、手前は無常に揺らぐ比較的近い今を表している。手間と奥にある空間は時空。
F:すごいですね。ここに時空が現れましたね。何万年前の光がやっとここに届いている。無常という言葉がありましたが、社会のルールなどしがらみの中にいる私たちをあらわしているのでしょうか。

F:私はもっと違う見方という方は?
▶︎奥も手前も動いているように見える。その動くスピードが違うなと思って。奥はわからないくらいゆっくり。手間はコンピューターの画面のように見えて数字が走っているようなすごいスピード。先ほどの意見にも近いけれど、スピード感の違いみたいなことを感じる。
▶︎宮島達男的な。
F:(宮島達男さんの作品の説明をする)宮島さんの作品は、ゆっくりだったり速かったりと点滅する数字の速度が違います。同様に時間の速さ的な話が出ましたね。

F:クリップが煌めいているのは、どんな風に思いますか?
▶︎ここにある、ちいさな水晶みたいなのは、単なる重しですか?妙に気になる。
▶︎それぞれの作品のところに何か置いてある。
F:作品のアイコンとして置いているそうです。作品の一部ではないが、印象づけるものとして置いてあります。種あかしをすると、水晶にみえるのは「氷」を表しているそうです。これを聞いて何か別の考えが浮かびますか?
▶︎氷に閉ざされていたものが溶け出して現れたという。何億年前のものが。

F:(先の問いにもどす)クリップがゆらゆら、きらきら煌めいているのは、どんな効果があるのでしょうか?無常や社会の規制だったり意見は出ましたが。これがあるか無いかで考えた場合、後ろのものの見え方は変わりますか?
▶︎他の作品との影響があると思う。女性の裸体の写真が多い。女性の裸体を使って他のイメージを見せようとしていると思う。
▶︎光や空気や音もかもしれないが、あまりにもあたり前過ぎて、あるのに無い。あっても意識に残ってこない、そんな中にふらふらいるような感じです。
F:意識がなく見えてしまう・・・ということで、時間です。いったい何をあらわしているのか、いろいろ考えられたと思いますがトークの時に訊いてみましょう。
時空をあちこち飛びましたね。宇宙に行ったりクリオネに行ったりと、何万年も前の光を感じたり。時間や空間や無常感、社会のルールまで、作品から感じられました。
作家さんはどんな風に思って作品をこの空間に設えたのでしょうか。


タイタニック号のイメージとクリップの簾は泡をあらわしているという作品。情報として、クリップのゆらゆらした影を提示すれば、泡や水の中というワードが出たり、アイコンの「氷」の話題に少し逸れたタイミングでタイトルを明かしたら、違う展開になったなと思った。
タイトルを最後まで明かさなかったからか、哲学的な話を皆さんがしていく中で、結果、安野さんの作品に通底する「時」を論じていた。そんな参加者の皆さんの鋭い鑑賞力に驚いた。
会場に流れていたブライアン・イーノのアルバム『The Ship』にも触れたい。遥か遠い宇宙のどこかで浮遊しているような、あるいは暗闇の沈没船から漂う泡のような気分になる。絶望から解放に向かうようなラストの曲「I'm set free」を掘っていくと、絶対的な世界なんてものはなくて我われが見ているのは「イリュージョン」「空」であるという解釈があったのは、鑑賞の中で出てきた感覚にも近いなと更に驚いた。

【ファシリテーター・レポート】城所豊美
【鑑賞時間】約25分


参考
・宮島達男の作品:暗い部屋に置かれたLEDのデジタルカウンターが1から9までの数字を刻む。 カウンターは数千個単位で用いられることが多く、その明滅する速度は一定ではなく個々のLEDによって異なる。 そして決して0(ゼロ)を表示しない。

参照
・『The Ship』について:
https://www.ele-king.net/review/album/005153/
https://blog.goo.ne.jp/wakaby/e/35b1051767ed5e6b977ea89777db130e

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