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コムギのいた生活

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7才の若さで悪性腫瘍に侵されていることが発覚してしまった愛犬コムギとのかけがえのない日々。 犬の幸せとは何か、飼い主として出来ることは何か、そして命とは。 少しづつ最後の時に向か…
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#犬のいる生活

コムギのいた生活 5 -癌治療の開始-

コムギのいた生活 5 -癌治療の開始-

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「悪性腫瘍には腺腫とリンパ腫があり治療方法も変わってきます。」
「リンパ腫の場合は抗癌剤治療がメインとなり転移の可能性を疑う必要がありますが、腺腫は転移の可能性は低く放射線治療と切除手術、抗癌剤を状況によって併用して対応します。」
「鼻腔内の場合はリンパ腫の可能性は低いのですが、念のためどちらか検査はしておきましょう。」
上背があり精悍な見た目の腫瘍科のM先生が手書きのメモで図解を

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コムギのいた生活 1 -発覚-

コムギのいた生活 1 -発覚-

残りわずかな命をそっと静かに灯すコムギを抱いて穏やかな陽の下を歩いていた。

もうほとんど自力では歩けないけれどもその野生の本能で外で排泄したがるコムギを抱きかかえて外に出た。
僕の肩に頭を預けるコムギを頬擦りしながら強く抱きしめ、鼻腔いっぱいにその豊穣な香りを吸い込み心地よく咽せる。
街路樹を介して優しく撫でてくる風を頬で受けながら、コムギと一緒に今まで当たり前のように何度も見てきた近所の目の前

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コムギのいた生活 2 -我が家に来た日-

コムギのいた生活 2 -我が家に来た日-

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2012年の夏、コムギは北関東の自然豊かな地で生を受けた。
産まれたばかりの子犬たちに会うために僕たちが電車を乗り継いでその地を訪れると、コムギは一緒に生まれた妹とともに連れられてきた。
芝生の上に放たれたコムギは傍にいた妹をぎゅっと踏みつけながら起ち上がると遠い空の彼方を凛と見上げた。
降り注ぐ夏の日差しに霞みながらも大地にその存在を刻むかのような凛々しい立ち姿に魅了された僕たち

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コムギのいた生活3 -好きなモノと嫌いなモノ-

コムギのいた生活3 -好きなモノと嫌いなモノ-

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我が家は築50年の古い一軒家のため外気がその隙間をついては進入してくる。
冬は暖房をつけても耐えきれない寒さになるためコタツを出す。
コムギはコタツが大好きだった。
少しの間離れていたリビングに戻ると先程までいたコムギの姿がなくなり、コタツ布団の一部が盛り上がって洞穴のような侵入路だけが残されていることがよくあった。
そのため冬はコムギの姿を見かける機会がめっきり少なくなってしまう

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コムギのいた生活4 -祈り-

コムギのいた生活4 -祈り-

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病気ひとつすること無く健康体そのもので、与えたご飯は必ず全て平げたうえでいつも物足りなさそうにしているコムギがご飯を残したことがあった。
食欲が無くて食べれないというよりは、食べたいのに食べれないといった様子で残してしまったカリカリご飯に向かって唸っていた。
唸り続けるコムギの様子をよく見てみるために近づくと、全部食べるつもりのご飯を取られてたまるかとばかりに僕たちに向かって吠えて

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