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コムギのいた生活

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7才の若さで悪性腫瘍に侵されていることが発覚してしまった愛犬コムギとのかけがえのない日々。 犬の幸せとは何か、飼い主として出来ることは何か、そして命とは。 少しづつ最後の時に向か…
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2022年2月の記事一覧

コムギのいた生活 1 -発覚-

コムギのいた生活 1 -発覚-

残りわずかな命をそっと静かに灯すコムギを抱いて穏やかな陽の下を歩いていた。

もうほとんど自力では歩けないけれどもその野生の本能で外で排泄したがるコムギを抱きかかえて外に出た。
僕の肩に頭を預けるコムギを頬擦りしながら強く抱きしめ、鼻腔いっぱいにその豊穣な香りを吸い込み心地よく咽せる。
街路樹を介して優しく撫でてくる風を頬で受けながら、コムギと一緒に今まで当たり前のように何度も見てきた近所の目の前

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コムギのいた生活 2 -我が家に来た日-

コムギのいた生活 2 -我が家に来た日-

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2012年の夏、コムギは北関東の自然豊かな地で生を受けた。
産まれたばかりの子犬たちに会うために僕たちが電車を乗り継いでその地を訪れると、コムギは一緒に生まれた妹とともに連れられてきた。
芝生の上に放たれたコムギは傍にいた妹をぎゅっと踏みつけながら起ち上がると遠い空の彼方を凛と見上げた。
降り注ぐ夏の日差しに霞みながらも大地にその存在を刻むかのような凛々しい立ち姿に魅了された僕たち

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コムギのいた生活3 -好きなモノと嫌いなモノ-

コムギのいた生活3 -好きなモノと嫌いなモノ-

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我が家は築50年の古い一軒家のため外気がその隙間をついては進入してくる。
冬は暖房をつけても耐えきれない寒さになるためコタツを出す。
コムギはコタツが大好きだった。
少しの間離れていたリビングに戻ると先程までいたコムギの姿がなくなり、コタツ布団の一部が盛り上がって洞穴のような侵入路だけが残されていることがよくあった。
そのため冬はコムギの姿を見かける機会がめっきり少なくなってしまう

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