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知識が発散する中で人は何を学ぶのか

時間とはなにか。ニュートンの運動法則、相対性理論、量子論に至るまであらゆる物理法則は時間の逆行を否定しない。エントロピーが時間を規定する。

エントロピーが増大することが、時間の経過を表すものであり、時間が経過するということは、知識、物質、エネルギーあらゆるものが発散していくことを意味する。

ビッグバンによって1つの高温の物体から宇宙が拡散したように、共通の微生物を祖先として多様な動物や植物に進化したように、知識は一つの根本的な知識から枝分かれしていく階層的な構造となっている。

人はこれまで、知識が発散する方向、収束する方向ともに必要性や好奇心によって明らかにしてきた。

このまま知識が収束する方向について知識を明らかにしていくと、いつかこの世界全てを捉えることができる1つの一般化された知識、万物を表現する数式にたどり着くだろう。

人の時間が寿命によって有限であるとき、限られた時間の中で、その人が社会の中でどの立ち位置にいるのか、いたいのかを考慮しながら、自身が備えるべき知識と、他者に補ってもらう知識を判断する必要がある。

そして、人々は互いの知識を提供しあい社会は構成され、時間の経過とともにさらに拡大を続ける。


時間とは

時間はまだ未知の部分が残されている概念ですが、時間を捉えるアプローチの1つにエントロピーがあります。”時間の矢 (Eddington, 2012)”と呼ばれる過去から未来を指す方向はエントロピーが増大していく方向と合致します。

エントロピーは、対象とする系の状態の乱雑さや無秩序の度合いを示す量です。高いエントロピーは高い乱雑さを意味し、低いエントロピーは秩序だった状態を意味します。

時間が進む方向にエントロピー増大の法則が成立します(Clausius, 1854)。エントロピー増大の法則は、熱力学の第二法則とも呼ばれ、孤立系のエントロピー(乱雑さや無秩序の度合い)は時間とともに増大するか、一定のままであるという法則です。これは、自然界における物理的過程の不可逆性を示す基本的な原理です。

実際に、時間の経過とともに、熱いコーヒーが冷めていくように、宇宙の膨張、生物の進化による種の増加などが進んでいきます。このような状態の乱雑性が進むほど、観測される状態が増えることで、知識も同様に発散し増大していきます。


知識の構造とは



Florida International University, 2024

知識は階層的になっています。例えば、学問体系を見るといくつかの大きな分野から細かく学問が分かれていきます (Florida International University, 2024)。

知識は発散する方向と収束する方向があります。人が新たな知識を獲得するとき、既存の知識から発散する方向、もしくは収束する方向に知識の開拓を進めてきました。

例えば、発散する方向とは神経科学分野での神経細胞の発火のメカニズムをもとに、情報科学分野で電気信号で再現したことで、これまでより人らしく判断できるAIの開発が進んできたことを指します。一方で、収束する方向とは、地球上の物体の運動を表すニュートン力学を、宇宙規模でも成り立つようにアインシュタインの相対性理論が導かれ、さらに宇宙を構成する最小の単位である電子や原子などの規模での運動を捉える量子力学が提唱されてきた流れを指します。

アインシュタインの相対性理論はそれまでに存在していたニュートン力学や電磁場のマクスウェル方程式や天文学など複数の理論を包括するものでした。収束する方向での知識の獲得が進んでいけば、やがて1つの理論、数式で世界の全てを表現することが可能になると考えられます。

現時点では、「電磁気力」「弱い力」「強い力」「重力」の4つの力を1つの力で捉えることが試みられており、これを実現する有望な理論の1つが超ひも理論とされます。

つまり、知識とは、収束する方向にある知識が発散する方向にある知識を一般的に説明する関係性となります。科学的には、一般的な理論が、特定の条件下で成立するとき、有効理論であるという表現がされます。


備えるべき知識

このように時間の経過とともに知識は発散し増大していく一方で、人の脳の容量や寿命は現状では同様に増えることはありません。したがって、限られた時間の中で自分が備えるべき知識を定めて、効率的に習得する必要があります。

1人でできることは限られるため、社会においてもそれぞれの得意な領域を提供しあいながら生活をしています。会社の単位では、それぞれの役割が分担され協力してサービスをつくり、国の単位では、それぞれの会社や行政が貨幣を媒介としてサービスを提供しあい、国際の単位では、各地域の特産物や生産性の高いサービスを貿易を通じて提供しあうことで、人々の生活は成り立ちます。

人が協力するということが重要であり、そのためにはコミュニケーションをする相手(自分の組織内だけでなく組織外の顧客なども含む)のことを、少なくともどちらか片方が理解する必要があります。例えば、異なる言語を話す2人が協力しようとするとき、どちらか片方は相手の言語を使うことができなければ、ほとんど意思疎通ができません。

以上のまとめとして、専門知識や技術を活用するエキスパートと、組織や業務をつくるマネージャーに大きく役割を分けて、備えるべき知識の方針を整理します。

エキスパート:

・自身の専門領域の知識の習得を最も重点的に進める
・コミュニケーションする相手の知識を習得する
・自身の専門領域の知識をさらに一般化した知識(収束する方向の知識)の習得をする

マネージャー:

・自身の会社や組織のサービスに関連する知識を広く習得する
・コミュニケーションする相手の知識を習得する
・自身の会社や組織のサービスに関連する知識をさらに一般化した知識(収束する方向の知識)の習得をする


Reference

Clausius, R. (1854). Ueber eine veränderte Form des zweiten Hauptsatzes der mechanischen Wärmetheorie. Annalen Der Physik, 169(12), 481–506.
Eddington, A. (2012). The Nature of the Physical World: Gifford Lectures (1927). Cambridge University Press.
Florida International University. (n.d.). Disciplines. Retrieved May 30, 2024, from https://miinds.fiu.edu/?page_id=33


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