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インサイダー取引の例

「インサイダー取引」という言葉をニュースで聞いたことはあっても、どんなルールなのかよく分からないという方もいるかと思います。
そこで本記事では、具体的にどのような行為がNGなのかについて、架空の事例を使って紹介します。

1.自社の情報をもとに株式を売買するケース

◆概要

自動車部品の製造メーカーであるA社では、部品の検査結果の改ざんが行われていたことが社内調査で判明したため、改ざんの事実を社外に公表しようと準備を進めていた。
A社に勤めるXさんは、上司からのメールでこのことを知り、「改ざんの事実が公表されるとA社の株価が暴落するのではないか」と考えた。
そこで、改ざんの事実が一般に公表される前に、自身が保有していたA社の株式をすべて売却した。

「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~(令和2年)」p46を参考に作成

◆ポイント

①未公表の重要な事実を知った場合、その事実の公表前に売買を行うのはNG
会社の従業員などが、投資家の判断に重大な影響を与えるような重要事実(もしも投資家がその事実を知れば、株式の「売り」や「買い」を当然行うような事実)を知りながら、その事実が一般に公表される前に株式を売買することを「インサイダー取引」といいます。
こうした行為は、株式市場の公正性や投資家の信頼を損なうため、「金融商品取引法」という法律で禁止されています。
普段の業務や同僚との会話の中で、未公表の重要事実(今期の業績予想、他社との業務提携など)を知ってしまうことがあります。その場合は、その事実が一般に公表されるまでの間、株式の売買を控えるようにしましょう。

②自社株式の売買時には、社内ルールを確認する
多くの会社では、インサイダー取引を未然に防止するために、「自社株式を売買する場合は事前に会社へ報告する」といった社内ルールが設けられています。こうした社内ルールに違反すると、懲戒処分の対象となるため、どのようなルールがあるかを事前に確認しましょう。(「インサイダー取引のFAQ」7-Q4)

③判断に迷ったら、担当部署に確認する
「ある情報が重要事実に該当するか」や「このタイミングで株式を売買してよいか」について、判断に迷うことがあります。その際は、自社の担当部署に問い合わせて、問題がないことをきちんと確認するようにしましょう。

2.取引先の情報をもとに株式を売買するケース

◆概要

コンサルティング会社であるA社は、電機メーカーであるB社と契約して、経営上のアドバイスを提供している。
A社に勤めるXさんは、B社との打ち合わせで、B社が新しいPCを近々販売予定であり、大きな利益が見込めることを知った。
Xさんは、「B社の株式を今のうちに買っておけば、計画の公表後に株価が値上がりして儲かるのではないか」と考えた。
そこで、PC販売の計画が公表される前に、B社の株式を購入した。

「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~(令和3年)」p52を参考に作成

◆ポイント

①取引先の重要事実を知った場合、その事実の公表前に売買を行うのはNG
取引先(自社との間で契約を締結している会社や、契約交渉中の会社)に関する一般に公表されていない重要事実を知った場合には、その情報が一般に公表される前に株式を売買することは禁止されています。(宮下 p175)
取引先に対してコンサルティング業務などを行う中で、未公表の重要事実(新製品の販売計画、他社との業務提携など)を知った場合は、その事実が一般に公表されるまでの間、その会社の株式の売買を控えるようにしましょう。

3.自社や取引先の情報を他人に教えるケース

◆概要

ゲームメーカーであるA社は、主力製品の売上が当初の予測よりも順調に伸びているため、業績予想値の上方修正を公表することになった。
A社に勤めるXさんは、社内の会議でこのことを知り、「A社の株式を今のうちに買っておけば、上方修正の公表後に株価が値上がりして儲かるのではないか」と考えた。
そこで、Xさんは、友人であるYさんに、「A社の株価が値上がりするので買っておくといいよ」と伝えた。
Yさんは、A社の業績予想値の上方修正が公表される前に、A社の株式を購入した。

「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~(令和2年)」p40を参考に作成

◆ポイント

①自社や取引先の重要事実を他人に教えたり、売買を勧めたりするのはNG
上場企業の従業員や、上場企業と取引のある人などのことを「会社関係者」といいます。
そうした会社関係者が、自社や取引先の重要事実を知った場合には、他人に利益を得させる目的(※)で、重要事実を他人に教えたり、売買を勧めたりすることは禁止されています。
そして、重要事実を直接聞いたり、売買を勧められたりした人が、実際に株式を売買した場合に限り、処罰の対象となります。(黒沼 p457-458)

※家族や友人にうっかり話してしまった場合は、「他人に利益を得させる目的」がないため、インサイダー取引規制の違反にはなりません。ただし、会社の情報を漏らしたとして、自社のルールに基づき懲戒処分の対象となる可能性があります。(黒沼 p457-458)

②会社関係者から重要事実を直接受領した場合、その事実の公表前に売買を行うのはNG
会社関係者から、一般に公表されていない重要事実を直接受領した人のことを「第一次情報受領者」といいます。
そうした第一次情報受領者が、その情報が一般に公表される前に株式を売買することは禁止されています(※)(宮下 p175)。
家族や親族との食事、友人との飲み会などで、相手が勤めている企業に関する未公表の重要事実を聞いてしまうこともあるかもしれません。その場合には、重要事実が一般に公表されるまでの間、その会社の株式の売買を控えるようにしましょう。

※第一次情報受領者からさらに情報の伝達を受けた人(第二次情報受領者)は規制の対象にはなりません。(宮下 p175)

参考文献