TIDEの大注目作品、超高額落札者の青山清利氏インタビュー

2020年10月に開催され、強烈な印象を与えた『tow of us』のSBIオークション。TIDE氏を追い続ける当ブログで、落札者である青山清利氏に、インタビューさせていただきました。

現代アートにおける最注目アーティスト、TIDE。その若き才能の魅力を多角的に掘り下げ、価値を徹底的に検証していきます。

今回は現代アートに造詣の深い実業家の青山清利さんのインタビューをお送りします。青山さんは数々のアーティストと交流があるほか、TIDEさんの”いちファン”としても知られています。

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引用:青山氏のInstagram(@aoyama9)

古物商として何千もの作品を見て磨かれた「審美眼」

───まずは軽く経歴などからお伺いしたいのですが。

青山清利(以下、青山) 若い頃は営業マンでした。27歳で起業し、古物商として会社を立ち上げました。もう約20年も前になります。

───独立後すぐに成功なさったと。アートとの関わりはどの辺りになるでしょうか?

青山 古物商として何千もの作品を見る機会があったんですね。古物商は絵画の他にクルマや時計などあらゆる高級品も扱いますが、そこでモノを見極める力、「審美眼」を徹底的に磨きました。この時の古物商での経験はかけがえのない財産です。

リーマンショックももちろん経験しているんですが、そこで紙屑同然になってしまった作品がある一方で、価値の残った作品もあった。そういった経験や感覚も自分の価値観に影響を与えています。

───紙屑同然……。それまで高値で取引されていたものがそんなに暴落してしまうんですか。

青山 ええ。「価値とは何か」ということを痛いほど思い知らされました。ただ、そこで学んだのは単に「アートは価値が落ちる」ということではありません。

「本物はどんな時代でも価値を保ち続ける」ということです。リーマンショックだろうが天変地異だろうが、時代を超える、価値のある作品が存在する。ここが私にとって非常に重要でした。

「もっと気軽に触れていい」アートとの距離感

───青山さんは普段どんなアーティストの作品に触れているのでしょうか?

青山 「多岐に渡る」という言い方が最も適切だと思います。アートにしろ、音楽にしろ、ジャンルを絞ることはありません。最近だと池田亮司さんのビジュアルインスタレーションを動画で観たのですが、面白かった。物理的・数学的アプローチを含めたパフォーマンスで新鮮味がありました。

───お聴きになる音楽もジャンルにこだわりはないと。

青山 そうですね。Spotifyで1年間聴いた音楽をまとめてくれる機能があるんですが、見事に統一感がありません(笑)。クラシックやジャズから、Massive Attack*1とかも聴きますし。

*1 イギリス・ブリストル出身の音楽ユニット。メンバーの3Dは匿名アーティストのBanksyと同一人物ではないかといわれている。

───Massive Attackといえば、少し前になりますが、Banksyは日本でも話題になり、一般ニュースでも取り上げられました。あの一連の騒動をどう思われますか?

青山 日本のBanksy騒動でつまらなかったのは、論点が「落書きがなぜ許される」でした。海外だと、Banksyの作品を観光資源として利用したりとたくましい。

例のネズミ(日の出駅近くの防潮扉に描かれた作品。Banksy公式作品集にも掲載されている)への批評ならまだわかるんですが、グラフティそのものに対する批判でした。

───アートに触れたことのない人々の反応だったと。

青山 そうですね。まだこのレベルかと。決して見下しているわけではないんです。アートというものに対する距離感が遠いと感じました。もっと気軽に触れていいのに。

青山さんが衝撃を受けたTIDEさんの作品

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引用:青山氏のInstagram(@aoyama9)

───TIDEさんの話に入ります。TIDEさんとの出会いはいつ頃だったのでしょうか?

青山 TIDEさんによるソロエキシビション『DEBUT』に呼んでいただいたのがきっかけです。 元々知人が注目していて、最初はインスタ等で知っていた程度でした。

大きいサイズの絵が展示してありました。モノクロ世界にも関わらず、繊細かつ大胆なペイントテクニックにより作品に奥行きを感じました。

───私もその『DEBUT』の場にいたのですが、ひとつひとつの作品に足を止め熱心に作品に接していた人が多かったのが印象的でした。

青山 そうですね。個展でも人気のない人は如実にわかります。悪い言い方をすると流し見というか。

TIDEさんの作品は、SNSといった画像ではあまり魅力は伝わって来なかった、実際に見るとモノクロとは思えない存在感を感じました。

───あの圧倒される感じは実際に現物を見ないとわからない存在感がありますよね。
『two of us』についてもお聞きしたいのですが。

青山 『two of us』に関しては彼の作品のメインのアイコンとなっている猫が大きく描かれており、オークションでも100号を超えるサイズのキャンバス作品は一度も出ていなかったので購入を決めました。

現在の絵画投資ブームについて

───今現在の絵画投資ブームについてもお聞きしたいのですが、率直にどう思われますか?

青山 絵に限らず国内外問わず、世界的に時計や車といったモノ(特にビンテージ)に対しての価格が上がっていると思います。 アートが盛り上がるのはとても良いことだと思っているが、いずれ訪れるバブル崩壊に伴うモノの暴落には備えておくべきでしょう。

シルクスクリーンに何百万円もの金額を投資するのであれば、多少知名度の低いキャンバス作品を購入した方が個人的には良いと思います。 最近は「大人の塗り絵」の様な絵もアート作品として値段が上がっていますが、時期が過ぎれば1/10、1/100の価値まで落ちてしまうので、注意した方が良いでしょう。

───なるほど。やはり本物を見抜く目というものは必要ですね。最近お気に入りの作家や作品はありますか?

青山 先日ホワイトストーンさんを通して1枚購入したのですが、ベトナムの若手作家でRonald Venturaは注目しています。

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引用:https://www.instagram.com/p/Beh7GYKAiOO/


───東南アジアの現代美術シーンもなかなか興味深いですよね。

青山 Ronald Venturaはその中でも突出した存在で、モチーフが多彩さと複雑なレイヤーが印象的なアーティストだと思います。

───こうしてお話しをお伺いするだけでも、青山さんはかなりアートに精通しているようにお見受けします。

青山 いえいえ。

───作品を投資として考える側面と、趣味として捉える側面、どちらが強いのでしょうか?

青山 「どちらの要素もある」とお答えするのが誠実な回答だと思います。完全に趣味と言い切るのは嘘になりますが、ただ投資のために行っているわけではないのも事実です。私はアートが心から好きなので、かなり趣味寄りですが。

青山 アートは購入すること自体も感動体験のひとつです。本やCDやDVDしか買ったことがない人は非常にもったいないと思います。今やフィジカル作品すら手にしたことがないという人も増えてきているでしょう。

特にTIDEさんの作品に触れると、アートとは単に「所有欲が満たされるだけのもの」ではないと改めて感じます。人生に刺激を与えてくれるんですね。
青山さんが注目する日本人アーティスト

青山 日本人アーティストだと小松美羽さんにも注目しています。

───岩手教育会館の壁画が印象的でした。

青山 7メートル×7メートルのパブリックアートですね。ああいった巨大作品もこなせるのが彼女の魅力だと思います。

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引用: https://twitter.com/komatsumiwa/status/998429055014748160

───この作品を生み出す源はいったい何なのだろう……と思ったくらいパワーがありました。

青山 八百万神や独特の死生観に圧倒されますよね。あの世代ならではとも思えない。小松さんの個性だと思います。趣味は狛犬研究だそうです。

───狛犬ですか?意外ですが何となく納得できます(笑)。着想が普通の人とはかけ離れていますね。

重要な位置づけにある『two of us』

さて、TIDEさんの話に戻します。かつては”いでたつひろ”や”IDETATSUHIRO"名義で活動していたTIDEさんですが、改名後はさらに注目度が上がっているという印象を受けます。VOIDでの個展『DEEPSLEEP』よりもさらに踏み込み、純粋に魅力が何段階も増していると感じました。

青山 私自身は先ほどに話したように『DEBUT』がきっかけですが、その頃から追いかけていた人にとっては色々な感慨があるのでしょうね。そういったアーティストの変遷という意味でも、この『two of us』は重要な位置づけにあると感じています。

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引用:青山氏のInstagram(@aoyama9)

───作品を目の前にすると説得力がありますね。この魅力を100%伝えられないのが歯がゆい部分もあります。

青山 PCのモニター越しでは絶対に伝わらない迫力があります。『two of us』に限りませんが、それが実際に個展に足を運んだり、作品を購入したりという動機になるでしょう。コロナ禍もあって、余計にそのペースが加速していると感じています。

NFTアートはNFTアートで面白いと思いますし、否定するつもりはありません。不思議と、みんなアートに対する情熱が再燃しているんです。

───単に家にこもる時間が増えたという面もありますし、内省的な作品が多いTIDEさんが注目を浴びるのも必然と感じます。

青山 もちろん以前から注目は集まっていたと思いますが、さらに多くの人を惹きつけるアーティストになるでしょうね。

───本日はありがとうございました。TIDEさんは今回だけでは語り尽くせない魅力があります。アーティストに関してもっと詳しい情報を知りたい方は、ぜひアーティストの公式SNS等をチェックしてみてください。


※今回のインタビューは2021年1月に行われたものです。

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