青野太一

書きたい。読みたい。読んでほしい。 盛岡市在住。22歳。

青野太一

書きたい。読みたい。読んでほしい。 盛岡市在住。22歳。

マガジン

  • 小説のようなもの。

    ふぃくしょんをくりえいしょん。

  • 日記のようなもの。

    みじかくて、かんたんな、ちいさな言葉。

  • 小論のようなもの。

    こんなこと考えたんだけど、どう思う?

  • 評論のようなもの。

    観てきたものや聞いたこと。今まで覚えたぜんぶ。

最近の記事

『突然死』【ショートショート】

 消毒液の香りが鼻を突き刺す。白くて明るい蛍光灯に照らされた部屋で、回転する丸いイスに座っていた。机の上の画面には、どこかのロゴが上下左右にぶつかりながら漂っている。 「お待たせしました」  私と同い年くらい、つまり40代くらいの男が、白衣を着てやってきた。その顔はひどく疲れていて、それは私の診断結果が悪いことを無言で伝えてきているようだった。 「驚かないで聞いてくださいね」 「はい」これは相当悪いんだなと直感した。唾を飲み込む。 「結果は、大腸がんでした。でも、それほど問題

    • 積読について語るときに僕の語ること。

       僕の本棚は、九割以上が積読で埋め尽くされている。その理由は、僕の読書方法にある。  まず、僕はとにかく量を読む。だいたい月に少なくとも30冊くらい。多いときは100冊とか。もちろん、全てに目を通しているわけじゃない。小説は全部読むけど。  ざっと目を通して面白そうだと思った本は、一次審査を突破する。これはかなり狭き門だ。だいたい十冊に一冊くらい。これでも精度が高くなった方で、数年前までは二十冊に一冊あれば良い方だった。審査で落とされた本たちは、売りに出されることになる。

      • 役に立たない僕は不要ですか?【エッセイ】

         社会に出たら役に立つ人間になりましょうね。僕らは、小さい頃から先生にこんなことを言われて育ってきた。実際には言われてないのかもしれないけれど、世の中からそんなメッセージを受け取ったのは確かだ。  役に立ったらその分、お金がもらえるんだよ。僕らは、母からそう教えられて育ってきた。実際に言葉で教わったわけではないのかもしれないけれど、そんな風に教育するのが正しいという空気が漂っていたのは確かだ。  役に立つってなんだろう。働くってことなのかもしれない。僕はもうすぐ働く。会社

        • 幸せは自分次第? んなわけねえだろ。

           幸せかどうかは、あなた次第なんです。そんな本が書店に並んでいた。本という文化的なものにすら、資本主義の魔の手が迫っていたとは。  集団主義的だと言われてきた日本においても、近年は個人の幸せを追求しようという傾向にあるように感じる。それに伴って、自己啓発本とかスピリチュアル的な本とかが飛ぶように売れているらしい。  そこでよく目にするのが、現状の自分で満足することができれば幸せになりますよ、という言葉だ。たしかに一理あるかもしれない。見栄を張るために消費をしたりだとか、世

        『突然死』【ショートショート】

        マガジン

        • 小説のようなもの。
          6本
        • 日記のようなもの。
          8本
        • 小論のようなもの。
          5本
        • 評論のようなもの。
          3本

        記事

          今週はこんな本を読んだ。【10/7-10/13】

          9冊も読んでしまった。 1週間は7日だ。9冊読んだとすると、1日1冊以上のペースで読んでいることになる。そんなに時間があるわけない。じゃあ、どうして。  そう。読んでいないからだ。「読む」にはかなりグラデーションがある。目を通しただけなのは、読んだと言えるのか。僕は、どこまでいっても、本当の意味で読んだとは言えないのだろうと思う。  だから僕は、読んでいないと主張する。でも、紛らわしいからタイトルは「読んだ本」としておいた。  いつも通り、ジャンルはバラバラ。別におすすめした

          今週はこんな本を読んだ。【10/7-10/13】

          『メタフィクション』【ショートショート】

           本の入り口はどこだろう。一冊の文庫本を覗き込みながら、ひとりの少年が考えている。俺、つまりこの物語の作者は、少年のことを何も知らない。あるいは、全てを知っているとも言えるだろう。なにしろ、この物語の中では俺が書いたことが全てなんだから。昨日、主人公が絵画の中の世界に迷い込む映画を見たところだった。本が好きだった彼は、本の中の世界に入ろうとしている。ほら、こんな感じで。  文庫本のちょうど真ん中のページを開いたとき、一瞬だけ姿を現した光の渦を、少年は見逃さなかった。文庫本の開

          『メタフィクション』【ショートショート】

          社会の嘘つき。【エッセイ】

           中学3年生のとき、僕は社会と約束した。大人になったら僕は働く。その代わりに、社会は僕に自由をくれると。  社会は僕を裏切ったんだ。自由なんてものは偽物だし、大人たちは楽しそうに見えて、本当は欲しくもない商品を買って見栄を張っているだけじゃないか。僕は知らなかった。こんなにも働くことが辛いなんて。  大体おかしいじゃないか。1日8時間も働かなきゃいけないなんて。フリーターになればいいじゃないかって? そんなことは僕も考えたさ。でも、同じだけ稼ごうと思ったら正社員よりも労働

          社会の嘘つき。【エッセイ】

          愛してるなんて、言わないで。【エッセイ】

           愛してる。なんとなく観ていた音楽番組は、そんな曲ばかり流していた。その後に始まった番組は、若者に人気らしいインフルエンサーを映している。「長続きの秘訣は、やっぱり言葉で愛情表現することですね。私たちですか? 私たちは——」  隣にいる彼女が、真剣な眼差しでテレビを見つめている。そういえば、以前このインフルエンサーの動画を見せてくれたことがあった。たぶんファンなのだろう。  僕は飲み物を取りに、冷蔵庫の方に向かった。テレビの内容を思い出してみる。考えてみると、彼女から「愛

          愛してるなんて、言わないで。【エッセイ】

          僕たちは皆、知らないうちに1日12時間働いているかもしれないと思った話。

           僕たちは一日何時間働いているのだろうか。正社員として働いている人にとっては、そんなこと聞くまでもないという人がほとんどだろう。ここでは、平均的にみて8時間くらいだと仮定しておく。果たして本当にそれで全てなのか。  シチズンがビジネスパーソンを対象に行った調査では、次のような結果が得られたそうだ。  スマホを使用しているとき、僕たちはどんなことをしているのか。それは、多くの場合がSNSやインターネットだろう。上記の結果から、毎日平均4時間程度をSNSやインターネットを使用

          僕たちは皆、知らないうちに1日12時間働いているかもしれないと思った話。

          『未開の地』【ショートショート】

          「知ってるか? この世界には近づいてはいけない場所があるらしいんだ」 「なにそれ。めっちゃ面白そうじゃん」  二人は、周りにはなにもない、だだっ広い場所で、雑談をしていた。 「今度そこに行ってみようかと思う」一人は冒険家だった。 「おい。近づいちゃいけないんじゃないのかよ」もう一人は無職だ。  彼らは子どもの頃からの友達で、冒険家の彼が出発する前と後に、無職の彼のもとへ会いに行くのが恒例となっていた。 「行ってはいけないところに行くのが冒険家ってもんだろ?」 「まあそうだけど

          『未開の地』【ショートショート】

          ジュラシック・パークは、世界一贅沢な前奏だ。【映画評論】

           『ジュラシック・パーク』を観ました。はい、今更です。自分でも何故このタイミングで観ることにしたのか、不思議でなりません。  正直に言って、内容はそれほど完成度が高いとは思いませんでした。しかし、当時のCG技術からして、あの恐竜の映像は驚くべきものだったとは想像できます。また、琥珀の中に埋まったアリから恐竜のDNAを採取するといった設定や人間が自然を支配しようとする西洋的な考え方に対して警鐘を鳴らすメッセージ性には、人工知能やバイオテクノロジーの進化に注目が集まる現代にも通

          ジュラシック・パークは、世界一贅沢な前奏だ。【映画評論】

          今週読んだ本をランキングにしてみたから見てみて。[9/30-10/6]

          紹介する前にちょっとだけまえがき。今週は読書週間だった。  6冊の本を読んだ。自分の中では割と読んだ方だと思う。市の図書館と大学の図書館、この二つを利用している僕は、返却期限という外的圧力を味方につけ、読書習慣を維持している。この方法は、かなりおすすめだ。  僕たち人間は、怠惰で愚か。そのことを認めた途端、なぜか読書が捗るようになった。さあ、不完全な人間を愛してみよう。 興味の範囲は無限大。   最近の興味は、専ら「意識」と「資本主義」である。  人間の意識がどれだけち

          今週読んだ本をランキングにしてみたから見てみて。[9/30-10/6]

          死ぬのがダメだと言うのなら。【エッセイ】

          「死にたい」僕がそう言うと、今まで笑ってテーブルを囲んでいた友達が、急に真剣な眼差しで「死ぬなんて言うなよ」と止めてくる。 「死にたい」僕がそう思うと、気を利かせたブラウザが、広告や動画で一生懸命に「死ぬなんていけません」と止めてくる。 「死にたい」僕がそう聞くと、いつもはあまり人に興味のない僕が、相手のことが心配になって「死ぬのはやめといた方が」と止めている。  死ぬことってそんなに悪いことなのだろうか。「生物学的に……」とかっていう説明は聞き飽きた。そんなことは分か

          死ぬのがダメだと言うのなら。【エッセイ】

          【エッセイ】「コク」ってなに?

           友達とカレーを食べに行った。友達は言う。「コクがあっておいしいね」どこで習ったわけでもないのに、世界はコクという言葉であふれている。それは言い過ぎかもしれないけれど、少なくとも食リポの世界ではそうだろう。コクってなんだろう。  ぼくはコクがあると感じたことは今までない。でも周りの人はコクを知っている。それはぼくだけが「まだ」なのか、ぼくはもうコクを体験してる(コクってる)のか。  悩んでいても仕方がない。調べてみた。  うーん。わからない。余計にわからなくなってしまった

          【エッセイ】「コク」ってなに?

          大人の勉強に、答えはない。

          攻撃化するSNS。 SNSを見ると、自分の考えを長々と述べている、そんなアカウントを多く見かけます。彼らは決まって一つの考えのみを支持しており、自分と考えが違う人がいると、これでもかというほど攻撃を行い、結果的に排除してしまいます。 驚きなのが、これが一つの考えに集中しているのではなく、正反対の二つの意見に対して、それぞれに正しいと思っている人が存在するということです。 僕は、彼らが主張する意見について、知識もなければあまり考えたこともないため、どちらが最もらしいことを

          大人の勉強に、答えはない。

          【ショートショート】『アイドルの秘密』

           中川咲希は、目を合わせようとしない夫に怒りが抑えられなくなって声を荒げた。近くにいたペットの猫が、驚いて後退りする。 「あのさぁ。まず目を見てよ! 本当に反省してる?」 「は、反省してるって。ほ、ほ、本当に何もしてないんだ。信じてほしい」雄介は焦った様子で話し始めるが、呂律が回らない。 「ホテルに入るとこ撮られといて何もしてないなんて、信じれるわけないじゃん」  20年近くアイドルとして活動する雄介は、20歳ほど年下の女子大生とホテルに入るところを週刊誌の記者に撮られたのだ

          【ショートショート】『アイドルの秘密』