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【快楽と不安】インプットとアウトプット、アーティストの危険性

当たり前に聞こえるが実のところ、映画監督の多くは創作活動をしていない時間が長い。読書、鑑賞、旅など“インプット”に傾倒し、快楽を優先している。このトピックでは、「アウトプットの重要性と注意点」を、知ることができる。“多作”になりがちなアーティストの、ために書く。

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アーティスト情報局:太一監督
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『 インプットとアウトプット バランス 』

かつてない芸術熱が高まる昨今、アーティストの社会地位が上がっている。アーティストの生活は変化し、まるで一般人かのような常識的な生活を獲得できるようになっている。もう、ハングリーさや命を賭したストイックな創作活動が注目される時代ではない。

一方、“情報”という価値が理解されるようになり、インプットし続ける快感が浸透している。

アーティストである以上、表現は自由であるしかし、そこには明確な目的と意図、そして正しい“評価”が伴わねばならない。業界キャリアが、社会地位が、才能があればこそ、“正しいアウトプット”が重要になる。それが、本業とは異なる手法であっても。

そこで、日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際ニュース:デヴィッド リンチ監督、「光の彫刻」がハリウッド アート フェアに登場

Felix art showで、デヴィッド リンチ監督の「光の彫刻」と呼ばれるランプが展示される。
Griffin Kayneギャラリーのビル グリフィンは、映画監督でありアーティストであるデヴィッド リンチの新作について、「すべては無意識に回帰する」と語る。「言葉で表現するなら、ランプというよりも彫刻です」

パンデミックの際、映画監督兼アーティストのデヴィッド リンチは、ランプを作ることを決意した。小型のものから高さのあるものまで、ダグラスファーを使用したものや金属を使用したものなどがあり、7月29日から8月1日までハリウッド ルーズベルト ホテルで開催されるFelix Art FairのKayne Griffinギャラリーのブースで展示される。

リンチ監督のキャンバスも数点展示される。「この作品を世界に紹介することは、私にとって非常にエキサイティングなことです。それをフェリックスで実現するのは、とても興味深いことです」

元ディズニー幹部のディーン ヴァレンタインが共同で設立した「フェリックス」は、ロサンゼルスの独特な環境下で開催されている。家具の上やバスルーム、クローゼットなどにアートを展示し、没入感のある体験を作り出している。

フェアは、デビッド・ホックニーが描いたプールを囲むカバナルームのみで行われる。Griffin氏は、「非常に興味深く、親密な空間です」と語る。「リンチの作品はすべて、無意識の世界、私たち全員を引き込む統一されたフィールドに回帰しています。だからこそ、これらの作品を一堂に集めて、この建物や建築物、歴史、ロサンゼルスとの関係といった文脈で展示するのは面白いと思ったのです」このフェアでは、今秋ロサンゼルスにオープン予定のNFTアートのフィジカルギャラリー「Vellum LA」によるNFTの展覧会「Sea Change」が開催され、作品は美術館仕様のLEDディスプレイ「Luma Canvas」で展示される。 - JULY 28, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 ニュースのよみかた: 』

巨匠映画監督デヴィッド リンチ監督の“彫刻ランプ”が、前衛的なアートフェアによりハリウッドの伝統ホテルで展示、販売される、という記事。

映画を撮影していない時間はすべてアート作品の創作活動に充てているリンチ監督は、ハリウッドの高台にある自宅兼アトリエに籠もって作業を続けている。多才だと表現されることがあるが、そうだとは想わない。

リンチ監督のアート作品も映画もすべて、メッセージとテーマは統一されている。そのテーマに合わせて、表現手法を変えているということだろう。

『 “インプット中毒”に注意 』

情報を浴びて知見を増やした気になることは、精神的な快感を引き起こす。

SNSの評価拡大により個人でも“著名”を気取れるようになった個の時代に、“インプット中毒”は見過ごせない。たとえば一例に、サブスクリプションNewsサービスを通読して広い情報を網羅している人々がいわゆる“ビジネス芸人”のNews深読みに触れて、社会を俯瞰できている気分になる、それも“インプット中毒”の症状だと言える。

見聞きした情報はすべて取材後の記事化ともすれば“翻訳”を経た二次情報、三次、四次情報であり、情報としての本質は見えていない。更にそれを深読みしているビジネス芸人のそれはまた“芸”であり、エンターテインメントだ。師と仰ぐ盲目の先には、情報を鵜呑みにする以外の路は無い。

一般人ならば、それでいい。しかし“表現者”としてのアーティストであるなら、インプット作業に満足している自分をこそ客観視できるようになるべきだ。一般情報は“ガイドマップ”であり、“本物だと信じられる情報”は自らの足を使い、耳目で、時間と経費と労を賭して獲得するべきものなのだから。

『 アウトプットの失敗例、“多作症状”とは 』

そんな日々にアーティストたちに、危険な“症状”が出始めている。「インプット快楽による“多作”症状」だ。

インプットの快楽は一般人に、満足感を与える。
しかし表現者でありながら社交下手なアーティストには、「多作」という症状として現れる。“多作”とは、才能の安売りとブランド汚しの現れである。これは国際的な成功者たちが懸念している症状であり明確に、“作業が早い天才”とは区別して語られる。

「多作」の症状は、作業が早いわけでも表現したいテーマが爆発しているわけでもなく、「情報に遅れている自分の不安を払拭するための誤魔化し」だと言われる。「実力と実績が無く、キャリアの浅く“若くない”アーティストが多作になる傾向がある」とは、かつてカンヌ国際映画祭事務局にも従事していた映画祭ディレクターの言葉だ。重要なメッセージだと感じている。

「快楽を生むインプット」と「不安によるアウトプット」はどちらにも、危険な中毒性がある。正しいバランスを見極めて、自身を制御する必要があるようだ。

『 編集後記:』

スタジオは、暗い。
電球色は約3000Kで暖色系、昼白色は約5000Kで寒色系なのだが、どちらも使えないためだ。優しい電球色が好きだが色味が強すぎて、編集用の“色”を確認する専用モニターで正しいカラーグレーディングが行えなくなってしまう。だが、スタジオに標準的な5,200Kでは、まるでサロンのように“白”過ぎて落ち着かない。結果、モニターの反射光の中で生活することとなる。

なお、視力は良く現在も裸眼だが、太陽と仲が悪い。

暗い劇場に光を点すべく、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

■ 太一(映画家):アーティスト業界情報局 × 日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、 監督がスタジオから発する生存の記