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企業とアーティストは、組める

とかく相反すると考えられている「企業」と「アーティスト」。だが両者は実のところ、相性がいい。このトピックでは、アーティストが企業と向かい合う時に重要なアクションを、知ることができる。
クリエイターとアーティストたちが、企画を成立しやすくなるだろう。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 企業とアーティスト、それぞれの性質 』

企業は、芸術が好きだ。
社長室や大会議室に飾られているセンスの悪い場違いな絵画も、欲しくて手に入れている。また、直接収益にもならない文化事業への支援にも、積極的なものだ。むしろ、そうではない企業は社員の離職率が高く、ブランド価値も低い。

アーティストは、創作活動を生きている。
社会から隔絶された日常的なクリエイティヴの深奥は、成功者や企業へのひがみと、平和な一般人への苛立ちを内包している。また一方で、世界的な成功をおさめて平和な日常を手に入れたいと願っており、企業からの出資を夢見ている。

にもかかわらず、
アーティストは企業に牙をむき、企業はマイノリティよりも、マスに迎合する。まるで敵対しているかのように観える両者だが実のところ、相性は良い。むしろ、互いが目指している場所はほぼ、同じなのだ。

そこで、日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際ニュース:映画業界から疎外されているフィルムメイカーを支援、100万ドルを提供して600人の雇用を創出

 レナ ワイテは長年にわたり、社会から疎外されたフィルムメイカーを支援することを提唱してきた人物だ。ワイテは、世界的な求人情報サイトIndeedとの新たなパートナーシップを受けて、100万ドルの投資から短編映画を生み出した。その短編映画は“トライベッカ国際映画祭”の特別イベントでワールドプレミアとなり、ワイテとIndeedのCEOであるChris Hyamsが出席。今回のパートナーシップが「Indeedの幅広い目標」から生まれたものである、と語った。IndeedのCEOが言う。「私たちの使命は、人々が仕事を得られるようにすること。私たちは、テレビ広告に100万ドルを費やすことは簡単にできますが、その代わりに、その100万ドルをBIPOCの映画制作者に投資して、仕事の意味について彼ら自身の視点からストーリーを語ってもらったらどうだろうと考えました」レナ ワイテが語る。「映画業界から疎外されている彼らは、独自の個性を持っています。彼らは私と同じ恵まれた環境にはありませんが、わたしは彼らと同じことはできません。彼らの個性は、本質的に異なる価値があるんです。」IndeedのCEOのHyams氏によると、映画制作者を制作の全過程でサポートするこのプログラムは、600人以上の雇用を創出したそう。「私たちIndeedの考えは、才能は世界共通だが、機会はそうではないというものです。」ワイテが言う。「私たちは "夢を叶える "ビジネスをしています。このような映画監督と初めて仕事をするとき、私たちは彼らの旅の始まりに関わることができるのです。それはとても名誉なことです」このフィルムメイカーにはコンテンツ制作を継続するために、Indeedでのポジションが提供される。
- JUN 16, 2021 IndieWire -

『 ニュースのよみかた: 』

映画界のインディーズを支援する活動家がIndeed社とマッチングさせた結果、トライベッカ国際映画祭で上映された。Indeed社長も映画祭に同席して“社訓”を公告できてWin-Win、という記事。

インディペンデント作品がトライベッカ国際映画祭でワールドプレミアできたことはとても大きな成功だが、これもまた、「企業×アーティスト」の成果だと言える。

アーティストと映画人にとっては悔しい話だが、
どれだけ良質なストーリーテリングよりも、エントリーシートの「大企業協賛」の表記の方が、事務局の選出担当者たちの目に留まりやすい。それはひいきや迎合ではなく、「大企業という“成功証明”」から印を押されている状況つまり、膨大なエントリー作品の中ですでに、大きな検証をクリアしたという証なのだ。

この記事の中の支援者と企業代表のメッセージを、他意なく、通読してみるといい。きっと、貴方という偉大なアーティストが命を賭した作品にこめているメッセージとの相似に気付く。アーティストと企業(事業家)、それぞれに立場も活動も社会も異なりながら、両者は、酷似している。

『 アーティストと企業、目指す場所は同じ 』

まだ駆け出したばかりのスタートアップやベンチャーが掲げている社会貢献と平和讃頌は、ただの大義名分だ。「ふざけるな!」という声も聞こえる。だがわたしは100にも及ぶ新参の断末魔を聞き、世界を呪いながら滅ぶのを観てきた。いまわの際でも社会貢献と平和を謳っていた事業家を、わたしは観たことが無い。独りも、だ。

そこでここでは、The企業たる誰もが知るサイズを意図して話すことにする。企業には様々な形態があるがその中でも、コングロマリットではなく、単一事業を中核として、まだ創業社長が在籍してる成功企業としてみる。

一方、アーティストには、誰も彼もを想定しておく。
なぜなら、国際的なごくごく一部の成功者を除いてアーティストは、著名と無名、多作と寡作、老いも若きにもほぼ社会的な差がなく、一歩業界から外に出てみれば等しく無名であり、けっして裕福には程遠く、本業だけで生活できていることを“成功者”と見なすレベルの、弱者であるためだ。一部の富裕層は必ず“副業”で成果を得ており、国際的な著名人ですら、生活は楽ではないことが常だ。

「安定的にスタッフの生活を保証しながら、作業に没頭できる毎日の中で、独りでも多くの人々に豊かな時間を提供するために、人生のすべてを捧げる価値があると信じるこの活動で、業界の頂点に立ち、社会に認められ、その貢献を評価されて地位を築き、わたしの想いを理解するすべての人々に、平安と満足を提供したい。」

などと。これは薄っぺらいサンプルであるが、お判りだろうか。端的に申し上げる。ここまで性質の違う企業とアーティストだが、目指している場所は酷似しているものなのだ。上記サンプルが企業の想いなのか、アーティストの意思なのか、区別はつかないだろう。

『 どちらも人間 』

企業とアーティストは互いに、酷似している。
そして、互いに勘違いしている。

“どちらも人間”だということを、忘れている。

ここ「アーティスト業界情報局」の読者は圧倒的にアーティストが多いが実のところ、事業家もいる。地上波CMを流しているような、大企業の創業者たちだ。だからこそ、断言できる。企業は、芸術へのセンスが悪い。専門家であるアーティストと組んだ方がいい。

ブランド価値を証明するのに、好機なのだから。

そしてアーティストという社会のマイノリティは、企業の外枠と理解できない事業体を“物”だと想う癖をなくしたほうがいい。コングロマリットも事業体も、ただの人間だ。中にいるのは、老若男女、ただの人だ。決定するのも評価するのも、笑って泣いてまた朝になれば平静を装っているだけの、一般人なのだ。アーティストは、考えが固い。対人間だとして、自ら接してみて、“相手の話を聞ける”ようになった方がいい。成功した先は、一般社会を相手にするのだから。

継続的な創作活動を実現するのに、最適な理解者なのだから。

大切なのは両者が互いを、“学ばないこと”だ。
理由は明快。不可能だから、だ。中途半端な経験と勉強を重ねる時間は、ただの無駄である。重要なのは“共通言語を発見”し、共通の目的について語らう時間だけな筈だ。互いを活用するために是非、互いを学ばないべきだ。

『 互いの接し方 』

基本はシンプル。「知ったかぶりをしない」ことだ。

企業は、芸術を理解しているふりをすべきではない。
事業家がどれだけ傾倒した時代があろうと、アーティストにとっては素人時代のそれでしかなく、共感ポイントは得られない。事業家自身が芸術への理解と造詣を語る時間、目の前のアーティストは貴方をさげすみ、「(だからビジネス屋は――)」などと。ともすれば、殺意すら抱いている。芸術、アーティストへのリスペクトは、「彼らの話を、興味深く聞く」それだけで届く。むしろ、それがアーティストと関係を維持するための唯一無二の方法である。

アーティストは、企業と事業に興味があるふりをすべきではない。
アーティストがどれだけ“日経朝夕刊”を通読していようと、永久に事業の素人であることは変わらない。致命的なことにアーティストは、「お金の正体」を知らない。意味が判らない貴方は当然アーティストなのであり、知ろうとする必要すらない。ただ、目の前の事業家はその勉強と経験に人生を賭している戦士であり、素人とのスパーリングには興味がない。

ちなみにアーティストは、「企画書」などというものを、絶対に持参してはいけない。貴方が2週間徹夜する企画書は、事業部の新米が通勤車内にスマホでメモする“ペラいちのメモ”にも、劣る。アーティストが書く“企画書”には事業概要の核がなく、ただダラダラと妄言が文字化されているに過ぎない。

言葉の取捨選択は成されていず、同じ小さな内容がループしている。そのくせ、欲望だけは爆発しており失礼極まりないアピールになっている。貴方の前で事業家が2時間、学生時代のポエムを披露している状況を想像するといい。きっと、魂の刀を抜くだろう。

アーティストの武器は、貴方自身。貴方自身を正直に晒し、貴方の言葉で、端的に語ることがすべて。かならず、1時間以内の退席をルールとすべきだ。事業家の1時間はともすれば、貴方の作品の製作費よりも、高額なのである。

ここまで通読して気付くなら、貴方はセンスがある。

  事業家は、アーティストである。
  アーティストが生み出そうとしている作品は、事業なのである。

『 編集後記:』

大使館ばかりの路地裏に、小さな八百屋がある。そこに“さとうきび”が売られていた。見た目は濃い紫の細い竹筒。30㎝に切り分けられたそれぞれはずしりと重く、小分けされているビニールの内側は糖分で濡れている。

13回訪問した、種子島の夏を想う。
中種子を過ぎた辺りから始まるサトウキビ畑で、おばちゃんが作業をしていた。車を止めると戸惑うこともなく、笑顔で対応してくれる。同情していたプロデューサー二人のために、手持ちの鎌で切り落としてくれたサトウキビは、甘さの中にコクがあった。

初体験の味をよろこんでくれたプロデューサーたちの笑顔を想いながら、ピニールの1本を、買ってきた。

甘くはないが希望に想いざわめく、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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