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メジャーはもう、映画業界を護れない

メジャーの瓦解はもう、止まらない。
泥を噛み、地を這ったインディペンデントたちはこの混乱の時代にも、まるで動じていないはず。いま、“業界”を支えてみてはどうか。
恨みは、無しだ。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 最近のはなし: 』

「日本のアーティストたちを応援したいんです、本当の意味で。」
とは、28歳の新人プロデューサーの言葉だった。

勉強家で行動力も備える若き精鋭はきっと初めて発した発言だったことだろうしかし、わたしには、あぁまたか、という聞き慣れたストーリーである。この輝かしいメッセージから始まる物語は紆余曲折を経てやがて、フェードアウトに終わる。

どの作品も、殆どがそうだった。いくつかの例外もある。紆余曲折の過程で彼らは重い荷物を投げ出して、光の中へ、独りで去って行く。どのストーリーでも必ず、放置されたアーティストたちは呆然と見送るばかり。中には、失望を怒りに転化する者も少なくない。

無理もない。
だが、28歳の経験浅いプロデューサーは、実行力を備えているように見える。俯瞰の先に冷静な客観を備えており、期待値を上げる代わりに撤退への路を説く。時代と共に若者たちは賢く、堅実になっている印象だ。

彼らには特徴がある。“リスクを獲る”という行為をそのまま、「チャンス」に変換して理解している。群れず、ブルーオーシャンを求めて孤立を選ぶ。

日本のアーティストたちを応援する。
それは壮大過ぎで、成功への看板すら描けずにいるわたしに彼は言う。
「応援するので、どんどん走ってもらいましょう。勝てると想うんですよ彼らなら。世界に。」

ロンドンで4年間を生きた世界目線はそもそも、
アーティストたちを抱えて進もうなどとは考えていなかった。
彼はアーティストたちの力を、信じている。なるほど、面白い。

さて、はじめよう。


『 インディペンデントという弱者 』

インディペンデントがとどかない業界の天井は、メジャーが設定した。間違いない。日本のみならずわたしが知る限りにおいては映画界上位12ヶ国、すべてがそうだった。

インディペンデントはいつも“自称”という烙印を押され、マーケットにはとどかず、ショーレースへのエントリー権もなく、手製の真似事で作品を発表し続けるしか路は無い。映画祭での受賞だけが、夢だと信じられている。

だがその映画祭とて、夢にもならない。
世界三大映画祭にエントリーして受賞するためには、数千万円のロビー活動が必須である。15人のスタッフ、5名の出演者を連れて各国AAAのサービスを渡り歩く日々を想像してみればいい。ミシュランごときレストランでメジャー映画の完成披露パーティを開催するレベルとも、桁が違う。

製作費300万円の映画が数十億円の興行収入、なんて記事を観たことがあるだろうか。その宣伝活動、マーケティングには1億円以上が投じられる。それも、インディペンデントの手弁当マーケティングがクチコミによる成功を見せ始めたそこからの、“後乗り”である。

『 インディペンデントという強さ 』

インディペンデントは常に、自らリスクを負っている。頼る先は、無い。

成果は投資に見合わず、労は永久に続く。奇跡の輝きにすがればそこは“メジャー”への入り口でしかなく、成功には程遠い。カンヌ国際映画祭に受賞しても、水のシャワーを浴びて暮らす世界に、華はない。

気付いただろうか、
インディペンデントの強さを。
枯れても折れても、それを糧として立ち、進み、倒れたなら這いそれでも心を捨てず、作品に人々の夢を描き出す、その暴力的な優しさを。

インディペンデントこそ、時代の先にある未来を描ける逸材。
経験と実行力を備えたナビゲーターだ。

『 放置されるメジャー 』

映画館興業と、派生するブランド力が生むマーケット収益に維持されてきた映画界の構造は確実に、変化している。言葉を選ばずに書いてみれば、崩壊と再生ですらない“崩壊と同時の新築”である。

時代は早い。滅びを見届けることも無く、新たなプラットフォームに移行している。このスピードに、メジャーは追いつけない。社員を半数に減らして投資を倍に増やしてもそのスピードは半分にもとどかないつまり、全く通用しない、と伝えるより無い。

そのまま瓦解して、消える層も出てくるだろう。業界を放棄して、中国かストリーマーへの身売りで逃げ切る幹部も出てくるだろう。

しかし、未来が無いか、といえばそうではない。むしろ、チャンスはある。

インディペンデントに、倣えばいい。
彼らがいま、勇気と活力に満ちていることに気付いている者は多くない。ならばこそ、このチャンスを選べば良い。

メジャーを捨てて、インディペンデントに転じることだ。

慣習を捨て、業界常識を疑い、企業看板では無く、作品規模では無く、“個人”に着目し、その実行力に倣えば良い。プライドを抱えて死ぬもいいだが、泥にまみれて笑む喜びを知るのも、悪くは無い。

忘れてはいけない。メジャーの貴方たちが神と崇めたハリウッドは既に、“メジャーのインディペンデント化”を加速している。知らないふりは、通用しない。滅ぶか、選ぶか、二択である。その時は、目の前だ。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:劇場公開が必須ではなくなった現在、メジャースタジオはもう、映画界の王ではない

映画会社がついに、業界の主導権を失った。5月19日に開催された「The Big Screen Is Back」は本来、スタジオや配給会社が数千の出展者や数百のプレスを集めてラスベガスで開催される4日間のイベントだが、4時間足らずに凝縮され、約30人のジャーナリストに限定して公開された。驚くべきは、映画館での劇場公開が「オプション」として設定された事実だ。それは、劇場公開は選択肢の一つとなり、映画会社がもはやハリウッドを支配できていないことを意味する。この2年間に、兆候は多かった。Disney +、Apple +、HBO Max、Paramount +、Peacock、Discovery +など大手のストリーミング参入、劇場公開契約は90日間から45日間に半減し、20世紀フォックスを買収したディズニーは劇場配給を「古典的なプラットフォームだ」と評し、NETFLIXがニューヨークとロサンゼルスのフラッグシップ劇場を買収した。スキャンダルによりユニバーサルの代表、ワーナーの代表、独立スタジオの代表が解任され、AT&Tはワーナー・メディアを分社化して合併し、ディスカバリーを担当させ、アマゾンは90億ドルでMGMを買収を検討中。“メジャーな映画スタジオ”という言葉が、時代錯誤になった。Warners、Universal、Paramount、Disney、Sonyは、何十億もの利益を生む映画を提供する世界的なプレミア企業であることに変わりはないが、スタジオのボスたちが勢力図の下位に位置しているのは、業界を動かしているのがもはや映画ビジネスではないからである。Blumhouse社の創業者であるJason Blum氏は、「我々は今、世界の変曲点にいる」と述べた。 - MAY 21, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 編集後記:』

ハリウッドのメジャーが瓦解し、IP.のみならずスタジオ母艦こそが売買対象となり、ストリーマーが核を担っている。という記事。

まったく目新しいことは無く、メジャーの悲鳴が響くばかり。事実上“Cinema Con”の壇上からそれが公言された、という意味は大きい。インディペンデントたちのメジャーへの恨みは、大きい。

むしろ生き霊が飛んでいるだろうレベルなのも各国同様なのだが、そんな場合では無い。インディペンデントには好機でしかない現状ではあるが、その国の“メジャー”は、護らねばならない。

いまは悔しいだろう、いまは我慢ならないだろうだがその“メジャー”をこのまま崩壊させてしまえば、その国の“業界”は、消滅してしまう。解像度を上げてみれば、“他国への自国メジャー買収”を黙認し続ければ、自国のアーティストたちは職人として、消費される道具になってしまう。

他国が敵か味方かは、一切関係ない。重要なのは、他国の買収は、買収先ローカルの“工場機能”を使い、“ローカルマーケット”の収益を吸い上げることが目的だ、ということ。異論はあるだろうが残念ながら、
その人の真実は、“事実”では無い。

乾かない泥にまみれながら世界をみつめる、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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