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アーティストが知っておくべき、経済の仕組み

業界の垣根が消えゆくこのごろ、アーティストの活動範疇にも、大きな変化が起きている。クライアントやプロデューサー依存の生活は、もう続かない。驚くことは無い、ミケランジェロもピカソも北斎もそれぞれに、ストイック、演出、破天荒なセルフプロデュースで名を成したビジネスマンだ。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 最近のはなし: 』

再稼働をはじめたハリウッドの朝は、日本時間の深夜01時。
そのため必然、わたしが日本のスタジオに入るのは21:00頃になっている。
魂のバイオリズムを、日常用から、クリエイティヴ仕様へ。

だが、宅配ロッカーに届いている個人用の荷物が大箱のミネラルウォーターだと、心が止まる。キャリアーを持ち出しながら、昔出逢った登山家の話を想い出す。

エベレストを安全に登頂するには、400㎏の装備が必要になるのだという。
だが、400㎏の装備を引けば100%、死ぬ。
「登頂の成功」と「命あっての帰還」このX/Y軸の見極めがすべてなのだ、と教えてくれた。成功確率を上げれば、命は危うい。命を優先すれば、成功確率は下がる。命の限界まで荷物をそぎ落とすことこそが、成功へのルールだそうだ。

「技術? 坂を登って下りるだけだぞ」

彼の言葉もまた、シンプルで強い。

さて、はじめよう。


『 進化し損ねたコンテンツ産業 』

アーティストのそばには常に、クライアントやプロデューサーなど、経営庶務を担当してくれるパートナーがいた。それはなかなかに有効な機能であり、創作活動に専念したいアーティストと、その才能を活かして自身の企画を世に送り出したい製作者の役割分担ができていた。

しかし時代は加速した結果、あらゆるプロセスにおいてコモディティ化が進み、社会はよりシンプルな構造にトランスフォームすることで、悪路の変化に対応するための進化を遂げた。その社会進化にあぶれたのが、コンテンツ産業界だ。無念ながらその事実を、あらゆる数字が証明している。

ストリーマーたちの台頭を、“コンテンツ産業の発展”だと論じている経済学者がいるが、間違いだ。彼らはコンテンツホルダーである前に、「プラットフォーマー」である。

『 ビジョナリーが時代に乗り遅れる矛盾 』

しかしここで、疑問が湧く。
発想に富み、近未来を見据えるビジョナリーが集まるコンテンツ産業がなぜ、時代の進化に遅れたのか。楽観主義では無くむしろ悲観的で、受動的な情報消化に甘んずること無く能動的にアップデートを続ける習性を持ちながらなぜ、社会経済から脱落したのか。

そこに明確な解はないがひとつ、想い当たる。

アーティストは、世界が一時停止したこの苦境を、楽しんでいるのではないか。少なくとも大いなる刺激を受け、創作意欲に満ち、いまこそ史上にマイルストーンを刻もうと日々、ギラギラと創作活動に打ち込んでいる最中なのではないか。

世間の喧騒と悲鳴はアーティストにとって、BGMなのではないか、などと。批判の多い推察ではあるが、申し上げておく。
これは、わたし個人の告白であり、道徳と常識を逸脱した本能の叫び。よって少なからず、事実なのである。

過剰な自信がこそ、時代に遅れたのかもしれない。
たとえるなら、“医者の不養生”だ。

『 アーティストが学ぶべきビジネスがある 』

アーティストが急務として学ばねばならないのは、
“創作活動の前段階”と、“創作の後”である。
もうそれだけで眉をひそめるアーティストたちの顔が浮かぶが、無視だ。アーティストも転べば、膝をさする。いま貴方が属する芸術業界は、転んでいる。

もしかしたら、大出血、瀕死なのかもしれない。
ならばこそ、人生の目的“創作活動”の手を止めてでも、学ばなければならない情報がある。“学ぶ”が勘に障るのもわかる。ならば、「吸収し尽くす」ことが重要。

どうだ、この表現は気に入っただろう。
アーティストとはとても正直で、有能なのだ。

『 真に自由な創作活動を手に入れる時 』

いまさら“日経”を購読しなくてもいいだが、「資金を集める」ことと「作品を公開(販売)する」ところまでは、“自分で”、行えるようにする必要がある。できれば、ではない。自分で行える必要がある。そういう時代になったのだ。

またこの“断言”する感じが気に入らないのだろう。ならば、
「ついにその時代が着た!」ではどうか。やる気が出ただろう。

もう貴方はクライアントやプロデューサーの気分に振り回されることなく、存分に浸り、頭が爆発するまで突き詰めて、魂を炸裂させることが可能になるのだ。貴方の作品はあなたのもので、観客やメディアに迎合する必要もないそして、家族やパートナーに気兼ねする必要もなくなるのだ。

『 ミニマリスト思考 』

貴方が本物のアーティストならもう、先を知りたくしてしかたがないだろう。ならば、知ればいい。情報は全て、貴方の手に届く場所にある。

重要なのは情報ではなく、「何を選ばないか」だ。

あなたがアーティストの未来を設計するために最重要なのは、「何をしないか」を明確にすることだ。時代にも年齢にも経済状況にも健康にも左右されることなく、「人生から排除できる事項」をなるべく多く、切り落とすことだ。

その決定は己が死ぬ日まで、変えることはできない。アーティストの貴方ならその意味には気付いているはずだ。我々ごときの人生など、“作品”の材料に過ぎない。大切にする必要なんて、そもそもない。護るものなど、ないほど強い。

『 情報の使い方 』

「やらないこと」を決めたなら、それ以外の“全て”を吸収する必要がある。

テロリストが使用している中古車の最多ブランドがTOYOTAであること程度の常識では、足りない。意識高いレディが好む高級アロマキャンドルの素材がパラフィンから融点の低い“ソイ”に移行しておりこの夏の流通が課題になっていることにまで、意識を張り巡らさねばならない。

貴方は「自分の製作費を確保」し、「自分の作品を公開、販売」できねばならない。その為には、あらゆる情報を吸収する必要がある。
不可能なはずがない。貴方たちは文字化どころか写真や動画にも映らない“空気”や“心”をも捉え、作品の中に再現する能力者たちだ。

集めた情報の使い方を、アーティストの貴方はもう知っている。
断片的に観える情報は必ず、相互に影響し合っている。
その断片を並べ替え、補完し、ひとつの「ストーリー」に仕立てることだ。

駅前ので買ったコロッケとこの7月のカンヌ国際映画祭パルムドールも必ず、影響し合っている。間に必要な情報は必ず、「2つだけ」だ。
地球上のすべての人物とは、間に3人介せば必ず、連絡がつくという。
情報も同じだ。「ストーリーを仕立て」て「予算確保」と「販路確立」に、役立てれば良い。

『 “正しい先駆者”とは 』

不可能など無い。
黙って、やれ。言うからにはわたしこそ、やる。

10ヶ月も命を削れば、新常識レベルへのアップデートは可能だ。先駆者の誰もが、1年と言わず、10ヶ月と言う。理由は知らないが、その先は命枯れる日の朝まで、更新し続けるだけのこと。人生を賭した創作活動量に、プラスして、だ。

それでもどうしても、焦点が絞れないときがある。
その時は、“正しい先駆者”と組めばいい。今までのように、クライアントやプロデューサーに頼ったなら、意味はない。貴方は時代遅れの飼い犬のまま、朽ちる。

正しい先駆者、とは、「情報を吸収できて」おり「アップデートし続けられている」者のうち、「時代の最先端にいる」ことが観えている人のことだ。

『 相応しくないパートナーの特徴 』

どれか1つがかけてもその人物は、相応しい“先駆者”ではない。
正しい先駆者と組み、共に向上し続けることだけが裏技だ。
そのパートナーは、かならず、手の届く場所にいる。

見極めはシンプルだ。

SNSで政府を罵り、社会警察を気取っている人物は、該当者ではない。
タクシーを選ばず、駅で時刻表に文句を言っている人物は間に合わない。

また、作品を乱発公開しているアーティストもまた、該当しない。
焦点が絞れていれば、いま打つべき弾は見極められるはずであり、
無駄弾を仕込まない。

感情に左右されている人物もまた、該当しない。
感情とは、環境に影響されて後天的に発するものであり、
感情に揺れている人物はつまり、“過去に左右されている”状態にあるため、機能不全の状態にある。

どんなに先鋭的にみえたとしても、友人や同業界人とつるんでいる人物は、時代に遅れている。友と集えば共依存となり結果、破滅を選ぶ以外の選択肢は無い。沈みゆくタイタニックの中で誰と群れようと、共に危機だ。業界の未来を知るための情報は必ず、業界の外にある。

『 相応しいパートナーとは 』

貴方に相応しいパートナーを、見極めよう。

この混乱の現在に、落ち着いている穏やかな人物、が「正しい先駆者」である可能性が高い。その中で、“業界を超えた超一流たちと行動”しており、趣味を持たず、華美を選ばない、地味な存在ならば、間違いない。

走っていないように見える彼らは必ず、「近未来を設計」している。慌てなくて良い。彼らは、表に立つためのタイミングすら丁寧に、見極めているのだから。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:VARIETY共催ワークショップにて、ヨーロッパのプロデューサー志望者に、ライオンズゲートのヴァイス プレジデントが提言。「自国やコミュニティでなく、世界で起きていることを意識すべき」

VARIETY共催のACE Series Specialワークショップに、ライオンズゲートVP.のマーク ローバーが参加。「皆さんは自国や海外で十分な、長編映画のプロデュース経験を積んでいます。成熟した皆さんはわたしからの情報や見解を聞くだけで、自分の思い込みを見直すことができる筈です」このイベントは、経験豊富な独立系プロデューサーから、知見を深めたいと考えている第一線のプロフェッショナルなプロデューサーを対象としている。プロデューサーのためのワークショップは、既存および新規のストリーミング大手の参入に揺れる多くのエンターテインメント企業にとって、ますます重要性を増している。以下のような内容が語られた。「①:構造的な枠組みの中でのストーリー開発」「②:SCRIPT(※映画脚本)開発作業における創造的なダイナミクスと、ディレクター、コミッショニングエディター、プロデューサー自身の役割とは」「③:国際的な状況下でのシリーズの資金調達方法」「④:市場の可能性を発見し、(国際的な)観客および視聴者を見つける」「⑤:企画を戦略的に、既存の(映画)制作会社に統合する」「⑥:予算、資金調達、制作計画について」マークが語る。「たとえば“ストーリー開発”の場だとします。あなたのアイディアは、誰もが持っている物と変わりません。それは普遍的でありながら異なる必要があり、しかし、突飛なものは望ましくありません。なぜならあなたは同時に、大きなハードルを越えねばならないからです。グリーンライトを得て、資金を調達することです。相手が誰であれ、映画に興味を持ってくれない限り、その作品を世に送り出すことは難しい。世界中の人々と会って、彼らが自分の国でどのように行動しているのか、どのように解釈しているのかを真剣に聞くことが重要です。」プロデューサーは、自国ではなく、世界で起きていることを意識する必要があるという。 - MAY 21, 2021 VARIETY -

『 編集後記:』

いろいろ重要だがプロデューサーは、国外の動向を知ってこそ、という記事だ。ハリウッドの後発映画スタジオにして既にアカデミー賞を制している「ライオンズゲート」は、カナダの実業家フランク ギストラが設立したインディペンデントのスタジオだ。現在では既にアカデミー賞を制し、超大作シリーズの興行記録を実現し、ハリウッドのメジャーに名を連ねている。

上記記事でいう“プロデューサー”とは、独立系、つまりはインディペンデントで活動している、後ろ盾の無いサムライを指す。日本の映画プロデューサーのほとんどは、映画スタジオまたはプロダクションに属する、会社員だ。
だが、どちらが上という判断は、つかない。

映画業界はメジャーが維持しており、メジャーとは映画界の大手企業およびプロダクションが支えている城だ。城無くして、インディペンデントは成立しないそして、インディペンデントの行動力と交渉力が無ければ日本映画はとうに、世界マーケットから排除されている。

日本人が日本人のために製作している日本人だけが出演する日本文化前提の劇場用映画が世界でヒットする可能性など、あるわけがないのだから。
わたしは国際映画祭やマーケットの席で他国のメジャープロデューサーから、質問されることがある。

「日本の俳優たちはどうして、エンターテインメントSF映画以外、世界の映画に出演しないんだ?ドラマが嫌いなのか?」などと。また監督たちから尋ねられることもある。

「日本の映画界はどうして、“鎖国”しているんだ?日本オタクのタランティーノが苦労する業界に、他国の監督が入れるはずが無い。そんなに世界が嫌いなのか?」と。

日本を代表する答えを持ち合わせていないわたしは、「いままでは、だ。」応える。情報鎖国日本の映画村で、覚悟の才能たちを朽ちさせるわけには、いかない。

世界を知り日本を知り己を知るために、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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