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保護されている場合じゃない

世界一次停止からの社会再編は、あらゆる業界に波及している。
業界幹部が近未来を見通せていないことなど、周知の事実。無理もない。ならば現状維持を望んでもそこに、安泰は無い。アーティストの主業務は、断片情報をストーリー化する技術なのだから今だけ、進路を描く、“演者”になってみてはどうか。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 最近のはなし: 』

夜が明けたばかりの街に繰り返し、絶叫が轟いていた。

悲鳴では無く、怒声だと判る。
きっと、とても腹が立っているのだろう。それは、自分の想定が崩れたり、エゴが通らなかったり、勝負に大敗したり、明確な理由があるのだろう。

ただ、“とても元気そう” なので、同情する気にはならない。

何度も何度も、声色を変えながら発する怒号は演出が下手で、単調だ。
もう少しイマジネーションを働かせて、望むとおりの効果的な芝居をすれば良いものを。

一発目から喉を絞って声を張ってしまっているので、
セリフに“頂点”を描けなくなっている。“それ以上”を失ってしまっているのだ。どこにいるのかも判らないが、演出してあげたい。

きっと、“表情”も下手だ。感情のうつろいに注力して、動作を忘れなさい。
表情は結果であり、目的にしてしまってはただ、芝居が安くなる。

さて、はじめよう。

『 アーティストは最初から保証対象外 』

業界が震えるほどのニュースが国内外に、毎日発生している。どの業界もそうなのだろう。それなのに、声の聞こえない人々がいる。映画業界でいうなら、「俳優」と「監督」だ。プロデューサーは、元気だ。

なんだかキラキラしはじめており、新たな環境と次なる企画を抱えて、東奔西走しているように観える。だが、俳優と監督は、大人しい。大人なのだろうか。ソーシャルディスタンスを遵守しながら近づいてみると、小声の不平不満が聞こえてくる。

今までならば、ビジネス主導な現場への不服だったが、どうやら、今後の生活を悲観する、老いのような溜息だ。自分たちの力ではどうにもならない状況に打ちのめされ、立つ力を失っているように観えるのだ。

待って欲しい。

我々アーティストの仕事はそもそも人類の保証外にあり、将来どころか、現在にすら、必要ともされていない存在だったではないか。いつのまにやら立派な大人のように、常識的な弱音を吐いている。

『 業界はアーティストを護れない 』

まるで、業界という親に捨てられた子供たちのようだ。
わたしたちのような親不孝者が正論を語ることはできないがしかし、業界が君たちを甘やかし、過保護に育ててくれていたようには想えない。貴方たちはいつも自らを鼓舞し、孤独に笑み、貧しさを噛んで作品を生んできたではないか。

巣立つ度胸がない、それも判らないではない。
だが、貴方のいるその場所はもう、昔ほど温かくない。
まるで安全ではなく、いつ崩壊するとも知れない過去の遺跡だ。

業界を超え、国を越え、常識の向こうにある新常識を掴む方がよほど、楽で安全かも知れない。そうでは無いかも知れないただし、だとしてどうだと言うのか。護れるものなど無い。ならばいま、業界のために自分の力を試してみても悪くは無いだろう。結果、孤立しようと、滅ぼうと、それも作品のネタになるとは想えないだろうか。アーティストなんてどうせ、不要不急の産物。ならばこそ、立派な常識人たちが挑めない無茶を、してもいい。

業界はアーティストを護れないが、
アーティストは、業界を生める。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:業界激変のニュースの裏で、無視されている俳優と監督たち

ワーナー メディアのJason Kilarは、ウォールストリート ジャーナルに対し、“俳優たち”に、2億ドル(220億円)を費やしたと語ったが、具体は示されないままだ。また、ViacomCBSのCEOはマーク ウォールバーグの新作映画の劇場公開予定を撤回して、創設間もない「Paramount+」で配信することを発表した。「この決定は業界への、刺激となるだろう」と語ったが、集まったのは注目ではなく、観客たちからのクレームばかりであった。この映画の主演ウォールバーグ、監督のアントワン フークア、プロデューサーのロレンツォ ディ ボナヴェンチュラはThe Hollywood Reporterに対して、劇場公開中止からの配信決定発表があることを全く知らなかったと語っている。実はこういったノイズは、パンデミック時代のハリウッドに珍しくない。ユニバーサル、ワーナー、HBOでもそれぞれ、俳優の意向を無視した展開や、監督への報告無いままの決定が相次いでいる。決算説明会やストリーミングサービスの発表会、プレスリリースは、長編作品の公開計画を発表するための場となっているが、時にはAリスト(※最上位ランク)の俳優やそのエージェントが、視聴者と同じタイミングでそのニュースを知ることもある。その都度、俳優やエージェントはスタジオと、変更条件通りの話し合うことになっている。あるエージェントが明かす。「スタジオが実行している決断には、なんの実績もない。交渉条件を、信じることは不可能だ」一方、ディズニーは、テーマパークに着想を得た映画「Jungle Cruise」について、自社サービス「Disney+」で配信することを決定し、タレントに早期の情報提供を行った。しかし自社のディズニーをはじめ、パラマウント、ソニー、ワーナー、Netflix、Amazon、HBO Max、Appleなどに作品は売却されます。条件は、不明なままです。業界を揺るがす巨大なM&Aニュースの元で、俳優と監督たちは無視され続けている。映画を作ろうとするならば、スターと監督が必要であり、コミュニケーションが必須なはずなのだ。
 - MAY 27, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 編集後記:』

ハリウッドの業界再編ニュースの裏で、
俳優と監督が無視されている、という記事。

じつはこれ、業界激変にかこつけた常套手段であり、今に始まったことでは無い。もしかしたら、映画界に限らないのでは無いだろうか。責任の所在が曖昧になる変革期に乗じて、交渉カロリーが高い“枝葉”を放棄し、母艦の推進を優先するやりかた。

昭和であれば労働組合が声を上げる場面かも知れないがそれはそのまま、母屋の危機を招く。「スピード」と「小回り」を放棄できない局面において“労働者たち”は、経営幹部との交渉席すらも失っている。

そこに理想的な解決策は無いだろうしかし、
“労働者たる我々自身”が学び、自ら歩むことで、スタジオや社への負荷をかけること無く、走れることも現実だ。目くじら立てて交渉する相手は、雇い主では無い。

敵など、存在しない。
もう経営陣がハンドルを切れる時代では無くなり、株主は会社を推し進めるエンジンに力不足なのだから。会社を牽引するつもりで、突き進めば良い。
映画は、創れるのだから。

自ら歩むことを選んだ同志と進む、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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