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【プロの文脈】一億総クリエイター時代、覚悟を価値化する一流たち

アーティスト村の、格差が拡大している。キャリアを積んでも、もう間に合わない。このトピックでは、「プロを貫く意義」を、知ることができる。自身の業界地位に自信がもてないアーティストの、ために書く。

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アーティスト情報局:太一監督
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 経済界のアーティストたち 』

企業が芸術に価値を見出しはじめた昨今、ベンチャーへの投機よりも多くの金額を、無名作家のNFT(クリプトアート)が集める時代だ。もう“芸術は金持ちの道楽”などという戯言は通じない。

社会は、経済は、企業は作品を求め、アーティストに注目している。アーティストは現在図らずも芸術界を脱して、“経済界”の中にいる。知らねばならない。もう一度、自覚せねばならない。

自身が、“アーティスト”であることを。

そこで、日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際ニュース:Amazon社のサポートを受けているレオス カラックス監督が語る。「映画製作者にとって“ストリーミング”は、地獄だ。」

カンヌ国際映画祭に参加中のレオス カラックス監督はサングラス姿で、マジェスティックホテルのバルコニーに裸足で座り、チェーンスモーキングしていた。Amazon Studio今年8月に米国で公開するこの新作「Annette」は、カラックス監督が7年間にわたり修正を加え続けた映画である。

「当初はホアキン フェニックスをこの役に想定していたよ。ただ私は、脚本を持って俳優に会うのが、好きじゃない。彼がこのアイデアを気に入ってくれるかどうかを確認したかったけどね、恥ずかしいから会わなかったよ」

カラックス監督は、Amazonのサポートにもかかわらず、ストリーミングプラットフォームに夢中にならない理由を語った。「アダム ドライバーに決まったよ。当時の彼は、とてもいい子だったから。ドライバーの決定を受けて、新たな出資者も現れたしね。(※Amazon/ARTE Franceなど)それは助けにもなったし、助けにもならなかった。」カラックスは言う。「毎回、誰かをイメージして映画を設計するけどね結局、その人も金も、手に入らないからね。お金、インスピレーション、世界、キャスティング、この業界は常に変化している」

本作映画"Annette "は、Amazon Primeを通じて多くの観客に届けられる。また、彼のキャリアの中でも最大規模の米国劇場公開が予定されている。しかし、彼はストリーミング プラットフォームの台頭に期待していないことを認めた。

「私は好きじゃない。プラットフォームもCOVIDも、私にとっては同じだ。“高価な映画”を作るときは、自分の魂を売ることになる。やっているときはそうは感じないが、終わってみると......」彼は言葉を切る。「映画館なんて、もう誰も気にしていないよ。劇場は高すぎる。プラットフォームは簡単だ。良い作品であればそれは成功だと、人は言う。彼らにとってはパラダイスだろうね。映画監督にとっては、地獄。これが真実だ」カラックス監督は
もう1本の煙草に、火をつけた。 - JULY 10, 2021 IndieWire -

『 ニュースのよみかた: 』

レオス カラックス監督、Amazonの出資で作品を完成させたおかげで招待されたカンヌ国際映画祭の最高位賓客にして、ストリーミング事業を徹底非難。「映画はスクリーンだ。」という記事。

いつでも誰に対しても、徹底的に正直な監督の代表格、レオス カラックスその人である。彼の作品にスタッフ参加したわたしの私意を許すなら彼は、“自分以外の世界すべてが壊れている”、と感じている天使である。

誰に対しても、態度を変えない。どんな時にも、理想を求める。誰の批評も賛辞にも無関心でただ、“自分ルール”を通すことだけに魂を削る。

擦り切れて脂ぎった染みだらけのニットでステージを進む彼に各国のスター、セレブリティー、著名人たちが道を譲って頭を下げる。

レオス カラックス監督は、映画という細胞でできている超一流のアーティストである。

『 善人よりも“正直”が評価される時代 』

立派な人々は道徳を共有し、善を装備した自身を社会に最適化させている。結果、“嘘つき”を量産していることが問題視されることは少ない。

純白を善とみなし、汚れを染める「漂白社会」に人々は、疑問を持たない。
だが、“アーティスト”は違う。アーティストは、騙されない。我々アーティストは、心に宿る「本質」を呼び覚ます専門家なのだから。

広告、教育、宗教、科学、医学すべての表現に誇張があったこと、人々はもう気づいている。エンターテインメントの軽薄さやドキュメンタリーの作為、ドラマの洗脳は、見抜かれるようになった。観客は、賢くなったのだ。

いまアーティストは、作品クオリティーと同等に、人間性を観察されている。評価基準は、「作品+アーティスト本人」だ。たかが独りの熟考が生んだ演出など、ストリーミングを介した数億人を騙せるわけがない。

アーティストはとうとう、「正直」になるべき時を迎えている。
“漂白された善”など、「嘘」だとバレているのだ。観客にも、企業にも。

『 アーティスト×企業 』

作品を完成させ、それを観客の元へ届けるためには必ず、プラットフォームとマーケットを管理運営している“企業”とのコラボレーションが必要だ。

心配は要らない、企業に媚びる必要は、一切無い。先の「レオス カラックス監督の暴挙」を、想いだして欲しい。彼の言動はメチャクチャである。だが、誰一人としてそのことで被害を受けていないことに、気付いているだろうか。

「本当は“ホアキン フェニックス”がよかったけど、会わなかった。アダム ドライバーに決めた」結果アダムを選んだことで、巨匠に見初められた彼の評価は高まった。

「ストリーミングなんて地獄だ。」それでもAmazonの力でこの作品が誕生した事実に加えて、こんな発言を許す同社の懐の広さが伝わった。

アーティストは100%の正直をまとい、社会をざわめかせる覚悟を持つべき時代だ。大丈夫。本当の「正直」は、企業をも納得させ、アーティストのブランド価値を高める。

「正直」が勝てる時代になったのだ。


『 編集後記:』

マッチを買ってみた。
わたしはタバコを吸わない。まだ義務教育中だったわたしが望むままに映像業界で泳がせてくれた恩人の志村けんさんが入院された日に願掛けで禁煙し、結果、もう吸えなくなってしまっただけだが、マッチを買った。

擦ると、小さな破裂音をたてて塩素酸カリウムがはぜて、イオウが香る。ガラス粉はニカワと共に気化して、炎に色をつける。つまんでいた軸木を伝う熱に、指先を避けながら想う。

こんなに細いマッチには、強大な力がある。
想ったとおり、なんて格好良いんだ。憧れる。
もう一本、擦ってみようか。

一瞬の煌めきを願い、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

■ 太一(映画家):アーティスト業界情報局 × 日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、 監督がスタジオから発する生存の記