【モノの演劇祭】「Versuche zu Chaos, Fliegen und Maschinen」昆虫とマシーン、そして混沌

10月27日 Schaubude
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Versuche zu Chaos, Fliegen und Maschinen
演出:Franziska Burnay Pereira

舞台上には3つの蛹のようなものがぶら下がっている。蛹はやや厚めの紙でできている。上手側の蛹が内側からゆっくりと動き、中から一人の演者が出てくる。フェスティバルのテーマは「KAPUTT 壊れる」だが、蛹が割れて羽化するというのは、象徴的なテーマの一つである。彼女はバトンから吊るされていて、そのまま逆立ちする。その様子は昆虫のようだ。もう一人の演者がいて、彼は彼女に向けてオーバーヘッドプロジェクターの光を当てる。すると、逆さになった彼女の影が背面の壁に映し出される。オーバーヘッドプロジェクターの台のところに、影に沿うようにしてハエのスケッチを描くと、逆さになった彼女の影と台上のハエのスケッチとが重なり合う。この演出で示されるのは、人は当然ながら自分の身体しか持っていないが、コレオグラフィーによって異なる存在の身体性を表現することができるということである。

この作品は4才対象で、保育施設との共同でつくられた。ベルリンにはTUKI ForscherTheaterという保育施設と劇場の研究プロジェクトがあり、そこに加入している劇場及び保育施設はタンデムを組み、二人三脚で芸術探究プログラムを実施している。「Verrückt クレイジー」というテーマから昆虫の表象が登場するのは、おそらく保育施設の子どもたちとの共同探究の作業過程によるのだろう。舞台上には他にも、リアルなトノサマバッタの人形が壁に張り付いていたり、音の演出がハエを想像させるものだったりする。昆虫以外にも、割れた陶器という素材が登場するが、これまた子どもたちの日常経験に根付いたものだろうと想像する。

蛹に使われているやや分厚い紙は、素材として優秀だろう。可変性があり、それでいて一定の形態を保つことができる。ベージュ色というほか特に情報のない厚紙は、三日月形に丸めれば蛹となり、先端を二つに延ばせばカタツムリになり、二つの厚紙を広げれば羽を広げた蝶々となる。変形させるときにゴシャゴシャと物音を立てる点もよい。

音楽としては、大きな木の板に和琴のように弦が張られている創作楽器が用いられていた。弦を引いたり弾いたりすることで音を奏でるが、音楽を演奏するというより、ハエの羽音を表現しているといった感じ。弓だけでなく、小型のバイブレーションが用いられ、そのまま木の板に当ててゴトゴト鳴らしたり、弦に当ててブルブル言わせたりしていた。

やや残念だったのが、テンポが悪く、飽きてしまう点だった。これは演出が悪いというよりも、音響スタッフとの連携がスムーズでなかったためだと思われる。上演中、しばしば演者が舞台上の音響スタッフに「Jetzt 今です」という指示をしている姿が見られた。おそらく、もともと音響を操作する予定だったスタッフが急遽上演に参加できなくなり、代わりのスタッフでやることになったのだろう。素材も演出案もおもしろいのだが、演者の演技にメリハリはなく、音楽も常にワンテンポ遅れてしまう。本当なら夢中になって楽しめた舞台だっとのだろうと思う。

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