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【モノの演劇祭】「Hairy Hairy Mouth」リトアニアの繊維工場

10月26日 Schaubude Berlin
Psilicone Theatre(リトアニア)、Chui(クロアチア)
Hairy Hairy Mouth
パフォーマンス:Auksė Petrulienė、Darius Petrulis
音楽:Vojkan Jocić、Janko Novoselić、Toni Starešinić

昨日見た「Noir AV Ritual」とジャンルとしては似ているかもしれない。下手のパフォーマーが作業台の上にあるものをいろいろといじることで、その様子がスクリーンに上映され、上手ではライブによる演奏が行われているという点は共通している。

扱われているテーマは1960年から1998年にかけてリトアニアで盛んになった繊維業であり、プレトークではその調査について語られた。いくつもの廃工業や住まいなどを巡り、そこにあった遺物やその風景などはパフォーマンスでも用いられている。

パフォーマンスでは、主にシリコンでできた柔らかい人形が用いられ、透明なガラス版でその人形を挟み、やや押しつぶすようにすることで、その人形が変幻自在に動きまわる。人形は不気味な小人のような見た目をしていて、その口が開いたり、スカートがめくりあがったり、手足があらぬ方向にねじれたりする。そこに廃工業の写真が背景に映され、当時の生活を描いていく。

カメラの特殊効果なのか、スクリーンに映る映像ではカメラとの距離によって、青白かったり、オレンジ色だったりに変色した。もとの人形も半透明のグミみたいに独特の色合いをしていて、それがカメラの効果によって一層高められているようだった。

当時の社会を歴史資料的に描いた作品では全くなく、産業の発展による繁栄と、その陰りによる鬱屈とが交じり合った独特の空気感を表現していた。くるくるとシーンが移り変わっていくが、そのなかにはクトゥルフ神話に出てきそうな化け物がたびたび登場して、人形たちを食べていった。その姿は工場の廃棄物のようでもあり、繊維業の衰退とともに没落する人々の様子を象徴的に示していたのかもしれない。

音楽は電子ピアノにドラム、そしてテナーサックスによるトリオ編成で、なかば即興的に盛り上がりながら演奏していく。電子ピアノがベース音を支え、そこにドラムが重たく打たれ、そこにテナーサックスが吠えるようにメロディを吹き、ところどころでピアノやドラムとフュージョンする。力強さと乾いた悲しさのようなものを感じさせる音色で、当時の東欧の空気感を表現している音楽だと思った。

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