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【レビュー】安藤至大『ミクロ経済学の第一歩』(有菱閣, 2013年)

今回はこちらのレビュー

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分野:ミクロ経済学
分類:教科書
レベル:入門
特徴:数式をできるだけ使わず多数の図表による説明が特徴。余剰分析の例が多数載っている。

今では定番である、「有菱閣ストゥディア」シリーズのミクロ経済学入門書。数式がほとんど出てこず、多くの図表が載っており、視覚的に大変わかりやすい教科書となっている。本書は大きく分けて、4部で構成されており、第1部はミクロ経済学の導入、第2部は完全競争市場という条件下での余剰分析、第3部が完全競争市場の条件が満たされない場合での市場の失敗と政府の役割について、最後の第4部は補足的なゲーム理論について書かれている。

印象に残っているのは、第2部での完全競争市場という条件下での余剰分析。さまざまなケースの余剰分析について書かれており、非常に勉強になった。ミクロ経済学はマクロ経済学に比べて抽象度が高く、取っ付き難い印象があるが、細かい話は抜きにして、ひたすら余剰分析からの導入は成功だろう。余剰分析の中では特にフランスにおけるバゲット(フランスパン)の価格規制を例にとり、転売できるケースと転売できないケースに分けて余剰分析の説明をしている箇所がとても解りやすい。実際に自分でグラフを描いて、余剰がどのように変化するかを確かめると大変な勉強になる。この部では、何回も「完全競争市場という条件では~」と書かれており、「この世に完全競争市場なんて無いのでは?」とtwitterで感想を呟いたが、著者の安藤至大先生からのリプライによると、為替市場が最も完全競争市場に近いということである。


完全競争市場について書かれた第二部から、市場の失敗と政府の役割が述べられた第三部への接続も滑らかだ。第三部では、情報の非対称性、外部性、不完全競争、取引費用が大きい場合といった、完全競争市場ではない現実的な市場メカニズムというものが詳細に書かれており、完全競争市場というものに疑問を持った人にちゃんと応えてくれている。

各章の計25題の章末問題もよく考えられて作られており、こちらも読み飛ばさずに自力で解くと勉強になるだろう。個人的に第5章の章末問題が良かった。また、有菱閣のサポートページも充実している。欠点としては、amazonのレビューでも書かれているように、数式をほとんど使わないので、人によっては説明がくどく感じる部分もあるかもしれない。また後半がやや駆け足気味である。ゲール理論の章はさらりと触れられる程度であり、他のゲーム理論の入門書で補う必要があるだろう。

ミクロ経済学入門として世評が高いのも納得の出来であり、経済学部に進学する高校生は春休み中に是非とも読んで貰いたい一冊である。必読。


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