ピン札・万札・ほんだらけ[2021.04.30]

 AM1:12、近所の交差点の角、簡便に設けられたATMコーナーに入る。わずかな残高を確かめるように「残高照会」のボタンを押す。スマートフォン用のアプリで24時間確認できるのだが、わざわざATMにまで確認しにきた。

 僕は1000円だけ引き出してみた。ごく短い処理時間のあとで素早く開かれた紙幣口には、シワひとつない1000円札があった。僕はそれをつまみ、空中に掲げてみた。透かしの英世が笑っている。トートバッグから大仰に財布を取り出し、綺麗な1000円札が折れ曲がらないよう、注意深く仕舞った。

 それから何度か1000円札を引き出した。やはりピン札の1000円札が吐き出され、それを見るたびに軽いめまいを覚えながら、次の引き出しのためにキャッシュカードを挿入口にあてがった。もちろん、取り出した1000円札を掲げ、英世が笑っているかどうかのチェックは怠らない。それから、財布の中へ慎重に仕舞う行為に対する注意深さを惜しまない。

 ついには残高が1000円を切った。従って、新しく1000円札を引き出すことができなくなった。【お取引後の残高 972円】をじっ、と凝視したあと、私は勢いよくATMコーナーから立ち去った。

 雨の上がった午前2時。目に残るのは笑う英世と972。明日はどこに行こう。明日はどうして過ごそう。

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