floating in the melody

  両国橋を渡る。西から東へ、風を背負いながら、あの旋律を口ずさむ。即席のにぎやかさによって折檻されたものたちが息を吹き返す。僕はその底知れぬ怯えを川面に溶かす。

  紆余曲折をもとめる。ドラマティックなものが人生を後押しすると思っている。でも結局、さまざまな参照点をもつ、僕だけの線路を敷くときのよろこびに勝るものはない。

  甘美な雰囲気を剥がされたならば、皮膚にわだかまる恐怖にナイフを突き立てるのだろう。それでもあいつは胸を張ってこの街を出ていった。だから僕もー、と思うたびに、抽象的な日々の輪郭を縁取っていたあの旋律がきこえてくる。

  閉じてゆく今日を後ろ手で撃ち抜いて、明日を開く鍵にするのならば、僕にだけ分からない形にしてほしい。そんなことを歌ってばかりいたらー、そんなことばかり考えていたらー、僕もあいつと同じようにこの街に別れを告げる勇気をもつことができたのだろうか?

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