ツエーゲン金沢についての考察。~将軍のコメントをヒントに~

勝ちたいげん。みんな頑張っとるげん。でも勝てんげん。じゃあなんで勝てんげんて。

サッカーって見れば見るほど難しい解りにくいスポーツだと思います。ボールだけ目で追っていても状況はつかめない。さっきまでめっちゃ調子良く攻めてたのに相手の一撃でやられる事も多い。もちろん、僕にもどうすればツエーゲンが常勝軍団になるのか、そんな事はわかりません。大金を積んで有名選手を沢山呼んでも負ける時は負けます。J2の他の21チームも試行錯誤でしょう。サッカーは戦前から頭脳戦です。

7月20日の柏戦、アウェーの日立台に乗り込んで1-0で負けてしまいました。僕の印象では完敗という訳ではありませんでしたが、選手個々に課題がありそれを一つ一つクリアしていかないと勝ちには繋がらないのではないかと思いました。ボールコントロール・認知・判断・行動・マークの受け渡し・相手や味方との相性等。新しい選手を獲得する、またはシステムを変更して劇的にサッカーを変える、などやり方は色々あると思いますが我が軍の将軍・柳下正明はそんな事はしないと思います。信念の人。自分の信じた道を歩く。時には非情な決断に見えてもチームの為を一番に考える。そんな監督の頭の中を過去のコメントから読み取り最近のツエーゲンをそしてこれからのツエーゲンを考えてみたいと思います。

開幕戦の栃木戦後のコメント

「勝ち点3をとれなかったのは残念でしたけれど、90分通してキャンプでやってきたことをまず出せてたかなと思います。もちろん、攻守ともにいくつか修正しなければいけないところはありますけども、1ヶ月やってきたことはできてたかなと思っています。アグレッシブにプレーできているし、守備に関しても集中して相手に自由にやらせていないという点では、やってきたことは出せてるかなと思っています。開幕でやっぱり緊張感もあっただろうけど自分たちの持ち味っていうのは出したんじゃないかと思っています。」(0-0ドロー)

第2節岡山戦後のコメント

「試合の立ち上がりで、何人かゲームに入っていけてない選手がいたので、それがすごく残念でした。失点しても自分たちのプレーを続けてやるということが大事で、どうしても選手は一生懸命にはやるんだけど、その中でみて、考えてということが疎かになってミスがどんどん増える。ミスが増えるのもお互いの距離がどんどん離れていくんで難しい。距離感を良くして丁寧に動きを見てプレーを続けていけば、もっともっとミスが減ってチャンスが作れる。」(2-1負け)

「自分達のサッカー」について

我が将軍は当初から一貫して「自分達の持ち味」「自分達のプレー」「金沢のスタイル」やなと言葉は違えど言い続けています。日本代表に例えると「自分達のサッカー」という言葉が良く使われましたが、それと同じような意味だと思います。最近ではサッカーの言語化というのが一つのキーワードとなっていて言語化の後進国であった日本でも「ポジショナルプレー」「ストーミング」といったプレースタイルを表すワードが標準化してきています。が、それは一概に定義できるものではなく監督や選手の特徴によっても違いが出ます。ですが近年、日本代表のサッカーを「自分達のサッカー」ってなんなんだよ、と揶揄する声が西野前監督が指揮していた時に特に多く叫ばれていました。もちろんサッカーの言語化を着々と進めてきた一部のマスコミや評論家、そしてそれを見ていた我々一般のサッカー好き、クラスタと呼ばれる戦術家のみなさんから見ると先進国のイングランド・ドイツ・スペイン等から大きく遅れを取る完全にアバウトな表現「自分達のサッカー」。保守県石川に柳下正明が監督としてやってきたのは必然なのかも知れません。日本代表に関して「自分達のサッカー」というのは何だ?と言われるとかなり悩んでしまいます。ボールを細かく繋ぐサッカーだという人がいます。確かにパスの出し手としての技術は世界の各国リーグで活躍する選手も多いのでそうかもしれません。しかし受け手としての技術、パスを細かく繋いでゴールを脅かすという少し前のバルセロナのようなサッカーが再現性を持って出来ているかと言えば違うので僕はそうとは思いません。組織的なサッカーという人もいます。日本人にメッシやスアレスやアザールなどの個人で局面を打開してしまえるワールドクラスの選手はいません。ゆえに世界相手に組織的に対抗するしかないのです。ですからこれも僕は自分達のサッカーとは言えないと思います。格が違うと思われていたコロンビアに勝ったりベルギーをあと一歩まで追い込んだと思えば、ポーランドに対して攻める事を放棄してしまう日本。あえていうなら「カメレオンサッカー」というべきでしょうか。それでも抽象的で分かりにくいですね。

そんな中でツエーゲン金沢の「自分達のサッカー」とは?

一番確実に言えるのは形である。(Football Labさんより)

我が軍の形は一貫して4-4-2のスタイルを崩さない。相手がどの形であろうとも。4-4-2というのはゴールキーパーは含まれていないのでディフェンダーが4人(センターバック2人 サイドバック2人)ミッドフィルダーが4人(ボランチ2人 サイドハーフ2人)フォワードが2人という形である。

図で見るとこうなります。状況に応じて位置が入れ替わったりしますが基本はこうです。

4-4-2の長所はバランスがいいので守備がしやすいし、数的有利が作りやすくカウンターがしやすいというのがあります。ここでそれを一つ一つ説明していくのはかなり文字数を要するのでどこかの解説サイトで見て頂きたいと思いますが、我が将軍の戦術はこの4-4-2です。調べてみると磐田監督時代からこの戦術は変わっていないようです。しかし、普通の戦術の考えだとゾーンディフェンスで守るのが一般的と言えるでしょう。バランスがいい4-4-2の形を崩さずに守りたいからです。しかし、ツエーゲンの守り方の基本はマンツーマンです。

基本的に敵が白の→のように動いたとしたら黒の→のように着いて守るのがマンツーマンです。自分の着いて行く人(マーク)が決まっているので守りのルールとしては簡単ですが、あまり自分のマークに着いていくと元にいた位置が誰もいなくなります。陣形のバランスが崩れます。空いた場所に敵の選手が侵入してくる恐れがあります。また、ボールを奪って攻撃に移る際に陣形が整っていないと攻撃に時間を要してしまいます。

逆にゾーンディフェンスは可視化されているわけでは無いのですが大体ここらへんが自分の守るべき場所だよ、というのが大まかにチームごとに決まっていてそこに入ってきた敵をマークします。陣形は大崩れしませんが誰が誰をマークするというのが基本的に決まってないので(おまえはあいつを見ていろよ!というのはある)選手の間でボールを受けられてしまった時にどちらがマークに着くかの判断が遅れたりします。

ツエーゲンは基本マンツーマンですが、ある程度持ち場がありそこから敵が離れるとマークしている相手を味方の選手に受け渡すというゾーンディフェンスを併用しています。

ツエーゲンはFWが2人います。敵は同数の2人で守るとボールを持って前を向いているほうが有利になってしまうので大抵、数的有利の3人をFW2人の周りに配置します。こんな感じで。

ですから、11人ーGK1人ーDF3人=7人でツエーゲンに対応してくるチームが普通です。

こちらは一人余っている訳ですから、しっかりとボールを持っていない選手をマークしてしまえばパスを出せなくなりボールを持っている選手を囲んで奪い取る。これがツエーゲンの理想的な守り方です。出来るだけ相手ゴールの近くでボールを奪取出来れば言う事はありません。

そしてボールを奪ったら手数をなるべく掛けずに速攻。いわゆるカウンターです。ボールを奪ったと同時に数的有利やGKとの1対1を作り出す為にゴール前まで早く向かいます。この例では中央付近でのカウンターですが、ボールを奪う位置や相手の配置によってサイド攻撃になったり自陣ゴール前からFWに長いボールを供給するロングカウンター攻撃になります。これがツエーゲンの理想的な攻め方です。

このやり方はあまりボールを自分達で持って回す必要がありません。ツエーゲンのボール支配率は大体40%台です。ボールを支配しているからといって必ずしも勝てるわけではありません。実はボールの支配率が低い方が勝率が高いというデータも出ています。ボールをなるべく持たないでサッと奪ってゴールを決めて勝ってしまったほうが効率がいいではないかという事を柳下監督は考えていると思います。そして長い指導歴の中でその効率の良い方法である程度勝負できる集団の作り方を構築してきた、その集大成的なチームがツエーゲン金沢と言えるかも知れません。ボールを持たない、要するにテクニックはそれほど必要としなくてもボールを奪いにいくために相手に食らいつく、そして奪ったら相手ゴールに全速力で向かう。それを試合中続けなければいけないのでかなりのスタミナが無いといけません。ボールに対する粘り強いアタック、スピードとスタミナの両方を持って四方八方を駆け巡る。それを総じて「自分達のサッカー」と言っているのだと思います。(上記はあくまで基本・理想の形であり試合ごと、場面ごとの変化は当然あります)

就任3年目

2016シーズンに21位となりギリギリJ3降格を免れて、金沢は2017年から柳下監督を招聘しました。2017年シーズンは17位、2018年は13位、そして今年2019年は1桁順位を目指しています。シーズン毎に1桁順位に到達できる勝ち点というのは違いますが2018年シーズンに優勝した松本山雅は勝ち点77。優勝チームが勝ち点80に到達しなかったのは初めてではなかったでしょうか。それほど上位と下位の差は狭まってきています。今シーズンもその傾向は変わっていないと思います。ちなみに2017年の9位大分は勝ち点64、2018年の9位甲府は勝ち点59です。もし、去年の水準に合わせるとしたら金沢は現在勝ち点32ですからあと19試合で勝ち点27を取らなければなりません。19試合で9勝ということになります。まだ7勝しか出来ていない金沢には高いハードルと言えるでしょう。

これは2017年の我が軍のデータ

そしてこれが2018年です

最後に、まだシーズン途中ですが今年のデータです

うわっ、こいつ細かいデータ出してきたよと思ったでしょう。僕も数値にめっぽう弱いのですが(笑)

リーグ順位に惑わされがちですが、タックルの数値が微減、インターセプトの数値が微増しています。これはより連携して守ることによって囲んで奪い取る場面が増えたことを意味しているのではないでしょうか。パスの数値がそんなに変わらないのにクロスの数値が上がっているのも興味深いですが、それとリンクしているであろう事は相手のエリアの深いところへの侵入回数です。ボールを保持せず、奪って少ない手数で相手のエリアに入り込み仕留めるというサッカーを数値でも示していると思います。より運動量を増やしていこうとする意図を感じます。あとはゴールを増やす事。シュート回数は増えているのですから。

それでは将軍のコメントに戻りましょう。第14節長崎戦後のコメント

「ハーフタイムでよく選手たちに言っていることは、90分通して、チームとしてあるいは個人のポジションとしての役割をやり続けること。それができていない人がいるのと、セカンドボールを拾えていないというのが課題です。セカンドボールを拾えていればずっと攻撃ができるんだから、中盤でボールを奪った後は慌てないで繋ごうということを言っています。後半はそれを忠実にプレーしてくれたので、指示の後はあまり危ない場面はなかったと思います。」(0-1負け)

第15節山形戦後のコメント

「90分通してタフに闘ったが、もっともっとみて判断してプレーをしていかないといけない。あるいは、途中で判断を変えてプレーを選ぶ、そういったところの質をあげていかないと、これから暑くなって、簡単にボールを失ってまた守備という展開になってしまうので、そのあたりをトレーニングしてあげていく。」(0-0ドロー)

このあたりから勝てんゲンが始まりました。3年目のシーズン。まだ途中ですが相手のエリアには入り込めているのにゴールが増えない。「自分達のサッカー」に柳下将軍は迷いは無いはずです。だが、結果が出ない。対策されてきているということもあると思います。

第18節愛媛戦後のコメント。この日はかなり興味深い。潮目が変わったようなコメントでした。

記者:4試合連続引き分けに関してはどう考えていますか?

「勝つときもあるし負けるときもある中で、「負けない」ということも大事で、42試合リーグがあって、勝ち点2を失ったというゲームもありますが、相手の戦い方を考えると勝ち点1でもしょうがないかなというゲームもあります。一番大事なのは、自分たちがやろうとしていることがやれているかどうかということ。今日の前半はできてなかったけど、後半は盛り返した。では、この引き分けの4試合は自分たちのやりたいことができていなかったかというとそうは思わないしできている。ただ、相手が金沢の速い攻撃をケアしているということは事実で、でもその分相手の攻撃力も抑えている。そういうのがあって非常に難しいゲームが続いています。相手にとっても勝ち点3を取りたいけどゼロでは終わりたくないという考えもあるんじゃないかなと思っています。まぁ、勝つのは難しいし負けないことを思ったら悪くはないと思います。粘り強くやれるチームになってきたのかなと思います。良い方に考えています。」(0-0ドロー)

やりたいことは出来ているが勝てない。ポジティブに捉えているが葛藤も伺えるコメントです。ちなみにこの試合は負傷で大石くんと清原くんを交代させたのみで他のカードは切っていません。スタメン GK白井 DF長谷川・廣井・山本・毛利 MF金子・大橋・藤村・大石 FW加藤・クルーニー

ちなみに垣田くんはメンバー外の時で小松くんは代表遠征中でした。なぜ交代カードを切らなかったのかと思いましたが、前半が悪くて後半から良くなってきたという事と、サブのメンバーに流れを変えられる選手がいないと思っているのではないかと思いました。もちろんこれから厳しい夏のリーグ戦を戦っていく中、ベストのメンバーでなくてもある程度やれる目途をつけたかったのもあるのではないかと思います。そんな中、次の試合で久々の勝ち点3を手に入れますが・・・

第19節新潟戦後のコメント

記者:代表に行っていた小松選手と、久しぶりのスタメンの垣田選手それぞれ結果を出しましたがそれについての評価は?

点を取ったからといって結果を残したとは言えない。90分を通して何ができて何ができなかったかを伝えてあげないといけない。得点は確かに素晴らしいけど、それ以外の攻撃守備、ボールを持ってる時持ってない時の動きはまだまだ足りないので、ゴールを決めたからと言って結果を出したとは思っていません。」(2-1勝ち)

期待の2トップが戻ってきたのですが、歯切れがよくありませんでした。やはりそれだけ期待が大きいという事なのでしょう。代表で悔しい思いをしてきた小松くん。しばらくメンバー外だった垣田くん。2人を成長させたい親心と厳しい将軍としての気持ちが交差しているような気がしました。

第20節大宮戦後のコメント

「勝ち点3取るためには、基本的なところだけど、コントロールひとつ、パスといったところの精度をもっともっと上げていかないといけない。同じミスをしている人は同じ蹴り方をしている、なかなか気付いてくれないんだけど、それをまず気付かせて、自分で変えていけるようにしたいと思います。」(0-0ドロー)

第21節水戸戦後のコメント

記者:今節でシーズンの半分が終わりましたが、ここまでの戦いぶりで監督の評価は?

「チームとしてのやるべきこと、あるいは金沢のスタイルをピッチで表現できるゲームが増えてきているし、やれる選手が増えてきました。若い選手も、少しずつ考えてプレーできるようになってる選手もいるので、後半戦が非常に楽しみです。前半戦、ゲームに絡んでるあるいはゲームに出てた選手が、後半戦は出られなくなる可能性もあると思います。」(2-2ドロー)

ベースとなるチーム作りは出来ている。粘り強くなったチームではあるが対策もされていて勝ち点が伸びない。それはデータにも表れている。しかし、金沢のスタイル=柳下サッカーへの自信は揺るがない。それを進化させて相手チームの対策をも凌駕するもっと強いチームに金沢をしたいんだという決意のようなものが、一見非情とも見える発言「前半戦、ゲームに絡んでるあるいはゲームに出てた選手が、後半戦は出られなくなる可能性もあると思います。」という言葉になって出てきたように思います。先ほど効率のいい方法と言いましたが、それを進化させていくことによってものすごくタフなチーム作りに着手せねばならなくなりました。しかも柳下さんは私が3シーズン見ている限り”気づき”を求める監督です。もちろん指導者ですので色んな事を選手に教えていると思うのですが、ちょくちょく「選手に気づかせる・考えさせる」と言ったコメントも出てきます。サッカーの言語化という観点からすると遠回りに見えるその手法。その中でメンバーから外れる面々。もちろん勝ち点を積み上げられないのを望んでいる訳は無いのですが、ある程度戦えるメンバーを選んで、メンバー外の選手に気づきを促す。我慢の時にあえてしていると思います。いつまで続くか分かりませんが、進化のスピードを上げていかないと上位進出も見えてきません。

J2はJ1とは違い監督として長期政権を築きやすい環境です。特に地方のJ1を経験していない予算の厳しいクラブとしては地道にコツコツとJ2での地位を示していけていれば御の字なのかも知れません。J3に降格はしたくない。だが、観客動員は伸び悩んでいるしJ1に上がる為の環境整備もまだ整っているとは言えない。そんなピッチ上の問題だけではないモノとの駆け引きもあると思います。

この自分達のサッカーがもし進化できれば上の図で出ている2019年のデータにも目に見えた変化があるはずです。ゴール・シュート・クロス・進入回数・攻撃回数などに。そのためには今よりもっとタフな集団にならなければいけないのでしょう。じっくり待つしかないのでしょうね。せっかちな私などは無責任に妄想を働かせ、やれシステムを変えたほうがいいとか、やれこういう作戦はどうだとか言ってしまうのですが、サッカーを考えるにあたって妄想は楽しいものです。出来ればこれを見て下さる皆さんとドンドン妄想トークしていきたいものです(笑)

最後に、これだけ言っておいて我が軍が180度路線変更をしたらめちゃくちゃ恥ずかしいなと思いつつ、実際それも面白いかなとも思います。(苦笑)なんにせよ勝ちたいげん!ツエーゲンはヨエーゲンと言われたくないげん!


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