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台湾有事について

僕たちは普段から災害対応について議論をする。大きな被害をもたらしうる出来事について予め議論しておくことによって、それが現実に起きても落ち着いて対応できるからだ。

同じように、僕たちは今後5年で起きるかもしれない台湾有事について議論しないといけないんだと思う。「起きてほしくないことは議論しない」という姿勢は甚大な被害をもたらすからだ。台湾にはたくさんの大切な友人がいるので、こんなことを書くのは本当に嫌な気分になるのだけれども、起きてほしくないことほど、きちんと書き、最悪の状況においても対処できるようにしておくべきだと思う。

2027年、すなわち次の中国共産党大会までに中国の台湾統合について動きが起きる確率は少なく見積もっても30%くらいはあると思う。そして、それが東アジア戦争のような状態をもたらしたら、日本は壊滅的な被害をうけるだろう。

(なお、過去の経緯や法的な取り組みはさておき、台湾が独立した国家であるということにして書いています)


まず、台湾有事が起きる確率が高いと考える理由について書く。

一つが中国の共産党内の動きだ。今回の中国党大会で、党の指導部内の穏健派がほぼ一層された。残ったのは習近平氏ら、かなり強いマルクス・レーニン主義者たちだ。おそらく、彼らは中国における貧富の格差の拡大や、大金持ちになり増長した起業家たち、強欲になっている高所得層に我慢がならないと考えている。自分たちが憎んだ資本主義の悪い面が中国社会に生まれていることが許せない、ということだ。この資本主義の弊害を取り除き、党の指導のもと社会主義を再建するというのがいまの指導部が望んでいることで、その観点にたてば一部の起業家らへの統制の強化や、国全体での規律強化の動き、ロックダウンをはじめとする党の強権発動などは論理的に整合している。

そういう統制経済が成功したことはないので、長期的には企業らの業績悪化は避けがたいだろう。それを予期してか、すでにシンガポールなどでは、中国人が大挙して資産を国外に移動させている。生活が向上しないと、民衆の不満は高まる。批判をかわすためにも、台湾の統合は意味がありそうだ。実際問題として、多くの中国人は台湾は中国の一部であるべきだと信じている。また、中国人の多数派は、香港における民主化闘争を冷ややかにみていた。

もう一つの理由はアメリカだ。アメリカの立場で考えれば、中国が戦争をすることは望ましいだろう。すごい勢いで自分たちに追いつき追い抜こうとしている競争相手が戦争を行えば、経済成長は少なくとも一時的には鈍化するからだ。もし中国が負けるようなことになれば、事はもっとアメリカに有利になる。なお、同様にウクライナの戦争もアメリカにとってはロシアの国力低下という点で望ましい結果をもたらしている(あくまで結果論だけれども)。


では、台湾有事が起きたらどうなるか。

中国が台湾を統合しようと動く場合に、考えられるシナリオは3つある。
A. 台湾の政権が親中政権になり、国民投票を通じて中国に平和裏に統合される
B. 台湾の人々が抵抗して戦う。アメリカは少なくとも表向きは参戦せず、物資支援だけをする
C. 台湾の人々が抵抗して戦う。アメリカも公式に参戦する

残酷だが、日本や他の東アジア諸国を主語にすれば、Aが一番被害が小さいシナリオだ。すなわち、台湾が次の香港のようになるということだ。世界は批判はするが、行動を起こさない。その意味で、2024年1月の台湾総統選挙は極めて重要な意味をもつ。

BやCのように台湾の人々が戦う場合には、いずれにせよ戦争は長期化する。抵抗する国を占領するには少なくとも住民の4分の1の兵力が必要だといわれているが、台湾が降伏しない限り、島国である台湾を占領するのは至難の業になるだろう。地続きのウクライナであっても、民衆が真剣に抵抗すれば占領は極めて困難になる。

Cも現実的なシナリオだと思っている。先に述べたように、この戦争は、アメリカにとっては世界の覇権をかけた戦いでもあり、中国をこのタイミングで叩くのには意味があるからだ。それに加えて、台湾が中国の一部になると、中国から太平洋に出ていく原子力潜水艦を捕捉できなくなるなど、国家安全保障上のインパクトも大きいからだ。そして、ケースCは、東アジア大戦になる。韓国にも日本にも米軍基地があるからだ。

BやCのケースにおいて、日本経済は破滅的な打撃を受けるだろう。Bの場合であっても、かなりの高確率で日本政府は中国に対して何らかの制裁に参加せざるをえないからだ。その結果、中国にある日本の工場の強制接収や、輸出入の停止などが起きる。中国は日本にとって最大の輸出入先である。これは、ドイツのロシア資源依存の比ではない。戦争で勝つ負けるにかかわらず、インフレ率は50%を確実に超えるだろうし、GDP成長率はマイナス20%くらいにはなるんではないだろうか。さらに、台湾は高性能半導体の80%を製造しているので(全ての向上が台湾国内にあるわけではないが)、世界中のPCや携帯電話製造にも巨大な悪影響がもたらされるだろう。

すでに日本の経済は全体的に危うい状態にあるわけだけれども、ここで台湾有事が起き、それが長期戦争となれば、それは日本経済を破綻させる最後のひと押しになると思う。筆舌に尽くしがたい困難を味わうだろう。

それに加えて、そもそも日本が戦争をして無事なのかという問題もある。コロナワクチン配布のグダグダを見ても分かるように、日本の各種機構は、前提が日々変わるなか機動的に動くのが極めて苦手であって、新幹線作りとかには向いていても、戦争には向いていないと思う。


上記のような事態が生じうる前提で、今やっておくべきことは何か。

第一に、マイノリティの人々は、最悪のケースも踏まえて移動先を考えておく価値があると思う。二次大戦時のユダヤ人がそうだったが、早めに移動手段を講じていた人たちは助かった。

第二に、中国に対する依存度が高い企業は、それを可能な限り抑えたほうが得策だろう。依存度が大きければ大きいほど、有事の際のインパクトは大きくなるからだ。また、今からわざわざ中国への傾斜を強くする理由はないと思う。

第三に、投資をするのであれば、東アジアの影響が大きくない国がよい。台湾有事が長期戦争となった場合、東アジア諸国とアメリカが疲弊し、相対的に地位があがるのはインドだろう。インドはすでに中国に対する依存度が極めて低くなっている。そういった場所に経営資源を張っておく必要があるのかもしれない。


多くの問題もあったものの、パックス・アメリカーナが懐かしい。


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