漏らす

最近、空港には飛行機出発時間の1時間10分くらい前に着くようになった。ファイナルコールは出発時間の15〜20分前なので、ヒースローみたいに巨大な空港でない限り、保安検査場を40分前に通れば余裕で間に合うからだ。たまにしか飛行機に乗らなかった時は2時間くらい前に着いていたんだけど、今はもうギリギリ到着が板についてきた。去年は国際線に157回乗ったけど、一回も乗り遅れていない。

成田に行くにはスカイアクセス線がダントツで早い。成田に着くために京成線が開発した路線だ(2010年開通)。マップはこちらから拝借。スカイライナーとかだと上野から45分で成田に着く。

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スカイライナーの本数は少ないので、時間が合わないときはスカイアクセス線特急に乗ることがある。これも1時間くらいで都心から成田まで着くうえに、特急料金がかからないので、最安・最速の手段。

この日は蔵前からスカイアクセス線特急に乗って、仕事をしながら成田に向かう時に、猛烈に腹が痛くなった。電車はもう高砂を通過してこれから新松戸に着くかというとき。作業に集中したら忘れるかもと思って仕事をしてみたが、相変わらず大腸のあたりから肛門にノックをする音が聞こえる。

スカイアクセス線特急にはトイレがついていない。だったら途中の駅で降りて、トイレに行って、また電車に乗れば良いと思い、東松戸で一時下車した場合、何時に成田空港に着くか携帯で探してみる。

そして、愕然とする。

このスカイアクセス線はそもそも電車の本数が異常に少なく、一度途中下車をすると次の電車が来るまで40分待たないといけない。もともと1時間10分前到着の予定なので、途中下車すると飛行機に乗り遅れる。

東松戸から成田空港までの所要時間は34分。お腹の状態はというと、10分我慢できたら頑張ったほうと言えるほどの緊急事態。そもそもスカイアクセス線特急は停車駅も少ないので、最悪の場合は途中下車すらできずに漏らすのかもしれない。

冷や汗をかきながら考える。うんちは腸の蠕動運動と重力に従って下にやってくるはずなので、まずはうずくまってみる。

5分間そのままにしてみて、全く意味が無いことを確信した。すでにモノは大腸にまでやってきているので、逆立ちでもしないかぎり無理だ。しかも、電車の揺れがいい感じにヤツを下に運んできている感じがする。

あと25分。ここまで時間を長く感じることも珍しい。

何か方法があるはずだと携帯で検索をする。「大便 我慢 方法」で検索する。ここで「うんち 我慢 方法」と書かないことで自分の羞恥心が浮き彫りになる。まだ自嘲するくらいの余裕がある。

検索をするうちに、方法論のみならず実際に漏らしてしまった人々の悲話が出てきて、決して自分はそうなるまいという意志を強くする。要は尻の筋肉の耐久勝負だ。ウルトラマラソンを走れるのならこれくらい耐えられるはずだ。

あと20分。まだ5分しか経っていないのか。

そんな時に見つけたのが、NAVERまとめの”【バナナマン日村流】うんこを我慢する方法”。3つの方法が書いてあった。

1.立って足を交差させて肛門を圧迫する。別のサイトで見たが、座っているより、立っていたほうが大便は出にくいらしい
2.かかとで肛門を押さえる
3.遠くの風景を見て気を紛らわせる

まず1から試してみることにした。何気ない素振りをして立ち上がり、つり革に両手を引っ掛け、電車内の路線図を見るふりをしながら足を交差させる。確かに、座っていたときに比べて遥かに楽だ。気を紛らわせるために、路線図の駅を一つ一つ数え上げる。

残り10分。もうあと3分の1だ。お腹の状態はもはや戒厳令に近く、2の「かかとで肛門を押さえる」を試す勇気がなかった。というのも、そのポーズを取ろうとして一瞬だけでも気を緩めたら、悲劇が起きることが予想されたからだ。

10分は600秒。1秒1秒が長い。

僕が降りる予定だったのは成田空港第2ビル駅(終点)だが、第1ビル駅からなら第2ビルまで沢山電車がある。手前の第1ビル駅で降りることに決める。これで2分必要耐久時間を短縮できた。

目を閉じて腹式呼吸をしながら冷静に時間が過ぎるのを待つ。ZARDの「負けないで」が脳内BGMとして流れている。

「負けないで ほら そこに ゴールは近づいている」

オウンゴールだけは避けなければならない。何としてでも。

電車が第一ビルに着いた。荷物を抱えてトイレに向かって歩くが、歩くだけで漏らしそうになる状態。走ることでモノが上に戻ったのか少し楽になった。細心の注意を払いながらトイレに駆け込む。

そして、最後の試練はやってきた。

トイレが全て埋まっている。

まじか。

この時の絶望感を言葉でどうやって表現したら良いのだろう。時速300kmで車を飛ばして殺し屋から逃れたと思って一息ついたところで、目の前に涼しい顔をしたヒットマンが待ち構えていたというような感じに近い。

瞑想しながら耐えつつ祈る。早く空きますように。

運良く、数十秒でトイレの扉が空いて、長い闘いが終わった。三ヶ日早々の出張を前にして、すでに達成感に満ち溢れていた。

つい先日ワンピースの40巻代を読んだからか、脳内には「このケンカ!!おれ達の勝ちだァ!!!!」というテロップが流れる。


というわけで、重要な教訓を書いておこう:
成田スカイアクセス線特急で時間ギリギリで成田空港に向かう場合には、トイレを事前に済ませておくこと。

(タイトルは釣りです。結末が分かってたら楽しくないので)



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