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COVID-19と世界のこれから(draft as of 2020-04-16)


このタイミングにもかかわらず増資に参加してくださった株主の皆様には心から感謝しています。本当に有難うございました。今こそ世界中で金融包摂を必要としている人は増えているので、これから全力を尽くしていきます。

ちょうどいいタイミングなので、ここまで考えていたことを書きます。今は状況整理が終わったところで、それがこのnoteの内容です。今後の世界のあり方、それが示唆すること、これからの具体的なアクションについては、今も考えています。

★ ★ ★ 

2月に衝撃がやってきて、3月は全力で走り、当面は安心して事業継続ができるようになった。そして、ここから1年はサーフィン状態になるんだと思っている。

短期変化はすでにいっぱい議論されているので、長期変化について今考えていることをメモしておく。

終息までの期間が変化の量を決める

後で述べる未来の変化は、終息までの期間に依存する。長ければ長いほど、変化も大きくなる。

集団免疫路線を進もうとしていたイギリスですらそれを諦めたので、先進国は基本的に
ロックダウン・外出自粛
 →落ち着いたら緩める
  →またどこかで感染拡大
   →ロックダウン・外出自粛
のループを回ると思っている。

このループは、以下のどちらかが実現するまで続く。
A. ワクチンが開発&量産される
B. 集団免疫が獲得される

A:ワクチン開発・量産は最短で18ヶ月くらいとされている(これを18ヶ月で間に合わせるためにビル・ゲイツなんかはワクチン製造工場をつくりはじめた)。

B:ドライバーとなるのは、次の二つ。
B-1:財政的にどれくらい負担に耐えられるか。個人的な予想では12ヶ月が限界
B-2:医療崩壊を避けながら集団免疫獲得する場合に必要な期間。最短で3年

ロックダウンは国家予算の3倍のお金がかかる

B-1について。ロックダウン・自粛によるGDP減の埋め合わせをするための財政支出はどの水準になるのか。

GDPインパクト
WSJはロックダウンは最低でもGDPを25%押し下げると推定している。イギリスは最悪GDP成長がマイナス30%になるともいわれている。これを鵜呑みにしてGDP減が2.5割だとしたら、日本でのインパクトは130兆円。

必要な財政支出
限界消費性向は平均するとだいたい30%程度、低所得層は40%。低所得層のほうを採用したとして、財政支出の有効需要倍数は1/0.6=1.67倍なので、経済ロスを埋め合わせようとすると80兆円の真水の財政出が必要になる。この水準感、トランプ政権が発表した財政案はだいたいそれと辻褄があっている。

ちなみに、日本の真水の国家予算(借金や社会保障費の支払いに関するものを除いたもの)は26兆円程度。よって、ここで話している財政支出は、国家予算の3倍の水準感。

セーフティネットだけでも、途方も無い金額になる。例えば、総務省統計局によると2019年の日本の正規雇用者数3,514万人、非正規が2,187万人。正規雇用者の5%が職を失い、非正規雇用者の30%が失ったとすると、失業者数は830万人(15%弱)になる。アメリカで予想されている失業率が15%。その人たちに月15万円を支払うだけで毎月1.25兆円、年間15兆円かかる。 

結論
いつ開発されるか分からないワクチンを待ちながら、毎月これだけの水準のお金を出していくことはほぼ不可能じゃないかと思っている。12ヶ月が限界じゃないだろうか。

医療キャパシティはそうすぐには増やせない

集団免疫獲得に必要な人口
推定に最も重要なのは基本再生算数なのだけど、いま言われている通り2.2とすれば、集団免疫獲得までには人口の55%が感染する必要がある。

直近のデータにあるとおり、かかった人の4%が重症化するとすると、人口の2.2%が重症化する。現状のサンプルにはバイアスがあるので、僕は実際にはもう少し低いとは思う。

実際には弱い人達を保護しながら集団免疫路線にいくのでもう少し率は下がるはずだけど、4%のままで計算すると、日本だと重症化するのは276万人。ただ、真の重症化率が平均で3%で、集団免疫路線で脆弱な人を守りながら進めたら、重症化率は人口2%くらいまでいくかもしれない。そうしたら、重症化するのは約140万人。それでも大きな数だ。

医療キャパシティ
現時点でのベッドキャパがよく話されているけど、ベッド数は比較的増やしやすいので、これは主要なボトルネックではない。

キャパシティにおいて一番の問題はベッドや建物よりも(1)装置と(2)従事者。

 (1)装置:
現時点における人工呼吸器(チューブのもの、マスク型、ECMO(人工肺))をあわせた数は20,914。当然ながらCovid-19以外にも使用されていて、余っているのは1万ちょっと。1人が1台を2週間使うとしたら、年間キャパシティは30万人弱

そして、これが困ったのだけど、人工呼吸器の世界的メーカーは全て非日本企業。現場で使われている器材のほとんどが海外メーカーのものであり、すでに取り寄せが極めて難しくなっている。国産メーカーもあるようだが、全ての部品が国内で賄われているとは想定しにくい。国家権力行使&日本メーカーの全力でなんとかなるんだろうか。ものづくりはそんなに簡単ではない気がするけど。


(2) 医療従事者:
必要なラインナップは下記のとおり。
 ✔診察・診断:医師
 ✔PCR検査:臨床検査技師
 ✔診断画像撮影:診療放射線技師
 ✔画像診断:放射線診断科医師
 ✔人工呼吸器やECMOの設定・メンテナンス:臨床工学技士
 ✔処方箋管理:薬剤師

特に終末期医療で負担の大きいのは医師、看護師と臨床工学技士。感染症の医師は現時点で1,564人。患者/医師比率は15くらいとしたら、仮に1,000人が従事したとしても(そんなの多分無理)年間キャパシティは40万人。

現時点で人工呼吸器の臨床工学技士は14,376人で、これもすぐ育たない。看護師は患者2人に1人はいたら望ましい(ボリス・ジョンソンの場合1人に対して2人ついてたみたいだけど)。

訓練期間もそうだけど、リスクを負ってこのタイミングで医療従事者になる気概がある人がどれくらいいるのかにも依存する。とはいえ、こういうフェーズにおける日本人の公共心は非常に強いので、人は集まるかもしれない。

結論:
ベッド以外の医療キャパが3倍に増えたらそれは奇跡だと思う。
そして、その奇跡ケースにおいても、集団免疫獲得には3年がかかる。ベースケースは5年くらいか。

ジレンマに直面する先進国は終息に18ヶ月以上かかる、途上国の回復は早い

ここまでを総括すると、最善のケースは奇跡的にワクチンが18ヶ月で量産体制に入ること。そして、(想像したくないから書いてないけど)このウィルスが突然変異して毒性を増さないこと。

そうでない場合、将来シナリオは「医療崩壊が食い止められるか」、「ロックダウン・自粛が続くか」、「財政支出が継続されるか」の3つの組み合わせで決まる。個人的に望ましいと思っている順番を並べると、次の通りとなる。Eにならない限り最低でも3年コースだ。

A. 医療崩壊が防げるか: イエス
  ロックダウンや自粛: 継続
  十分に保障されるか: イエス
  最終的な帰結:    巨額の負担を将来世代に後回し

B. 医療崩壊が防げるか: イエス
  ロックダウンや自粛: 継続
  十分に保障されるか: ノー
  最終的な帰結:    失業拡大、社会不安増大

C. 医療崩壊が防げるか:  ノー
  ロックダウンや自粛: 継続
  十分に保障されるか: イエス
  最終的な帰結:    多くの死者と巨額の将来世代負担

D. 医療崩壊が防げるか: ノー
  ロックダウンや自粛: 継続
  十分に保障されるか: ノー
  最終的な帰結:    大量の死者と失業、社会不安が極めて大きくなる

E. 医療崩壊が防げるか: ノー
  ロックダウンや自粛: しない
  十分に保障されるか:  n/a
  最終的な帰結:    多くの死者と引き換えに経済が早めに回復

(社会が再度脱都市化していき、低い人口密度の都市モデルが再構築される、という理想が実現するのにも数年がかかるだろう)

日本はいまAのふりをしながらBをやっていて、そのうちDに行ったあとに、Eになるんじゃないかという恐れを抱いている。イギリスはEをしようとしたけど諦めてAにいった。

先進国の民主主義国家の多くにとって、大勢の国民を殺す意思決定をするのには相当な覚悟がいる。だから、ポーズとしてはロックダウン・自粛を続け、ちょっと経ったら緩めるけどまたどこかで感染拡大が起きて、またロックダウン・自粛+保障/保障なしのデスマーチを続けるんだろう。そして、最後に諦めてEに行くんじゃないかと僕は想像している。(もちろん、人類が12ヶ月に見事に今の状況に順応して新しい経済システムをつくる、という希望もあるのだけど、そんなに簡単じゃない)

なお、財政キャパが小さい途上国や財政難にある国に関しては、限界が早めにやってきて、早々に集団免疫路線(E)に行くんじゃないかと思っている。

いずれにせよ、IMFをはじめとして世界中が予測しているように、途上国のほうが回復は早いはずだ。途上国は今年の中盤には回復するんだろう(先進国は来年後半)。

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長期変化の方向性

事態が長期化するという前提で考える必要がある。まだ最悪の最悪は考えられていないけど、変化の方向を占うにあたって考えるべきは次の三点だと思っている。

A.元々起きていたトレンドのうち、本件が加速させるものはなにか

すでに起きている変化はネットによるリアルの代替、データドリブンのサービスの拡大など。世の中で起きていたミーティングの8割はリアルである必要が無いものだったので、それがビデオ会議に切り替わるのは自然の潮流だった。ネットの遠隔診療なども同様。選挙活動もネットが舞台になりうるんだろう。

大企業が零細企業を駆逐する(例:大規模店舗が商店街を壊す)というのも長く続いているトレンドで、本件はそれを一気に加速させる可能性がある。

あと、仕事をしないけどなんとなくコミュ力の高さとか、パーティにたくさん出入りすることで仕事になっていた人も苦しくなるんだろう。実直に仕事をしている人にとっては非常に好ましい変化だ。

他には何が起きるんだろう。

B. 変化する生産関係はなにか

例えば、ロックダウン期間が長ければ長いほど、グローバルに拡がっていたサプライチェーンがまた国内に切り替わる可能性が高くなる。個人的には、中国が半ば無理矢理にでも工場を全部再稼働させたのは、そうしないと世界の工場としての地位を失い、覇権国家になるのが遅れるからだと思っている。

また、海外投資の引き上げも急速に起きている。そのために途上国政府の多くがデフォルトの危機に瀕していて、IMFが救済にはしっている。民間レベルでも、移動が難しいためにガバナンスが利きにくいので海外投資からExitという案件は増えるかもしれない。

こういったDe-globalizationはここ2週間くらいよく話されていることだ。例えば、The EconomistのBriefingでも、Ray Dalioのトークなど。

事業・組織モデルも中央集権型なものはワークしにくくなる。分散型で各人に権限が与えられるようなものがうまくいくんだろう。

あと、人に会って感動を与えることが難しくなるので、映像の作り込みの重要性は高まると思う(先日のイギリス女王のスピーチと、ボリス・ジョンソンのスピーチは感動的だった)。というわけで、早速動画配信に必要な道具を買い揃えた。

C. それでも変わらない人間の根源的な欲求はなにか

今年のフジロックは自粛せざるを得ないのかもしれないけど、ライブが世の中から消滅したら、僕は生きる喜びの結構な割合を失ってしまうと思う。

ペストが3世紀蔓延しても、スペイン風邪があれだけの人間を殺しても、人間は集まることをやめなかった(ちなみに、スペイン風邪のときは多少はSocial Distancingが流行ったらしい。マスクも使われた)。当時の人々は僕たちより無知だったから、終息後にまた集まるようになったのだろうか。もしくは、集まることは人間の根源的な欲求なのか。 
  
例えばマイクロファイナンスだと、次のようになる。

顔を合わせることから生まれるソーシャル・キャピタルがマイクロファイナンスの経済性を成立させていた。ソーシャル・ディスタンシングが長く続けば、ソーシャル・キャピタルは毀損されていく(顔を合わせないと疎遠になる、という当たり前の話だ)。(→上記Bの話)

事態が収束したあとに、人は今までと全く同じように集まり、同じように対面で仕事をしたいと思うのか。もしくは、ロックダウン時に慣れ親しんだ非対面でのコミュニケーションに移行するのか。(→Cの話)

以前から、興味・関心・社会階層等に基づいて作られるネット上のコミュニティが地縁・血縁に基づくリアルなコミュニティを代替しうるのか、という話があった(2012年に本で書いた)。ネットでのコミュニティはリアルのそれに対して圧倒的に弱かったけど、少しずつ強くなってはきた。それがこのタイミングで変わっていく可能性があるのか。(→Aの話)

アンラッキーだった人たちはサーフィンをしないといけない

最後に、現在起きていることをものすごくステップバックしてからとても長い時間軸で考えてみたい。

先日のブログでも書いたけど、現在地球に存在している生物種は数百万以上(昆虫次第では数千万とも)といわれている。地球はそれだけ多様な生物の住処ではあるけど、これまでに存在してきた生命のうち、99.9%は絶滅して遺伝子を現代に残していない。地球の歴史では多くの大量絶滅期があった。恐竜が絶滅した白亜紀末では生物種の70%が絶滅し、ペルム紀末の大量絶滅では90〜95%の生物が絶滅した。

生物種の絶滅の多くは、他の生物種に捕食され尽くすことや、生息地域全体が隕石で無くなる、ウィルスにかかるといった理由で起きるわけではない(だいたい、ウィルスは宿主が絶滅すると存続できないので、そうならないようにプログラムされている)。一番大きな絶滅要因は気候変動などの環境変化だ。環境が変化することによって、これまでの環境に適応し繁栄していた種があっという間に不適応者になり、絶滅の憂き目に遭う。

これからの事業環境変化は、過去の大量絶滅に較べれば可愛いものだろう。97%以上の人類は(たぶん)死なない。それでも、今回の環境変化は企業や組織の淘汰をもたらすだろう。

生物も組織も、環境に適応したものが生き残る。環境への適応パターンは基本的に次の二つだ。
A. たまたま新しい環境に自分たちが適していたこと(ラッキー)
B. 新しい環境変化に対して素早く適応してきたこと(努力)

大量絶滅レベルの環境変化においては基本的にAのパターンしか生き残らないけど、今回ぐらいの変化であればBでも生き残りは可能だと思っている。
素早い環境適応において大切なことは、次の三つ。
・波を読む:  希望的な観測を捨てて事実を虚心坦懐に見つめる
・すぐ動く:  最善と考えられる重要意思決定を可能な限り早く打つ
・早期仮設改定:初期仮説にこだわりすぎず、打ち手を変え続ける

要はサーフィンだ(やったことないけど)。小さい波を読み違えるくらいなら死なないけど、大波を読み誤ったら死ぬ。それがこれから1年はずっと続くんだと思う。だから、僕は業務時間の結構な部分を考え事に費やしている。

ウィルスは多くの生物を殺す一方で、その生物種の進化を促し、環境適応を助けてた。生物のDNA構造の変化には気の遠くなるような時間がかかるけど、個人や組織の変革はそれよりずっと早く実現可能だ。後で振り返ったときに、この時期のお陰で会社が強くなったと言えるよう、これからも全力を尽くしてよりよい組織、よりよい事業を作っていきたい。

 

最後に、このような時期だからこそ、世界中でより多くの人が金融アクセスを必要としています。世界中で金融包摂を推進するため、今後も粛々と事業に取り組んできます。今は資金があればあるほどより大きなインパクトが出せるので、シリーズD資金調達も最終クローズ目ざして頑張ります。


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