「やってみなはれ」の意味

問題意識をもって物事を観察して考える訓練を積んでいると、年をとる毎に、いろんなものが見えるようになっていって、物事の問題点を見つける精度というのは上がっていくのだと思う。にもかかわらず、最近は自分が思ったことのうち、特に否定的なことを言うことにまごつくようになった。

というのも、例えばその人がやろうとしている事業に根本的な欠陥が見えるとして、それを僕が口にして何になるのだろう。ここでいう根本的な欠陥というのは、それを修復するには全てのものを一からやり直さないといけないような欠陥のことを指している。言うなれば、「それを言っちゃあおしまいよ」的な欠陥だ。それを指摘したところで、聞いた相手は「はいそうですね」と言うわけにもいかず、でも頭に常に一抹の不安を残すだけだ。しかも、僕の予想や指摘が必ず正しいわけでもない。

そんなことを考えると、実現可能な提案とかコメントはするけれど、それ以上のものについては口をつぐむしかなくなる。そして、「とりあえず、やってみたら?」と言うのが最高のアドバイスになる。サントリー創業者の鳥井信治郎氏は「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」という言葉を残したけど、そこには、ただの楽観主義にとどまらない洞察と人情があるのではないだろうか。


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