「朝日新聞と慰安婦問題」@G1サミット

G1サミットでは、経済、社会問題、政治、文化に関してのセッションも多いのだけど、今回異彩を放っていたのは「朝日新聞と慰安婦問題」というタイトルのセッション。現代ビジネス編集長の瀬尾さんがファシリテーターをして、パネリストは池田信夫さん、櫻井よしこさん、三宅伸吾さんという面々。普段であれば、まず足を運ばないセッションだけど、せっかくの機会なので話を聞いてみた。

話の内容そのものは今度公開されるはずなのだけど、櫻井よしこさんが本とかで読む印象と結構違っていた。それはさておき、いくつか感じたポイントをまとめておきたい。


慰安婦問題における論点のありかた

このセッションの内容は後日配信される映像をみたらと思うのだけど、パネリストのポイントは強制性があったかどうかにあって、意外なことに慰安婦が存在していたかどうかの話にはならなかった。櫻井よしこさんなどは、慰安婦をしていた女性は本当に気の毒だったと思う、といった発言までしていた。

そこまで話が進んでいるのであれば、これから議論していくべきなのは、戦時における女性に対する構造的暴力なのではないかと個人的には思う。そして、それは宗主国・植民地国にかかわらず存在していた(とうぜんに植民地においてより苛烈ではあったけど)。ヨーロッパとかで話をするときの論点はこっちのほうに集約されている気がしていて、ほとんどの人が強制性の話はしていない。


朝日新聞が国益を損ねているのか

その後の質疑応答では、会場から2人が「朝日新聞によって日本の国益に大きな影響があった」といった内容のことを話していたので、ちょっと緊張しつつ立ち上がって、「いや、途上国とかいろんな国で仕事してますけど、日本人ほどに悪さをしないで尊敬されている人たち(これを尊敬というか信頼というかは分からないけど)はいないです」と話した。

みんな実際に海外で人と話さないから勘違いしていると思うけど、人間社会はまあまあフェアなので、日本が戦後から一貫して黙々とやってきていた国際協力はちゃんと認知されている。こういった、地に足ついた評価こそが本当のレピュテーションなんだと思う。もちろん、朝日新聞が多少は悪い印象を与えることに関与していなかったといえば、違うのだろうけれども、「国益があ」と大騒ぎするほどのこととは思えない。


朝日新聞だけの責任では全くない

海外における日本のレピュテーションについて話したあとで、僕がパネリストに質問したのが、「なんでたった一つの新聞の誤報がここまで大きな社会問題となり、誤ちが訂正されないまま30年間残ったのか」という点だ。いくら大新聞とはいえ、一紙がそんなことをできるとは考えられない。そして、パネリストの方々からはこれに対する仮説が色々と提示された。それは大きく次の三つだった。

第一に、この誤報がでた90年代当時は、自民党が弱っており社会党を連れてこなければ政権をとれなかったという時代だったこと。そういった社会背景に朝日新聞報道がマッチしたのではないか(櫻井さん)。第二に、戦後に叩きこまれた日本は完全な悪だったという教育と、欧米からの日本に対する厳しい見方があったこと。日本としてはとにかく謝って嵐が通り過ぎるのを待つという姿勢だったのではないか(櫻井さん)。第三に、当時のジャーナリズムの未成熟さ(三宅さん)。90年代当時の論調は朝日だけでなくみな似たようなものだった(池田さん)。

と、皆さんの話を聞けば聞くほど、朝日新聞だけに対してここまでバッシングをするのはどうも異常なことのように思う。みんなで誤ちをおかしたのに、自分の誤ちを糊塗するために、一番目立って間違えた人に石を投げつけているだけではないか。


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