「イカゲーム」の売る力

何かと話題のイカゲームを観てみた。確かによくできていて、合計時間の450分くらいが一瞬で過ぎる。

ただ、日本にここ20年くらい住んでいた人であれば、テーマに新奇性があまりないと感じると思う。本作品は、カイジとバトル・ロワイアルを足して2で割りながら、当時よりもさらに悪化した格差拡大の要素を加えたようなものになっている。「パラサイト」や「万引き家族」と通じるテーマだ。

だけど、カイジもバトル・ロワイアルも世界的な現象にはならなかった。当時からネットフリックスがあったら違ったのかもしれないけれども、このことはよく考えてみないといけないと思う。

僕は、21世紀において日本が世界で勝負するのであれば、勝ち目が一番高いのは妄想力領域だと思っている。日本の漫画やアニメのクオリティの高さは歴史的に世界でダントツであり続けているし(手塚治虫時代からそうだ)、今でも任天堂は世界中の人の尊敬を集めている。いくらでも例があげられるけれども、たとえば「もやしもん」とか「はたらく細胞」みたいなアイデアは日本以外だとあまりお目にかかれない。

だけど、日本の漫画やアニメ企業を全て足してもウォルト・ディズニーの時価総額(30兆円)には遠く及ばないし、任天堂も企業が有している固有の価値に比べて時価総額が低いような気がしている(現在6.5兆円)。

何が課題なのかというと、世界で売る力だ。起業の世界ではよく言われることだけど、アイデアは売る力があってこそ花開く。営業力が強いスタートアップが、技術で優れたスタートアップを往々にして凌駕するのに似ている。

ドラマのような映像作品の場合、売る力は広告宣伝力に加えて役者の能力に依存する。脚本が面白くても、役者が微妙だったら作品は微妙になる。イカゲームだって、日本の役者だけで演じていたらここまでの大ヒットにはならなかったのかもしれない。日本にも素晴らしい役者はたくさんいるけれども、絶対数としては少ないし、また海外に作品を売り込める人材も多くないからだ。また、漫画においても似たようなことが起きている。

日本の妄想力をレバレッジするためには売る力を育てないといけない。この領域には特許は存在しないので、このままだと、日本の強みがただ利用されるだけになって、とても悲しいことになると思う。そういう意味でも、アートや芸能領域に国がもっと投資するべきなんだろう。


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