見出し画像

極夜行と新・冒険論

紹介されて本書を飛行機内で読んだのだけど、これはすごい本だった。今年の読書の中では特に記憶に残る二冊になる気がする。

極夜とは白夜の反対語で、一日中陽が昇らない時期のこと。著者は北極圏の極夜4ヶ月を犬一匹とサバイバルして、最後に太陽を見る。極夜行では、ずっと暗い世界で食糧不足に悩みながらさすらい続ける著者が見た世界と心理描写が描かれる。本書を読んでから拝む太陽がいかに有り難く感じられることか。

その著者が冒険とは何であるかについて書いたのが新・冒険論だ。著者は本多勝一の定義である(1)危険があること、(2)自ら望んでいくこと、という冒険の定義を改定し、これを「システムの外に出ること」とする。システムとは人間社会が作り上げる様々な仕組みや秩序のこと。それは検索したら見つかるエベレスト登山の方法論だったり、GPSだったり、Google Mapだったりするわけだけど、本来的に冒険とはその外に出ることであると著者は主張する。著者がGPSを持たずに極夜を4ヶ月間歩き回ったのは、この問題意識に基づいている。

この著者は変態なんだなと思いながら読みつつ(特に極夜行では著者の変態ぶりが恥ずかしげもなく開陳されている)、一方でとても深い部分で共感する自分がいた。僕が世界をさすらいながら今の仕事をしていることも、時々無性に誰も人間がいない場所でボーッとしたくなるのも、著者と同じくシステムの外に出てみたい衝動、もしくは異なるシステムの間を跨ぎたい衝動に駆られるからだ。

自分が何かに組み込まれたりしておらず、だからこそ何者でもない場所に行き、そこに存在するものと共存すること。それは初めて行く街や村でも、人がいない自然の中でもある意味においては似ていて、何にも属さず何でもない状態にあることに、僕はなんとも言えない喜びを見出す。まさにLike a Rolling Stoneだ(ところでフジロック2018で一番の楽しみは何といってもこの歌を聞くことである)。

もし僕が著者と一つだけ違うとすると、僕がシステムの外に出るのは、単にそれが好きなだけでなく、システムそのものを自分が望むものに変えたいからなんだと思う。それは社会変革であったり、自分がいる社会にはびこる偏見を打ち破ることだったりして、結局最後に自分が戻ってくる社会(システム)があるからこそ、僕は旅に出るのだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?