シン・ニホン

献本いただいていたのだけど、海外出張から戻ってきて一気に読んだ。

ただでさえ超多忙な安宅さんが国の委員をやっていることについて、不思議に思っていたことがある。しかも、単に委員会で意見を言うだけというような消極的な参加方法ではなく、超重量級の資料を出してもいた。本書を読んで、その理由が少し分かった気がする。安宅さんは本物の愛国者で、まだ日本を諦めていない。

本書は、安宅さんが委員会で提出した資料や、僕が以前大変感銘を受けた「知性の核心は知覚にある」というダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビューの論文、関わっている「風の谷プロジェクト」やその背景にある思想などを一つにまとめたものだ。近年の安宅さんの仕事を近くで見てきた人たちにとっては、新しい内容が多くないと思われるかもしれないが、一冊の本になったことで、ここ数年の安宅さんの問題意識が鮮明に浮かび上がる。

本書は2020年代の「学問のすゝめ」だ。本書はまずAI×データ時代における産業の変容、その中で一人負けとなっている日本の現状を徹底的に突きつける。安宅さん一流の、ぐうの音も出ないレベルでの分析で。

だからこそ僕たち一人ひとりは学び続けないといけない。学ぶべきものはAI×データについての基本理解、知覚、人間性など多岐に及ぶが、それでも僕たちは未来を生きるために学び続けないといけない。企業も人が学び続ける場所でないといけないし、経営者も学び続けないといけない。そして、国はそのように人を育てるために必要な研究予算を投じるべきである、と安宅さんは主張する。

本書は課題解決能力を鍛えたいと思っている人にとっても貴重な具体例だらけだ。課題を設定し、課題を構造化して事実を集め、示唆を得て、アクションを提示する、という一連の流れについて説明を読んで内容はある程度理解したけど、具体例をもっと知りたいという人にも一読の価値がある。その意味で、本書は安宅さんの名著「イシューからはじめよ」の実践編でもある。

霞ヶ関と永田町の全ての人、そしてこの国に住む多くの人が本書を読むこと(読みきるのは結構大変かもしれないけど)を願っている。


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