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「広島市立中央図書館等の再整備について」市民意見・質問書

この記事について

この記事は、1年前(2022年1月14日)、広島市からのパブリックコメント募集に対して提出したものです。再整備案が加速的に進められようとしているため、一市民が提出した意見として公開します。
これは私個人の見解であり、所属団体の意見を代表するものでないことをお断りしておきます。

なお、これを提出した時点では、中央図書館・こども図書館・映像文化ライブラリーの3館が駅前エールエールA館への移転想定されていました。その後、こども図書館(一部機能とも)は現在地へ残すことに変更されました。

現在の再整備計画案についての情報発信

市民への十分な情報公開や議会での議論がなされないまま、再整備計画案が進められていることに多くの団体が異議を申し立てています。一部を紹介します。

▼ひろしまのシビックプライドを考える会

ウェブサイト https://civicpridehiroshima.jp/
署名キャンペーン「私たちは広島市中央図書館等の再整備計画案に反対し、検討協議会設置を求めます」https://chng.it/KW5VmdvX22

▼こども図書館移転問題を考える市民の会 https://twitter.com/kodomoHiroshima

▼青少年活動を守ろうプロジェクト https://twitter.com/wakamono2291
広島市青年団体連絡会議(こうせいれん) https://twitter.com/ko_se_ren

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●はじめに

 映画およびアニメーションを愛好する一市民です。
 昨年9月初に中央公園内外への移転検討、広島駅前も想定するとの報道があった後、11/18, 19に、中央図書館・こども図書館・映像文化ライブラリーを駅前エールエールA館へ移転する方針、それに対して市議会で疑問相次ぐとの報道がなされました。以降、状況を気にしておりましたが、今回の市民意見募集に対して、本資料を提出いたします。
 この意見書は、今回の意見募集にあたって提示された「広島市立中央図書館等の再整備について」「(参考)中央図書館等再整備の検討経緯について」2資料(以下、基本2資料と記します)および、末尾に示した【参考資料】を参照して意見を述べています。適宜ご確認ください。
 
 まず、結論から申し上げますと、以下の通りとなります。
(1)エールエールA館への移転には反対します。
(2)中央公園内に文化芸術施設を建て替え(新設)、そこに2図書館と映像文化ライブラリーおよび青少年センターの機能の一部を統合して、こども文化科学館とも連携しながら、こどもから青少年・大人に至るまでシームレスに学びと育み、遊びの場となり、広島市の芸術・科学文化の振興に寄与されることを希望します。
 
 この結論を前提として、まず基本2資料を読んだ上での疑問点・質問を申し述べ、その後に文化施設のあるべき姿についての意見を申し述べます。

●疑問点・質問


[Q1]今回の方針は、議論上でどの段階にあたるでしょうか?
 ①複数ある案のひとつ
 ②かなり絞り込まれた案のひとつ
 ③ほぼ確定に近いレベルの案で、これを実現する方向で検討していく
のうち、資料を読む限り②か③と想像しますが、いかがでしょうか? まだ、この移転案が撤回される余地はありますか?
 
[Q2]同館へ移転するとして、図書館やライブラリーの根本的機能の設営を含めて検討されていますか?
 図書館・ライブラリーには、①収集 ②保存・整理 ③公開・活用(閲覧や展示、教育・文化的な活用)が保証されるべきです。
 ③の公開・活用の前に、保管されている貴重な所蔵品を劣化させることなくきちんと保存可能な設備(適切な保存機能を備えた書庫や映像収蔵庫)および収蔵物を整理するバックヤード、レファレンス機能が整備されていなければ、図書館やライブラリーとしては機能不十分です。
 基本2資料の中で、「再整備に必要と考えている ①約1万㎡(1フロアあたり約2~3000㎡)の空きスペースが確保できること」とあります。今回の2資料中では明記はありませんが、報道等によればエールエールA館3フロアを提供可能との情報があります。上記で説明された1万㎡とカッコ内の1フロアあたりの面積からは4フロアなければ十分な広さは確保できないとの計算になります。
 映像文化サイブラリーに関しては、上映ホールが十分な規模および設備で設置できるかの懸念もあります。一般的に上映ホールは階段状に座席を設置する、また、上映設備を配置する場所を確保するため、通常の建物の1階分では高さが不足します。1.5階または2階分の高さが必要です。エールエールA館への移転の場合、2フロアを抜くような改修は可能なのでしょうか。
 こういった根本的機能は案の段階から検討に含めなければ、場所が決まり詳細検討の段階になって、場所が足りない、収蔵庫の機能を満たせないといった問題が噴出してくる可能性があります。現場の職員、特に司書・学芸員の意見も早い段階から聴取して案に反映していくことが必要と考えます。図書館は単なる無料の貸本屋ではなく、知的資料の保管拠点であるべきです。適切に保存されない場合、ひいては市民が受ける文化サービスの質的低下につながる可能性を懸念しています。
 
[Q3]同館へ移転するとして、中央公園地区に取り残される形になる「こども文化科学館」「青少年センター」へのサポートは検討されていますか?
 中央図書館、こども図書館、映像文化サイブラリー3施設がエールエールA館へ移転すると、中央公園地区にこども文化科学館と青少年センターが残ります。こども文化科学館は耐震工事を行なって現地で継続運営、青少年センターは現建物が極めて古いため、こども図書館が移動した後に入るとされています。詳細は後述する「中央公園一帯の文化施設のあるべき姿について」に譲りますが、いずれの施設も大幅な設備削減の中で、また、移転対象の3施設との連携も難しくなり、難しい運営を強いられることになると予想されます。
 3施設がエールエールA館へするとして、こども文化科学館と青少年センターへのサポートは検討されているでしょうか?
 移転後には「『平和文化』の情報拠点」となることが標榜されており、郷土資料館サテライトを設置するとされています。そうであれば、広島の文化をともに支えてきたこども文化科学館と青少年センターおよび他地区に存在する市の文化施設(まんが図書館、現代美術館、広島城、江波山気象館、交通科学館)の情報窓口となるような機能を設け、相互に動線を示す、事業紹介するなども検討すべきと考えます。
 
[Q4]各種連携事業を導入するにあたって、司書・学芸員の負担増にならないこと、および基本的な待遇改善は検討されていますか?
 中央図書館、こども図書館、映像文化サイブラリーの統合だけでなく、郷土資料館サテライトや様々な連携事業の説明があります。それらとの連携を図るにあたって、広島市の文化の核となる施設であること、司書・学芸員の本来業務に支障をきたさないよう待遇を確かなものとし、新たな情報発信や情報サービス提供業務については適正な技量を保有する人材の登用を行うこと、また、そのための人件費も現段階からしっかり検討されていますか?
※運営自体は指定管理制度や外部委託(連携内容によっては)されることと思いますが、単なるコストカットにならないことを要望します。
 

●中央公園一帯の文化施設のあるべき姿について


1.文化施設の状況
 中央公園一帯の文化施設について開業年の古い順に以下に示します。(ファミリープールと渝華園は参考までに付記)
 ①青少年センター S41(1966)/1/15
  http://y-center.jp  ※ホール628席
 ②中央図書館 S49 (1974)/10/27
  https://www.library.city.hiroshima.jp/guide/chuou/
 ③こども図書館  S55 (1980)/5/1
  https://www.library.city.hiroshima.jp/kodomo/
 ④こども文化科学館  S55 (1980)/5/1
  http://pyonta.city.hiroshima.jp  ※アポロホール250席
 ⑤映像文化ライブラリー S57(1982)/5/1
  http://www.cf.city.hiroshima.jp/eizou/  ※ホール169席
 ⑥中央公園ファミリープール S54(1979)/7/1
  http://www.midoriikimono.jp/pool_top.html
 ⑦渝華園 1992(H4)年
  https://dive-hiroshima.com/explore/2623/
 
2.再編についての情報
 昨年9月の報道で次のような再編および再配置(移転含む)が検討されているとされました。
(1)映像文化ライブラリー、中央図書館、こども図書館(こども文化科学館内)を統合し、公園内外での移転・建て替え。※移転先は広島駅周辺も候補
(2)こども文化科学館は、耐震工事を施して継続。
(3)青少年センターは、こども図書館の跡に入れる、アポロホールを科学館と共用。
 ※参考:ファミリープールは廃止または公園外へ移転。
    渝華園はサッカースタジアム建設予定地にかかるため中央図書館北側へ移転。
 
 いずれの施設も開業からかなり経っているため、この再開発の流れの中で改修や移転・建て替えは止むを得ないと思われました。しかし、コストカットありきで、数字並べゲームの如く入れ換えを考えているような雰囲気も感じられ、文化行政のサービス低下が危惧されました。広島市の中心部である中央公園一帯に「文化の杜」としての諸施設が保持されることが大切です。
 映像文化ライブラリー、中央図書館、こども図書館の統合は適切な設計がなされれば問題はないかもしれませんが、統合後にも、①収集 ②保存・整理 ③公開・活用(展示、閲覧、教育・文化的な活用)の基本が間違いなく行われること、移転時に収蔵品の紛失・廃棄や劣化が無いよう配慮される必要があります。殊に映像文化ライブラリーは、映像・アニメーションを学び、親しむ場としての重要な拠点です。
 青少年センター内のホール他の各設備は、現在では区民文化センター等で代替できるものが多く、あえて新設する必要は無いという考え方もできますが、青少年の芸術文化活動をサポートするという趣旨からすると、こども文化科学館との設備共用等はサービス縮小に過ぎるといえます。
 また、こども文化科学館は、耐震工事(筋交いを入れる等か?)をすると内部がかなり狭くなる可能性も考えられ、展示やセミナー等の事業への支障、またアポロホール共用で事業展開への支障が出ることも十分に予想されます。
 
 その後の経緯は、今回提示された基本2資料にある通り、9月中旬に広島駅南口開発(株)からのエールエールA館への移転検討の要望を経て、同館への移転を前提とした議論が進んだように見受けられます。
 
3.広島市の資料から見る再編の可能性
 令和2年3月に広島市が提示した資料「中央公園の今後の活用に係る基本方針(令和2年3月)」によると、映像文化ライブラリー、中央図書館、こども図書館の統合施設は長期的計画としては旧市民球場跡地東側に作られるとあります。同資料から一部の画像を引用します。(赤枠は筆者追加)

中央公園文化施設の再配置 中・長期的な取組イメージ

 しかし、同資料ではバスセンターの現地建て替えに伴って、この場所を仮設の乗降場とすることも示唆されており、この統合文化芸術施設の完成の時期が不透明になる可能性も予測されました。その場合、再編対象の各施設を仮移転させながら再配置が行われるといった事態もあり、その過程で各施設の運営に制限がかかることのないよう(問題を最小限に押さえられるよう)、広島市が標榜する国際平和文化都市にふさわしい文化行政のありかたを実現することが望まれます。
 
4.懸案および提言素案
 3に示した旧市民球場跡地東側に新設することが難しい場合(旧広島市民球場跡地整備等事業も別途受託事業者が決定したため)、一帯ではファミリープール跡地も十分な広さのある候補地となるのではないでしょうか。いずれかの場所に長期的(10年程度か?)に統合文化芸術施設が新設されると仮定した際、それに関して、文化行政が劣化する懸案を洗い出し、精査していくことが必要となります。現状考えられる懸案と提言素案を以下に示します。
(1)統合文化芸術施設は、広島市が標榜する国際平和文化都市を支えるものとしての市民の文化素養を育む拠点となることが望まれます。図書館、映像文化ライブラリーのもつ所蔵品が市民に開示され活用されることは、基本的な教養を育む豊かな土壌としてあるべきものです。
(2)統合文化芸術施設は、前述の基本方針資料では中央図書館、こども図書館、映像文化ライブラリーを集約・多機能化、ホールやコンベンション機能などを有する施設にするとありました。コンベンション機能などは難しいとしても、ここに青少年センターの文化芸術サポート機能も統合すれば、こどもから青少年、大人までが芸術に親しむ拠点とすることができるのではないでしょうか。
(3)こども文化科学館は広島市の設定では「こどもゾーン」に属するとされています。しかし、小惑星探査機はやぶさ、はやぶさ2の偉業から、科学に関する学びは、こどもとその親である大人まで広い年代へ広がっています。科学も芸術やスポーツとともに文化のひとつです。こども、青少年、親世代までも科学に対する学びを育む場所としての文化科学館の役割は大きいと言えます。一時的に青少年センター機能が間借りするとしても、将来的にはこども図書館の跡も再活用して、サイエンス・リテラシーを育む場とすることが、未来に向けて有用なのではないかと指摘します。
(4)ファミリープール跡地はこどもと親を中心とした「遊びの空間」として整備される可能性が高いと思われますが、統合文化芸術施設の新設を想定しつつ、こども科学館に隣接する場所を「学びの広場」として設定してはどうでしょうか。川沿いを「水の都ひろしま」ならではの親水と科学の融合として、満干潮で天文を知る、デルタの成立ちを知る等。プラネタリウム番組と連動して、屋外天文観測の場としての活用も考えられます。
(5)各施設がどのように移転をしながら最終的な統合施設へ移行していくか、移転途中で貴重な所蔵品が失われたりすることのないように配慮し、具体的な計画を策定する必要はあります。状況によっては、可能な限り現施設での運営を続けるという選択肢もあるのではないでしょうか。
 
5.最後に
 ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が松江に赴任している間に記した日記から、学びと育みに関する貴重な提言を記します。
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1890年10月31日(金)
教育では知識と想像力が一番肝要。幼時に「想像力」を育むことが重要であり、日本の未来を託す若者には、「想像力」の養成が将来のために必須条件となる。
October 31, Friday
Knowledge and imagination are paramount to education. It is important to develop "imagination" at an early age, and for young people who entrust the future of Japan, training of "imagination" is indispensable for their future.
(松江市 小泉八雲記念館Facebook投稿より引用)
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【参考資料】
1.基本資料として
・広島市サイト:「広島市立中央図書館等の再整備について」に対する市民意見募集について
 https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/43/255439.html
 ① 広島市立中央図書館等の再整備について [PDFファイル/1.21MB]
 ② (参考)中央図書館等再整備の検討経緯について [PDFファイル/509KB]
2.参考資料として
・広島市サイト:中央公園の今後の活用に係る基本方針(令和2年3月)
 https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/133/142718.html
 ③ 中央公園の今後の活用に係る基本方針(令和2年3月) [PDFファイル/16.69MB]
・広島市サイト:中央公園の今後の活用に係る基本方針(案)に対する市民意見募集の結果(令和2年3月)
 https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/133/141970.html
 ④ 中央公園の今後の活用に係る基本方針(案)に対する市民意見募集の結果(令和2年3月) [PDFファイル/485KB]
・広島市サイト:中央公園の今後の活用に係る有識者会議(令和元年8月~令和2年1月)
 https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/133/119023.html
 ⑤ 参考資料1 中央公園の今後の活用に係る検討状況(中間報告)(平成24年11月) [PDFファイル/4.91MB]
 ⑥ 資料5 基町・紙屋町エリア まちづくりビジョン[提言] [PDFファイル/3.64MB]
 ⑦ 資料5(別冊) 基町・紙屋町エリア まちづくりビジョン[別冊] [PDFファイル/7.41MB]
・広島市サイト:「広島市都市計画マスタープラン」の改定について
 https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/129/6548.html
 ⑧ 概要版[PDFファイル/2.8MB]
・広島市サイト:「水の都ひろしま」推進計画
 https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/mizunomiyako/4443.html
 ⑨ 「水の都ひろしま」推進計画〔改定版〕[PDFファイル/2.1MB]
3.その他、参考にした情報
・広島市議会「都市活性化対策特別委員会」9/2録音中継
 https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/gikai/242349.html
 ※目次⇒ https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/gikai/11012.html
・中国新聞の報道
・TSSニュース、RCCニュースなどの報道
 
以上。


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