コント「金庫破り」台本


コント「金庫破り」




衣装:黒シャツ黒ズボン黒靴×2
小道具:聴診器×2、携帯


二人板付き

明転

関町「この金庫か。」
田所「あぁ、この会社は多額の現金を、銀行に入れずに全部この金庫に保管 している筈だ。間違いない」
関町「…しかし、知り合いの金庫破り達がこぞってこの金庫だけは失敗した って言っていたからどんなもんかと思っていたが、どこにでもある普 通の金庫じゃねぇか。」
田所「全くだ。拍子抜けもいいトコだぜ。きっと周りの奴らの実力が足 りなかったんだろう。」
関町「だろうな。よし、とっとと金庫開けてトンズラしちまおう。」
田所「あぁ。そうだな。」

(田所、聴診器をつけてダイヤルを回そうとする)

BGM-賛美歌(イントロあり)

(田所、なんだこれ?という顔をしながらだんだん感動してくる)

関町「どうした?おい。…おい!」

(田所、聴診器を金庫からはずす)

BGM-C.O

田所「…やっぱ、やめないか。」
関町「何言ってんだテメー!どうしたんだ、急によ!」
田所「こんな事、良くないよ…。」
関町「おい!ここまで来て何言ってんだ!目を覚ませ!俺たちはもう後戻り 出来ねえんだよ!」
田所「…は!あぶねぇ!何言ってんだ俺!……くそ!みんなが失敗したって 意味がやっと分かったぜ!とんでもねぇトラップだ!」
関町「どういうことだ!?」
田所「金庫の中から賛美歌みてえな音楽が流れてくるんだよ!これできっ とみんな改心しちまうんだ!」
関町「何!?音楽!?」
田所「あぁ、心が持ってかれちまうんだ!」
関町「何言ってんだ!たかだか音楽で!…おい!早くしねぇと警察来ちま うぞ!…ちっ!どいてろ!俺がやる!」
田所「…あぁ、すまない!」

(関町、聴診器をつけてダイヤルを回そうとする)

BGM-賛美歌(イントロ無し)

関町「あぁ、こういう事か…!けっ!関係ねぇ!このまま続けるぜ!」
田所「おぉ!いいぞ!」

(関町、段々と感動して金庫に抱きつく)

田所「おいおいおい!」

(田所、関町の聴診器を耳からはずす)

BGM-C.O

田所「お前、完全に持ってかれてんじゃねぇかよ!」
関町「…は!何してんだ俺…!…くそ!何て威力だ!相当ヤバいなコレは!」
田所「あぁ…。でも、もうパターンさえ分かっちまえばこっちのもんだ!歌に さえ気を付ければいいんだからな!二度目なら耐えれる自信がある!」
関町「本当か!じゃあ頼む!俺はちょっとまだ残っちゃってるから…!」
田所「任せておけ!」

(田所、聴診器をつけてダイヤルを回そうとする)

ナレ:「…お母さんです。…東京の生活には慣れましたか?…ちゃんとご飯食 べていますか?…身体に気をつけて頑張って下さい。…今度、実家で 作ったサツマイモを送ります。」

(田所、「サツマイモ…」くらいで聴診器を金庫からはずす)

ナレ:C.O

(田所、携帯を取り出し、どこかに電話)

田所「…警察ですか」
関町「おい!何してんだテメー!!(携帯取り上げて消す)」
田所「…は!…畜生!パターン変えてきやがった…!!」
関町「は!?」
田所「お袋パターンで来やがった!誰だか知らねぇが母さんっぽい声で語り かけてきやがったんだ!」
関町「なんだと!…賛美歌で慣らした後、そんな二重のトラップを…!」
田所「どうすりゃいいんだ!!」
関町「任せろ!俺は両親共に東京暮らしだから、しょっちゅう会ってる!俺 には効かない!」
田所「あぁ、頼む…!」

(関町、聴診器をつけてダイヤルを回そうとする)

ナレ:「お兄ちゃん、大好き!」

関町「畜生!」

(関町、聴診器を金庫からすぐはなし)

関町「妹はダメだよ〜!」
田所「え!?」
関町「俺、生き別れの妹がいてさ〜…!その妹にこっそりお金送る為にこう やって盗みやってんだよ〜…!!」
田所「…そ、そうだったの…?」
関町「……なぁ、やっぱり本当にこんな事やめないか…?…俺、完全に心折 れちまった…。」
田所「…あぁ、そうだな…。正直俺もさっきの母親のヤツでとっくに心折れ ちまってたんだ…。」
関町「二人で警察署に行こう…。そんで、ちゃんと罪を償おう…。」
田所「あぁ…分かった…。」
関町「…よし…じゃあ警察行こうか…。」
田所「…なぁ。」
関町「ん?」
田所「…最後に、もう一度二人で、あの金庫聞かないか…?」
関町「え?」
田所「いや、だってよ、あの金庫、すげぇ俺たちのツボ突いてくんじゃん… 。最後にもう一度聞いてさ、心をサッパリと洗いながして…、そんで 警察行こう…。…ダメか…?」
関町「(溜め息)……お前…、綺麗な目してるぜ…!(聴診器をつけて金庫に向 かう)」
田所「…よし!聞こう…!」

(二人で金庫に聴診器あてる)

BGM-トランス

(すぐに二人とも聴診器捨てる)

田所•関町「何だコレ!!」

BGM-C.O

暗転



[解説]


初披露は確か2014年。当時、先輩のブロードキャスト!!さんと一緒に行なっていた月一の新ネタライブ「ライスドキャスト」だったと思います。

終演後のアンケート、数人の方が「なぜ聴診器を金庫に当てるんですか?」と書いていたのを見て衝撃を受けたのを覚えています。

「聴診器を付けて金庫の音を聞く」というのが全員の金庫破りの共通認識では無かったのです。こいつはやっちまった、と思いました。コント「入れ替わり」の解説でも書きましたが、誰もが一度は見た事がある王道のシーンを崩すパターンのネタに関して、王道だと思っているのが少数派なら成立しません。

すぐに自分でも思い返しましたが、確かに聴診器を使うというのが何の作品の何のシーンで見たのかハッキリと言えない自分がいました。恐らくルパン三世とかその辺りだろうとは思いますが、正直世間ではそんなベタなシーンでは無かったのかも知れません。

その後何回かライブで試し、まぁ半数以上のお客様が認識できていそうだなぁという激甘な採点の末、持ちネタとして残ったコントですが、正直非常にギリギリのコントです。

一応ネタを作る時には、怪しい物には必ず相方にも「このシーンってあるある?」と確認は取るのですが、如何せん同い年の同性でのチェックのみだとこういう事が起きます。本当は十代の女性にでも聞けば良いのでしょうが、街中でオジサンが女子高校生でも捕まえてそんな質問しようものなら、劇中の二人同様刑務所行き待ったなしです。歳を重ねたせいで若い人とあるあるが変わってきてしまうのはネタを作る者にとって本当に恐ろしい現象です。

僕らが特殊な場合を除いて、コントになるべく時事ネタやタレントなどの個人名を出さないのは、そのネタを何年も後にやったとして、その出来事や名前を知らない世代が出てきたり、その事柄に対する世代間のイメージの相違などが出てきてしまうと捨てざるを得なくなるからです。

どの時代でも、どの世代にもなるべく楽しんでもらえるコントを作る。

その意味では反省の多いコントでした。



ご無理はなさらず。 いただけるのであれば有難く創作意欲と飯の種にさせて頂きます。