その病とは

 しばし沈黙を守っていた少女は、俯いたままぽつりぽつりと話し出した。
「どうしようもなく胸が痛くなっちゃうんです。そして、ドキドキってものすごく鼓動が早くなって、苦しくなって、どうしようもなくなっちゃう」
 そして、膝の上で二つの拳をキュッと握り締める。かくかくと小刻みに膝は震え続け、次第に震えは激しくなっていく。
 ぱくぱくと酸欠の金魚のように口を開き、彼女は大きく深く息を吸い込んだ。一回、二回、三回、落ち着け、落ち着け、と自らに言い聞かせながら。
 取りとめの無い彼女の話を辛抱強く聞いてくれる彼は、彼女を急かすようなことはしない。ただ彼女の次の言葉を待つだけだ。
「顔も赤くなって、熱が出たみたいにふらふらってなるんですよ。身体全体がふわふわして、変なんです」
「どのような時にそんな症状が出るのですか?」
 白衣に身を包んだ美貌の医師が、頬を高潮させうるんだ瞳の少女に対して優しく微笑んだ。
「……先生の、前に出ると」
 思い切って彼女は熱い思いを吐露し、潤んだ瞳で医師を見つめた。医師の薄赤い唇がゆっくり開く。
「なるほど、医者恐怖症ですね」