彼女たちのコズミック・イラ Phase25:闇を射す光

この回を書いている最中の心境としては、Nジャマーキャンセラーが盟主王の手に渡った時のクルーゼ隊長のようなものでした。

シンヒルの扉を開きました。あるいはヒルシンとも。でもシンルナも書いているから、シンステもちょっと書いているから……(言い訳)

ちなみにヒルダさんの本番シーンはまだ書いていません。まだ筆者には理性が残っているようです。


明かりが消えたヒルダの部屋。ベッドの上では部屋の主であるヒルダ、そして部下であるシン・アスカがシーツに包まったまま、背を向け合って寝ているのであった。

「どうして……こんなことになっちまったんだろうね。」

後悔ばかりが先走り続けるヒルダ。ベッドの上を赤いもので汚し、自らの行いを顧みて彼女は恐怖、そしてそれを遥かに上回る高揚感で満たされていた。

「それにまさか……あんたが初めてだったなんて、ビックリしたよ。」
「そんなこと言ったら、俺だってヒルダさんが……!」
「バカっ!そういうことも平気で言うじゃないよ!あんただって……私がどんな女かは知っていただろ。」
「は、はい……本当に、すみませんでした。」

シンが包まったシーツに付着した“赤いもの”。それはヒルダが遮った言葉を代弁していた。

「このことをルナには……どう説明すればいいんですか?」
「まぁ……そうだね。一番手っ取り早いのは、お互いに黙っておくのがいいと思うよ。こんなことをした日のことなんて、忘れちまうのが楽ってものさ。」
「そんな……!俺、ヒルダさんが初めて相手でよかったって……うぅっ!」

そう言いながらシンが振り返ろうとすると、そこには一糸纏わぬ姿で横たわるヒルダがいたため、彼は再び背を向けて口を閉ざしてしまう。

「あの……俺、ちゃんと出来ていました?」
「ああ……たぶん、よかったと思うよ。わたしも、そんなに言えるわけじゃないから。」

過ち以外の何物でもない、超えてしまった一線。ルナマリアの恋人であるシンはもちろんのこと、そのルナマリアに特別な感情を抱いていたヒルダもまた、彼と共に罪悪感に沈んでいるのであった。

「でもほら、いざあの子とするって時に、粗相とか失敗することがなさそうでよかったじゃないか。私のことなんか、予行練習相手だと思ってくれてりゃ……」
「いえ、もう……それは……ルナとは経験済みです。」
「あっ……」

特大の地雷を踏み抜き、ものの見事に炸裂させたことに呆然とするヒルダ。そうしたルナマリアとの関係の延長線上に彼と関係を結んでしまったヒルダは、腹を括るしかないのであった。

「はぁ……まったく、あの子言った通り、あんたはとんでもない問題児だね。」

そう言いながらヒルダは背中を向けていたシンからシーツを引っぺがし、彼を自らと向かい合わせて優しく抱きしめる。

「うわぁぁ……!?ひ、ヒルダさんっ!?」
「余計なことを言うんじゃないよ。あと、余計なことを考えたりしてもダメだ。今はその……あ、あれだ……ルナマリアのことをだけ考えるんだ。」
「この状況で!?ヒルダさんとこんなことをしている状況で!?」

だがそうして発せられた言葉に反して、ヒルダに包み込まれたシンの中ではルナマリアへの思いが溢れようとしていた。それは、自らを抱き締めていた彼女もまた、同じ女性に対する思いを抱いているからなのであった。

「でも……その、ヒルダさんって……ラクスさんのことをその……」
「無粋なことを言わないでおくれ。あんたは男なんだから、女の厚意にはしっかり甘えておくんだよ……」

“好意”ではなく“厚意”。しかし、それがシンに伝わっているか定かではなかった。軍人として引き締まりながらも、女らしさに溢れたヒルダの身体に包み込まれた彼は、静かに彼女を抱き返すのであった。

「そういえばシン。あんたさっき、目を覚ます前に女の名前を呼んでいたけど……」
「えっ?本当ですか?ルナの名前じゃなくて?」

互いに落ち着きを取り戻した上でのベッド上の会話。シンによって女となったヒルダは、彼が口にした一人の女の名前について言及していた。

「何度も言っていたんだよ。ステラ、ステラって。」
「あー……はい、そう……ですか。」

良くも悪くも一線を越えたことで、ヒルダはシンの胸の内に秘めた思いに触れる覚悟が出来ていた。彼がうわ言のように口にした名前、それが決して触れるべきものではないと理解した上で、彼女は踏み越えようとしていた。

「俺が守れなかった……女の子です。連合の……デストロイのパイロットの。」
「デストロイ……ああ、そういうことね。」

ヒルダはそれだけ多くのことを察していた。コンパス設立前における彼の経歴はある程度把握していたものの、その複雑さ故に詳細までを知ることは避けてもいた。

「ヒルダさんは知っているんですか?その……俺とヤマト隊長、キラさんとの関係って。」
「それはもちろん知ってるさ。銃を向け合って撃ち合ったのはあんたたちだけじゃないからね。私だって、ルナマリアとは戦場で会っていたって互いに知っているよ。」

それはコンパスという組織に身を置く以上、必然ともいえる関係であった。かつて彼らは戦場で銃を突き付け合い、容赦なく撃ち合った関係を理解した上で手を取り合っているのだから。

「でも別に、何も恨みつらみがあって殺し合っていたわけじゃないからね。それも私の場合だけど……あんたはそうでもなかったりするのかい?シン。」

ステラという少女と、シンとキラの関係。それは彼ら2人がいかなる信頼関係を築いていようとも、心には決して消えない傷として残り続けるものであった。

「分かってはいるんです。ステラを撃ったのは確かにあの人だった。でも、そうしないといけない理由だってあったんです。ステラが……あの子も多くの人を傷付けて、もっとたくさんの人を傷付けようとしていたから……!」

それでもシンは、自らが大切に思っていた少女の命を奪った存在を許せずにいた。しかしその思いもまた、彼がキラ・ヤマトという青年と再会をした時に、抱いていた憎しみの心は消え去ったであった。

「あの人がフリーダムのパイロットだなんて、信じられなかった。もっと早く出会えて……もっと早く知ることが出来ていれば……!」
「まぁ……確かにキラは、とても戦いに向いている性格じゃないからね。私も最初は気に入らなかったよ。ラクス様が認めたって男が、一体どれ程のものなのかってね。」

差異はあれど、シンとヒルダはキラという一人の人間を知ることで、少なからず考えを改めるようになっていた。だがしかし、それとは別にシンはステラという少女を救えなかったという後悔だけが、延々と心の中で燻り続けているのであった。

「誰が悪いかなんて、考えたらキリがないんです。ステラを一番最初に酷い目に遭わせた奴らだとか、俺との約束を守らなかったあのおっさんが悪いとか……彼女を人間として見ていなかった……ザフトが悪いとか。」

憎むべきものはいくらでも存在していた。しかし、憎しみだけで戦いことは決してあってはならないと、シンはキラだけではなく、もう一人の戦友から骨の髄にまで刻み込まれているのであった。

「だけど、どうしても……忘れられないんです。ステラのことが……俺、これからもたぶんずっと……!」
「……いいんじゃないかい。あんたまで忘れちまったら、誰がその子を覚えておいてくれるんだよ。フラガ大佐も悪いとは思ってるだろうけど、特別な気持ちを持ってやれるのは……シン、きっとあんただけだよ。」
「ヒルダ……さん……」

そうしてヒルダと顔を見つめ合わせたシンは、彼女の胸に顔を埋めて、自身が抱き続けるやり場のない思いを吐き出していく。彼女はそんなシンの傷跡を癒すように、顔を埋めてきた彼を再び抱き締める。

「こういうことをルナマリアに言うのだって、あんたは出来ないだろうからね。私にだったら……好きなだけぶつけてくれていいから……ね。」

互いに予期せぬまま結んだ関係であったものの、ヒルダはシンが恋人にも吐き出すことが出来ない思いを受け止めていく。それが、彼女が自身を女であると感じさせた、彼に対して出来る慰めなのであった。

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