彼女たちのコズミック・イラ Phase28:一途な思い

シン、ルナマリア、ヒルダ、そしてアグネスよるコロニー探索です。保護者2人と子供2人といった光景だと思います。

一応本作ではヒルダとアグネスの関係を書いていますが、同性カップルのような展開にはなりません。ヒルダさんはラクス一筋でしょうからね(シンルナとの関係から目を逸らしながら)。

次回は第一部の終盤とリンクします。


C.E.75:コロニーメンデル内部

荒廃した遺伝子研究の聖地。既にコロニー内部に酸素はなく、活動をするにはノーマルスーツの着用、あるいはモビルスーツへの搭乗が必須の空間であった。

「ジンに乗るのなんて、もうアカデミー以来だぞ。」
「でも懐かしいわね。この複座式のコックピットも、教官が座るために改良されたものみたい。」

コロニー内を歩いて移動する、シンとルナマリアが搭乗したワークスジン。受領した機体や既存の運用機体は探索には向いていなかったため、ジャンク屋から機体提供を受けているのであった。

『あんま良い機体ばっか乗っていたから、モビルスーツの基礎動作を忘れて上手く乗れないんじゃないの?』
「なにをぉっ!?」
「ちょっとシン!アグネスも今はそんな喧嘩をしている場合じゃ……!」

シンとルナマリアが搭乗する機体と共に移動をするもう1機のジン。その機体にはアグネスとヒルダ搭乗しており、通信を介してシンを挑発してくるのであった。

『悔しかったら私たちより先に目的に着いてみなさいよ。ざぁこ、ヤマザル、へたれ。』
「うぐぐぐぅぅぅ……こいつ、言わせておけばぁっ……!」
『おいアグネス、行きに推進剤を使うのはご法度だよ。下手に使えば帰りはコロニーをよじ登っていくことになるよ。』
『大丈夫ですよ。あんなヘタレに負ける要素なんてありませんから。』
『そういうことを言ってんじゃないんだよ。あいつと張り合うのをやめろって言ってんだ。』

シンがアグネスと競い合うまでに上り詰めたのか、あるいはアグネスがシンと同等にまで落ちぶれたのか。それらが定かではない一方で、2人とそれぞれ同乗しているルナマリアとヒルダはひたすらに苦労していた。

「上等だアグネス!お互いにジンだったら実力差はパイロットの違いだけだからな!」
『はぁぁ?だったらなおさら私が負ける理由なんてあるわけないでしょ。あんたなんかワンパンでコカしちゃうんだから。』
「口だけだったいくらでも言えるからな!待ってろよ……いまここではっきりと分からせて……」
「シン!いい加減にしなさいっ!ああもう……私が操縦するから……!ヒルダさんっ!」
『ああ。とりあえず目的地までは回線を切るとしようか。こんな狭い場所でキーキー叫ばれたら溜まったもんじゃないよ。』
『誰かそんなサルみたいな声を上げてるんですか!?騒いでいるのはあのヤマザr……』

そうしたアグネスの声が途絶え、一時的にシンとルナマリアが搭乗するジンの中には静寂が広がる。しかし、すぐに彼はルナマリアに声を上げる。

「あっ!ルナっ、どうしてこっちからも通信を切るんだよ!?」
「シン、次にこの中で大声を上げたら、あんたをコックピットから叩き出すから。わかった?」
「うぅぅ……うん、わかった。」

怒気を発したルナマリアの言葉に、ようやくシンは大人しくなる。その後、目的地までは些か気まずい空気が2人の間に流れ続けるのであった。

「あぁっ!?どうして切っちゃうんですか!?」
「はぁ……ついこの間までは挑発するだけで歯牙にもかけなかったのに、どうしてこうなるのかねぇ。」

アグネスが操作をするジンのコックピット内。シンたちとの通信を遮断したヒルダは、それでも声を荒げる彼女に辟易していた。

「そんなにシンのことが気に入らないのかい?それとも、ルナマリアと一緒になったあいつが認められないのか。あるいは……」

ヒルダは呆れながらも声を上げ、丁寧かつ正確な操縦を続けるアグネスに言葉を続ける。

「もう、分かってんだろ。本当はあの2人がお似合いだってさ。」
「くぅぅぅ……!そんなの……絶対に認めていませんから。」
「はぁ……あんたもシンとは大差ないね。」
「誰があんな山猿と……!?あ、あんなやつなんか……と。」

次第に声が弱々しくなり、機体の操縦以外は反応を示さなくなるアグネス。そしてこちらのコックピット内でもしばらく静寂が広がり、彼女は改めてヒルダに対して呟き始める。

「信じらないってのは今でも本当ですから。ただずっと一緒にいただけで、あいつがルナマリアの妹を撃っちゃって……傷を舐め合うみたいなったからって。どうしてここまで……」
「男と女が長く一緒にいたら、くっ付くのはごく当たり前のことなんじゃないかね。」
「それだったら、私がヤマト隊長と一緒になれないのはもっとおかしいじゃないですか?もう1年くらいは毎日顔を合わせていたんですよ?」
「いや……キラに関しちゃそれ以上にラクス様と一緒にいたと思うからね。」

アグネスの言葉通り、コンパスが設立されてから彼女が上官であるキラと共に過ごした時間は、彼と総裁であるラクスと共にいる時間よりも遥かに長かった。そしてさらにヒルダは、キラとラクスの関係性について言及する。

「ラクス様とあいつは……本当に一緒にいただけだったみたいだからね。あんたみたいにちょっかいを出すわけでもなく、本当に……一緒にいただけさ。」
「そんなの有り得ないと思うんですけど。1年も2年も一緒にいて、関係が進まないなんて余程興味がないか、わざと避けているかどっちかだと思うんですけど。」
「それ、どっちもキラがあんたに見せてた反応と全く同じだけど?」
「えっ……?」

キラのアグネスに対する反応と、ラクスに対する反応に表面上の差はなかった。キラはアグネスことはおろか、ラクスに対しても距離を置こうとしていたのだとヒルダは感じていた。

「あんたがキラの好みかどうかはともかく、きっとあいつは女を好きになる気持ちなんて失くしていたんだよ。ラクス様はずっとそれを分かってて、それでもキラの傍にいようとしていたんだ。」
「なんですか……それ。そんな虚しいことしてるなんて、やっぱりラクス様はやること成すことが違いますね……あぎゃぁっ!?」

ラクスを侮辱したことで、ヒルダから脇腹に肘打ちを受けるアグネス。それ同時に機体も態勢が崩れて傾くものの、すぐに彼女は自身の身体と共にリカバーするのであった。

「それがラクス様のキラに出来る唯一のことだったんだろう。他に何かしたくても……あんたみたいに誘いたくても、キラがそれを望んじゃいなけりゃやらないし、出来ないんだよ。」
「いたたたた……ずいぶんとラクス様に詳しいじゃないですか。まぁ、ヒルダ隊長の好みな人みたいですから当然かもですけど。」
「そういうアグネスこそ、どうしてああもキラに熱心だったんだい?」
「決まってるじゃないですか。あのラクス様が入れ込む男なら、それに見合う価値があるというもの。つまり私にとっても相応しい男という……ひぎゃぁぁっ!?な、なんでまた……いったぁっ……!」

ラクスに留まらず、キラまでをも貶める言動を見せたアグネスに、ヒルダは再び肘打ちを決める。先程全く同じ個所に、同じ程度の威力で叩き込んでいた。

「私はあんたみたいに浮気性な女は気に入らないし、大嫌いだからね。まったく……人の男を取るのが趣味だとか、本当にいい度胸をしているね。」
「うぅぅぅぅ……私に落とせなかった男なんて、本当に今までいなかったのにぃっ……!」
「キラのことは落とせたんだろ?物理的に。」
「あぐぅっ……!ひ、ヒルダ隊長まであのヤマザルと同じようなことを……!」

アグネスを手荒に扱いながらも、ヒルダは彼女を突き放そうとはしなかった。パイロットとしてシンやルナマリアには遅れを取るものの優秀であり、それ以上にコンパス設立当初からの付き合いであったため、年上としても上官としても見捨てることが出来ずにいた。

「それじゃあ、もうキラのことは好きでもなんでもないんだね。」
「当たり前じゃないですか。あんなずっとウジウジしてて、私に見向きもせずに……ラクス様とも上手くいってない男のことなんて……!」

自分の見込み違いであった男と判断したキラを、アグネスは必死にこき下ろそうとしていた。しかし、ヒルダの目に映る彼女の顔には、口惜しさとも後悔ともとれる表情が浮かんでいるのであった。

「それでも、あいつはあんたのことをそんなに嫌っちゃいないと思うよ。」
「はぁっ!?そんなわけないですよっ!私なんて実際に拒否られていますし!適当なこと言わないでほしいんですけど!?」
「いいや。キラは人を嫌ったりしないよ。あいつは……あの子は誰よりも優しくて、誰よりもお人好しで、ぜーんぶ自分で背負わないと気が済まないやつだからね。」

それがヒルダの敬愛するラクスが愛した、キラ・ヤマトという男であった。

当初ヒルダはキラに対して良い感情を抱いてはいなかった。自らが敬愛するラクスを誑かし、誤った道へと向かわせると敵意さえも抱こうとしていた。しかし、そんな彼女も彼を知っていくことで、ラクスにとっていなくてはならない存在なのであると感じるようになっていた。

「今度あいつと会った時、あんたはどうするつもりなんだい?」
「そんなの……会った時になってみないと、分からないですから。」
「だろうねぇ。でもキラのことだから、あんたが謝っても、怒ってたりしも、きっと自分が悪いって謝ると思うよ。」
「なんでそうなるんですか!?というかヒルダ隊長、あの人のこと詳しすぎませんか!?」
「そりゃあラクス様が認めた男だからね。ま、ラクス様を抜きにしたって、もうあいつの印象が変わることはないよ。」

確固たる信念を有したヒルダの前に、アグネスはそれ以上言い返すことが出来なかった。そしてアグネスは、いずれは訪れるキラとの再会に心をざわつかせ、苦悩しながら機体を目的地へと向かわせるのであった。

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