彼女たちのコズミック・イラ Phase33:羅針盤の赤き守護者

ヒルダ隊長代理の孤軍奮闘シーンとなります。状況は劇場版後半と似ていますが、今回は核攻撃に警戒しながらの母艦防衛という、より厳しい状況であったりも。

ゲルググ単機という非常に心許ない戦況ですが、一応最新鋭機なので連合の量産機相手には無双出来るのかと。種死以上に機体間のパワーバランスが分からないんですよね。

次回からは一転攻勢。そして唯一のオリジナルキャラが盛大に暴れます。


ミレニアムからデュートリオンビームの照射補給を受けた2機のインパルスは、そのまま核攻撃隊の輸送艦へ向かおうとしていた。

『ヒルダさんっ!アグネスを……!』
「ああ、分かってる。ミレニアムからの援護を受けながらどうにか突破してみせるよ!」

ヒルダはルナマリアからの通信へ前向きに応じるものの、状況は悪くなる一方であった。

「あの小娘を助ける前に……私がヤバそうになってきたね、これは……!」

前方には多数の戦艦と無数のモビルスーツ。向かって左からは3隻の特殊艦と正面同様のモビルスーツ部隊。そして、シンとルナマリアが向かった方面からは、核ミサイルが飛来する可能性があるという状況であった。

『ヒルダ隊長。あなたも一度帰投して補給をしなければ。すでにエネルギーが厳しいでしょう。』
「ああ……かなり心許ないね。でも、そんな呑気に補給はさせてくれなそうだよ……!」

コノエ艦長からの助言を有難く受けつつも、それを実行出来る環境にはないと理解しているヒルダ。幸いにもミレニアムの火力を背に受けての戦いであったため、彼女が請け負うのは肉薄するモビルスーツ部隊がほとんどであった。

「取り付こうとする敵機は私が追っ払う。ミレニアムは敵艦の接近、突貫の阻止を。」
『ええ分かっています。あの2人が核攻撃隊を殲滅するまでの辛抱です。』

そうしてミレニアムとヒルダのゲルググが防戦を展開し始めると、遠方からは強烈な光が続々と照らし出される。それは核弾頭が迎撃によって炸裂し、シンとルナマリアが交戦を始めた合図でもあった。

「あいつらが帰ってくる場所は……必ず私が守ってやる。お前たちにくれてやるものなんて、何一つないんだよ!」

そうしてヒルダは補給もままならないまま、迫りくる敵機を撃ち払いミレニアムの防衛に専念する。しかし、その脳裏には先の戦いで命を散らした、戦友たちの顔が浮かぶのであった。

「あんたたちのお迎えなんて、私はまだ御免だよ。まだ、私は……!」

エネルギーが底を尽かない限り、残弾が残る限り、ヒルダは眼前に迫りくる敵機を撃墜し続ける。しかし、四方八方からの攻撃をし続けるのは困難であり、コックピット内には衝撃走り、その度に機体状況へと目を向ける。

「あぐぅっ……!まだだ……まだ終わらないよ……!私は……まだっ……!」

一人の戦士として、ヒルダの心は決して折れることがなかった。例え如何なる絶望的な状況であっても、彼女には生き抜く術を見出そうとする胆力があった。それはまた、自らだけではなく共に戦う者たちに対しても同じであり、彼女は戦場で鬼神の如き奮闘を繰り返すのであった。

「ミレニアムっ!核攻撃隊の迎撃状況は!?」
『出撃したメビウス及び搭載ミサイルは約8割が迎撃。本艦へと飛来するミサイルの全て迎撃をしています。』
「ああ、上々……いや、当然だね。あっちは一発さえ当てれば勝ちなんだからね。」

母艦からの通信に安堵の表情を浮かべるヒルダ。既に残弾は底を尽きており、エネルギーについても限界を迎えようしていた。そうした中、敵機に捕捉されて警告音が響き続けるコックピット内で、一際大きな警告音が響き渡る。

「ミサイルの直撃コース……!まずい、ミレニアムが……!」

ヒルダは眼前の敵を捨ておき、直撃が予測される核ミサイルの方向へと急ぐ。既に武装に供給出来るエネルギーはなく、一発撃てば機体が動かなくなるであろうという状況であった。

「あとは……祈るしかないようだね。」
『ヒルダ隊長!既にエネルギーが限界です!すぐに帰投を……!』
「ああ、一発であれを仕留めたら、すぐに戻るよ。」

それが困難であることを承知の上で、ヒルダはビームライフルの照準を飛来するミサイルに合わせる。

「こいつはたぶん、ルナマリアに内緒で坊主と関係を持った罰なんだろうね。」

自らが潮時であることを悟り、満ち足りた表情を浮かべるヒルダ。悔いはなく終わることが出来るのだと自らに言い聞かせると、彼女はライフルの発射ボタンを押して、核ミサイルの弾頭を正確に打ち抜くのであった。

そして、迎撃の成功と同時にコックピット内には、機体のエネルギーが底を尽いた警告音が響き渡る。そうしたゲルググのもとに、なおも無数の敵機が迫るのであった。

「ルナマリアのことは私より……もっと優しく扱いなよ……シン。」

一時の情に流されたとはいえ、心を許した男のことを想いながら果てようとするヒルダ。そして彼女は、先に散っていた戦友たちのもとへ旅立とうするのであった。

エネルギーが尽きたヒルダのゲルググを落とそうと肉薄する敵機。だがそれらの機体に無数の銃弾、そしてミサイルの雨が降り注ぎ、ゲルググは損壊することなく宇宙空間に流れようとしていた。

「んぅっ……!今の攻撃は……ミレニアムのもの……じゃない?」

死を覚悟したヒルダであったが、自らの理解が及ばないまま生き延びることが出来ていた。そして、彼女は辛うじて稼働していたメインカメラで周囲を見渡すと、1機のモビルスーツが飛来してくる。

『たったの1機でよく耐えたな、お嬢さん。』
「お、お嬢さん?」

ヒルダを救ったその機体。かつてザフトでは大敵、難敵と恐れられ、討ったものが勲章を授与されたほどのモビルスーツ。トリコロールカラーが誰の印象にも残りやすい、ストライクと称された機体。

その機体からは軽口を叩く男の声が響き渡り、背部にはオレンジ色の見慣れない兵装が装着され、そこからワイヤーで接続された4基の機銃がさらに迫りくる敵機を制圧していくのであった。

『コスモグラスパー隊、ミレニアムに敵機を取り付かせるな!あとそれから、敵艦との射線軸上には絶対入るなよ!』

ストライクから聞こえた声と共に複数の現れる無数の宇宙用戦闘機。それらには大型の砲台が備わっており、高い機動力を誇りながらも絶大な火力を持ち、無数の敵機を撃破していくのであった。

『さぁ!あんたは今のうちに補給を!ここは俺たちに任せてくれ。』
「あ、ああ……でも、まさかその声。もしかして、あんたはアークエンジェルの……!」

見慣れない装備のストライクに誘導され、ミレニアムのハッチへと向かうヒルダ機。その最中で彼女はようやく、ストライクから聞こえてきた声の主が何者かを思い出す。それと同時に、ゲルググとミレニアムに対して、コンパスの全員がよく知る女性指揮官の声が聞こえてくる。

『こちら地球連合軍第8艦隊所属、アークエンジェル級3番艦セラフィムです。艦長マリュー・ラミアス以下、コンパス総裁ラクス・クライン氏の要請により、ミレニアムの支援を開始します。』

かつて不沈艦と称され、2度の大戦を経験した大天使の名を冠した戦艦と瓜二つの艦。しかしその外観は全体が燃えるように赤みがかっており、熾天使と名乗った船の艦長は美しくも毅然とした声を戦場に響かせるのであった。

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