彼女たちのコズミック・イラ Phase29:旧ハイバル研究所

シンとヒルダがファウンデーション、そしてデュランダル議長と女王アウラの足跡を辿る回となります。

メンデル自体「まだ厄ネタが眠っているのでは?」と疑われる程度には、コズミック・イラのネタ宝庫だったりもしますからね。本編も外伝も大体ここが関わっていますので。

次回からは戦闘パートです。バトル描写は一番苦手なカテゴリです。でも好きなモビルスーツを出せるので書いちゃいました。


コロニーメンデル内。荒廃した内部でも比較的規模が大きな建物。アウラ・マハ・ハイバル、そしてギルバート・デュランダルが遺伝子研究を行っていた研究所に、2機のワークスジンは到着していた。

「調査は初めてじゃないんですよね?デュランダル前議長の経歴を調べるために来たって聞きましたけど。」
『ああ。だが当時は知っての通り、私たちクライン派は潜伏中で、当時はデュランダル議長がプラントの権力を掌握していたから、大規模な調査は出来ず仕舞いだったんだよ。』

当時のザフト軍の目を掻い潜りながら調査することは困難であり、実際にクライン派は調査へと赴いた際、その支援母体であるターミナル共々危機に陥っていた。

そのため、こうしてモビルスーツを運用してまでの調査は初めてであり、未確認の資料や情報が残っている可能性は高いのであった。

「建物は所々に損壊がありますけど、モビルスーツで瓦礫を退かせば奥にまで入れそうですね。」
『そういうことだ。ここから先は二手に分かれるよ。私は機体から降りて研究所内を徒歩で探索、通れない箇所に機体を誘導する。そっちからも1人が降りて、私と一緒に……』
「それじゃあ、私が操作しますのでシンがヒルダさんについて行ってもらいます。」
「えぇっ!?なんでそんな勝手に……」
「あんたが機体をオモチャにして、アグネスと喧嘩をしないようにするためよ。」
「そんなことするわけないだろ!?」
『そんなことするわけないでしょ!?』

ものの見事にコックピット内のシンと、通信機越しのアグネスが発した否定の言葉がシンクロする。この体たらくであったため、ヒルダはルナマリアの提案を受け容れ、シンと彼女は先行して研究所内へと足を踏み入れるのであった。

障害となるものをモビルスーツで排除しつつ、2人の侵入要員と2機の機体は研究所の奥へと進んでいく。

「かなり広い場所だね。単なる研究だけでなく、まるで生活をしていたかのような……」
「子供が遊んだり、子育てに必要なものまで確認出来ますね。ということが、本当にここがファウンデーションにいたあいつらの……」

破壊や隠滅の痕跡は数多く見受けられたものの、そうした中でも研究の残骸は足を踏み入れたものたちに過去を語ろうとしており、シンとヒルダはそれらを肉眼で確かめているのであった。

「ん?あの機械は……」
「シ……坊主、どうかしたのかい?」

何かを発見したシンがヒルダに先んじて、無造作に横たわった医療用とも見て取れる椅子を発見する。損傷は激しかったものの、彼はそれと似たものをかつて目にしていたのであった。

「これって確か……連合の研究所にあったものと同じ……!」
「脳波を測定するための機材みたいだね。サイズから推測すると……おそらく子供1人が座るのやっとって感じか。」
「まさか……議長も連合のやつらと同じことを……!?」
「そう悪い方へとばかり考えるんじゃないよ。あのアコードって連中を見る限り、連合の強化人間のように人道人権を無視するほどの行為はされていないようだったし、単純に調査研究ために使っていた可能性だって十分にあるだろ?」

シンは動揺を隠せずにいた。かつて自らが信頼を置いていた人間が持つ裏の顔。例え一時であっても、自らの全てを委ねた者の得体の知れなさに、彼は不安を抱くのであった。

「大丈夫かい、シン?もし辛いようだったら、アグネスかルナマリアと交代をしてもらうけど。」
「……大丈夫です。俺も、知らなくちゃダメなんだと思います。確かに議長は間違った道を選んだのかもしれない。でも、最初から間違っていたわけじゃないとも思うんです。」

彼の目に迷いはなかった。かつての自分を見つめ、その過去の自分が信じた者の正体を知ることに躊躇いはなかった。

そしてシンとヒルダは、2機のモビルスーツを誘導しながら、さらに研究所の探索を続けるのであった。

「残っている区画は、もうここだけみたいだね。」
「はい。今のところ、ファウンデーションに繋がる資料や情報はほとんど見当たらなかったですけど……」

施設の大半を調べ尽くし、残された箇所はごく僅かとなっていた。そして、その瓦礫で塞がれていた最後の区画に調査が入ろうとしていた。

「それじゃ、もういっちょお願いするよ。」
『了解しました。』
『はーい了解。はぁ……やっと帰れるのかしら。』

ルナマリアとアグネスが操作する2機のジンが、扉を遮る瓦礫を速やかに撤去していく。そして、閉ざされていた部屋の扉を機体が強引に開けると、その開けた空間にシンとヒルダが足を踏み入れるのであった。

「どうやらここが、この研究所の責任者の部屋みたいだね。」
「広さの割には機材とかはほとんどなくて……重要なものばかりが置いてあったんでしょうか。」
「その可能性は十分にありそうだね。でもまぁ……ファウンデーションやアコードに関しての情報が残っている気配は……」

そうしてヒルダが周囲を見回していると、室内の一角に物が散乱しているのを見つける。そして、彼女がそこに近付き一枚の写真立てを手に取って見ると、驚きの声を漏らすのであった。

「なぁっ……これは……!?」
「ヒルダさん!?どうしたんですか!?」

絶句するヒルダのもとにシンが駆け寄る。そして彼女が手に取って見ていた写真を覗き込む。そこに写っていたものに、シンもまた驚きの声を上げるのであった。

「えぇぇっ!?こ、これって……まさか……!?」

その写真に写っていたのは、金髪の美しい妙齢の女性、黒髪の少年、そして鮮やかなピンク色の髪が際立つ、金髪の女性よりも美しい女性の3人であった。

「確かのこの金髪の女って……あのファウンデーションの女王で……!この男の子は……!?」
「ああ、デュランダルにそっくりだね。そして、このもう一人の女性は……」

シンもヒルダもすぐに理解した。このあどけなさが残る少年と共にいる2人の女性。一人はファウンデーション王国の女王、アウラ・マハ・ハイバル。そして、もう一人のピンク髪の女性は、2人がよく知る人物に似ているのであった。

「ラクス様……!」
「でも、アウラと一緒に写っているってことは、ラクスさんなわけがないし、やっぱりこれって……」
「ああ、母親だね。アウラとだけ写った写真なら、あの坊主が持ってきたものの中にも含まれていた。でも……」

女王アウラ、デュランダル前議長、そしてラクスの母親。その3人が仲睦まじく写る一枚の写真は、それぞれの関係を知るには十分であった。そしてさらに、シンはその写真が置かれていた周囲を探索する。

「ヒルダさん……!これ、全部ラクスさんの母親の私物みたいで……」
「この辺りに散らばっているものが……全部……んっ……?」

真実ではなくとも、核心に迫りつつあったシンとヒルダ。そして彼女は、物が散乱した中に刻まれるように書かれた一文を見つける。

「掠れていて読みづらいね……んぅぅ?自由を……えーっと……」

そうしてヒルダが殴り書きの一文を読もうとした矢先、2機のジンから通信が入る。

『ヒルダ隊長!ミレニアムから緊急の帰投命令です!』
「なにっ……!?まさか、私たちの行動に反応したどこかの連中が……!」
『えぇぇっ!?な、何よ……ただのコロニー調査じゃなかったのぉっ!?』

ルナマリアが冷静にヒルダに艦からの命令を伝える一方、コックピット内で狼狽える声を上げるアグネス。ヒルダはすぐにシンに顔を向けると、緊張感に満ちた声で命令を下す。

「調査は一時中断!シンはルナマリアと共に帰投、私もアグネスと急ぎミレニアムに帰還する!」
「了解!ルナ、ハッチを開けてくれ!」
「ほらアグネスっ!あんたもボーっとしてないでコックピット開けな!」
『あぁぁっ!は、はいっ、ただいまっ!』

両人は速やかに各々が乗ってきた機体へと戻り、周囲に被害が出ないよう慎重に研究所の建屋から離脱をする。そして、ヒルダは通信機越しにシンとルナマリアへと声を上げる。

「全員気を引き締めな。この端的かつ急ぎの帰投命令……間違いなく、荒事が待っているよ……!」

詳細は把握出来ていなかったものの、決して安穏としていられる状況ではないことだけは理解出来た。そして各員は、戦士の顔付きとなってミレニアムへと戻るのであった。

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