彼女たちのコズミック・イラ Phase18:動き出す運命

前半はプラント帰還後、研究者時代のギルの活動風景です。ゲストととして仮面のあの人が出てきます。劇場版のラスボスもCV.関俊彦かと思ったけど、そんなことはなかったんだぜ。金髪だったけど。

後半、というかラストはピンク髪のほんわか系お嬢様が追悼式典へ向かうシーンで締めです。あんな可愛い子が世界の中心になるわけないよなぁっ!?

次回は閑話です。考察ではありません。でもいっぱい考えて書きました。


C.E.68:プラント内研究室

椅子に座り、デスクに向かっていたギルは、改めてアウラが残したデスティニープランの内容を読み返していた。

「出生率の低下改善、及びその公表を行い、全ての人々に対して遺伝子改良の技術が絶対的に安心安全なものだと提示する……か。」

アウラの研究が始まってから20年近くの月日が流れていた。しかし、彼女がパトリック・ザラから依頼された第2世代以降のコーディネイター出生率低下という問題は解決されず、未だその事実が地球側に公表されることもないのであった。

「確かに経済面と安全性を担保した技術であれば、大多数の人々はコーディネイターとなることを望むとは思うが……」

ナチュラルと呼ばれる人々がコーディネイターを憎む理由。それは彼らがコーディネイターとして生を受けられなかったこと、つまりは嫉妬心から芽生えるものが大いに存在していた。

コーディネイターではなく、真に遺伝子改良を憎む人間はブルーコスモスの中でもそう多くはなく、知れば誰もが望むような存在となるのが遺伝子調整とコーディネイターの技術である、そうデスティニープランを作り上げたアウラは結論付けていた。

「そう簡単に上手くいくものではないだろう。全人類がコーディネイターとなれば、ナチュラルと呼ばれる人々との争いは消えるかもしれない。しかし……」

ギルも、そしてアウラも、それで争いがなくなるとは考えていなかった。例えナチュラル、コーディネイターという括りが消滅しようとも、その次は訪れるのは全ての人間がコーディネイターとなった世界で争いが起こるのだと。

「そもそも有史以来、人類と戦争は不可分な存在として歴史を作り上げていたのだ。要因は自然発生的、人為作為的なものと様々だが、その全ての根幹に存在するのは、人が人であるから……か。」

人が持って生まれた可能性という存在。その無限に広がる分かれ道を選ぼうとするために、人には自由という権利が与えられる。そして、その自由を行使した果てに、人々は悲劇を繰り返しているのであった。

「アウラ……あなたの言っていることは正しかったようだ。ずいぶんと厳しいことを言ってしまったと思うが……許してくれるかな。」

そう言ってギルが見つめた先に置かれていたのは、かつての恋人であったタリアの写った写真。そして、幼い頃の彼が共に過ごしてきたアウラとクライン博士の3人が仲睦まじく写った2枚の写真が飾られているのであった。

「あなたの言葉通り、私は私のやりたいように計画を進めさせてもらう。それが、アウラが私に与えた自由なのだからな。」

古びた計画のデータファイルを眺め、物思いに耽っていたギル。そうした彼の研究室に、一人の客人が訪れる。

「お久しぶりですな、デュランダル博士。」
「ああ、ラウか。本当に久しぶりだな。ん?その格好は……」

研究室のドアを開けて入ってきた一人の青年。美しく輝く金髪と、女性と見紛うほどに整った顔立ち。そして、年不相応に老練さ感じさせる男でもあった。

「黄道同盟……いや、今はザフトか。まさか軍人の道を選ぶとはね。そして、当然のようにエリートの赤、か。」
「軍に身を置いている方が何か都合良いですからね。とりわけあなたも信頼を得ているザラ国防委員長は、優秀な私のことも目にかけてくれていますよ。」
「そうか、ザラ氏の信を得るほどに……か。」

ラウと呼ばれる青年の言葉に、ギルは愉快そうな笑みを浮かべる。しかしすぐに表情を戻すと、今度は深刻な顔となりモニターに表示した情報を見つめる。

「まさか国防委員長のご子息が、彼女の娘と結ばれることになろうとは。」
「ほう……相変わらず研究に熱心なようだな、ギル。」
「熱心なわけではない。どうすれば勝ち筋が見えるかを考えているのだ。」

国防委員長パトリック・ザラの一人息子、アスラン・ザラ、そのアスランが近々婚姻関係を結ぶとプラント内では話題となっていた。

「その相手がまさか……クライン議長の娘になるとはな。」
「ラクス・クライン。プラントの歌姫として今後も活躍が期待されるシーゲル氏の愛娘。素晴らしい歌声をしている。」
「ラウ、君は彼女のファンなのか。」
「ファンというほどでもないが、好きなことに違いはないさ。とても平和的で、今の時代には似付かわしくないとも思うが。」

苦々しい表情となってラクスを見つめるギルと、そうしたギルと画面に映し出されたラクスを交互に見つめるラウ。そして彼はさらにギルに対して口を開く。

「きっと彼女のような人間が増えれば、世界はよい方向へと向かうだろう。」
「まるでそうした方向へと行かないと言いたいようだな。」
「無論だ。彼女一人で世界を変えることなど出来ようはずもなかろう。ギル、君は彼女が気に入らないのかね。」
「私は……」

遠い日の記憶。ギルが初めて抱きかかえた小さな命。ラクスと呼ばれた赤子が、彼に命の重さを教えてくれた。

そしてまた、そのラクスの存在が彼女の母親、アウラ、そしてギル自身を大きく狂わせてもいた。母性から芽生えた可能性という名の不確定要素。そしてラクスは生まれながらにして自由を与えられ、美しい歌声を世界に響かせているのであった。

「ザラ氏の息子をこちらへ引き入れることは容易だとしても、彼女は……ラクス・クラインはどうするべきか。」
「ずいぶんと怖い顔をしているな。あなたの計画に彼女は必要不可欠だったのではないかね。」
「不確定要素を計画に組み込むほど、私は研究者として愚かではないよ。現にそうした失敗を、今まで嫌というほど見てきたのだから。」
「では、消えてもらうしかないのだろう。あなたほどの才能があれば、代わりを用意することくらい容易いだろうしな。」
「そう簡単に言ってくれるな。私とて、まだ人並みの感情を持ち合わせているのだから。」

そう棘のある言い方をするラウに苦言を呈しつつ、ギルは再び飾ってあった2枚の写真を見つめる。それらの写真を見たラウは、不思議そうに声を上げる。

「ほう……あのメンデルの中だというのに、ずいぶんと幸せそうな顔で写っているのだな。」
「ああ……ラウ、君には申し訳ないと思うが、あの時の私は確かに幸せだったよ。少なくとも……いまよりは遥かにね。」

決して戻ることがない、遠い日の記憶を呼び起こして瞑目をするギル。しばらくすると彼は、目を開いて、傍にいたラウに向かって声を上げる。

「私はこれからメサイアへ向かうが、一緒に来るかね。」
「メサイア?聞き慣れない名前だな。中々に大仰な名前でもあるし、一体どんな場所なのかな。」
「資源採掘を終えた小惑星さ。メンデルがあの惨状となったからと、国防委員長が新たな研究施設を作る拠点として、私に譲ってくれたのだよ。」
「ずいぶんと気前がいいのだな。それにしても小惑星とは……あなたも一国一城の主となって、戦争でもしたいのかと思ったよ。」
「私は戦争も政治も好かんよ。だが計画に必要となるのであれば、関わることだってやぶさかではない。」

あくまでも目的を達成するための手段として、ギルは自らが忌避するものには手を出す覚悟をラウへと示す。そして彼はおもむろに立ち上がると、救世主の名を冠した自身の新たな拠点にラウを連れて向かうとする。

「そういえば、よくラウ・ラ・フラガという名前でザフトへの入隊が出来たな。フラガという名を聞けば、さすがにプラントでも疑念を抱く者がいるとは思ったが。」
「もちろん名前は変えているさ。フラガなどという穢れた家名、いつまでも抱えているわけにもいかないからな。」
「では、今の君は一体誰なのだ。」

ギルとラウは研究室を出て、共に歩きながら話を続ける。そして、そう問いかけたギルにラウは改めて自己紹介をする。

「私の名前はラウ・ル・クルーゼ。ザラ国防委員長閣下の剣となり、プラントに住まうコーディネイターの敵を討ち払う軍人だ。まぁ、私をラウと呼ぶあなたには知る必要もないと思うがな、ギルバート・デュランダル博士。」

救いと滅びは表裏一体。差し出した救いの手が振り払われるのであれば、滅ぼせばいい。彼らは世界に自由を与えていた。救いを選ぶのか、滅びへと向かうのか、そうしたギルの問いかけに対して、まもなく世界はその答えを示そうとしているのであった。

C.E.71:プラント首都・アプリリウス

発進前のシャトル傍で娘を見送ろうとする初老の男性。彼はタラップを昇りプラントから旅立とうする娘に言葉を掛ける。

「本当に気を付けてくれラクス。お前が必ず無事で帰ってくることだけが私の望みだ。」
「心配が過ぎますわ父上。別にわたくしは戦いの場へと赴くわけではないのですから。」

血のバレンタインと呼ばれる惨劇が起きた跡地、ユニウスセブンへの追悼式典へ向かうシーゲル・クライン議長の娘、ラクス・クライン。長らく男手一人で育ててきた愛娘の遠出に、シーゲルは父親として期待と不安を抱いていた。

「それもそうなのだが、どうしても母さんのことがあるからな。こうして離れるとなると、心配で堪らんのだよ。」
「もう……ふふっ!いい加減、子離れの準備でもしておいください。わたくしはもう、婚約までを結んでしまっているのですから。」

鮮やかなピンクの長髪が美しい、プラントの歌姫と称されるラクス。彼女はおおよそ政治家らしくない父親の振る舞いを、笑みを浮かべて窘める。そして、自らが指につけた銀の指輪を見つめて、力強く声を上げる。

「きっと大丈夫ですわ。わたくしは……父上だけでなく、母にも守っていただいているのですから。」

幼い頃の朧げな記憶の中で、笑みを浮かべてラクスに語り掛ける彼女の母。受け取ったものは決して多くなかったものの、それでもラクスは確かに母親の存在を強く感じているのであった。

「では父上、行ってまいりますね。」

そうして父親に一瞥をすると、ラクスはユニウスセブンへと向かうシャトルに乗り込む。この時ラクスはまだ知らなかった。自らの運命を知る者たちのことを。そして、自ら運命を変える出会いが迫っていることも。彼女はまだ、何も知らないのであった。

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